そういう訳ではないと言いたい時がある
外に出ろと言うので出る。
確か、冒険者ギルド内は争い禁止――みたいなルールがあったはずなので、多分その関係だろう。
外に出て行こうとする俺を心配そうに見ている受付嬢に、問題ないと軽く手を振って出る。
心配無用。
「はっ! 随分と勇ましいこって! 余所者のガキがここで通用しないことを教えてやるよ!」
酔いから少し醒めたのか、最初に俺に絡んできたヤツが外に出て対峙するとそう言ってきた。
何事だと人が集まってくる。
驚きというか、興味本位な視線が強い。
慣れている様子もあるし、こういう荒事はよく起こるのかもしれない。
「教えてやると言いつつ、こっちは一人でそっちは複数人のようだが?」
パーティ仲間であろう、男性五人が俺と対峙していた。
一人に対して複数人であたるのは、寧ろそっちの方が通用しないように見えると思うが?
俺がそう指摘すると、向こうは笑い出す。
「はははっ! 居る居る! ソロのヤツに限って、そうやって人数を指摘するのが。馬鹿なのか? 冒険者としてパーティを組むのは当たり前のことなのによ! 別にいいぜ、仲間を連れて来てもな! 連れてこれるんならよ!」
笑い出す五人組。
じゃあ、さっき知り合った「堅牢なる鋼」を……と思ったが、別に必要ないかとやめた。
俺一人で充分だ。
「それともアレか? 仲間になってくれるヤツも居ない、寂しいヤツなのか? ギャハハハッ!」
さらに笑い出す五人組。
良し。悪意には悪意をもって返そう。
あと、言い方から、これまでに何度も似たようなことをやっていそうだ。
……多少痛めつけても文句は出ないだろう。
それに、俺は今のところソロなのは、下手をすると俺の魔法の被害に遭わせてしまう可能性があるからであって、決して仲間とか友達が居ない訳ではない。
………………訳ではないのだ!
いや、冷静にいこう。
わざわざやり合うのは、練習を兼ねているのであって、一瞬で終わらせては台無しだ。
深呼吸して怒りを外へ。
その代わりに――身体強化魔法。発動。
ダンジョン最下層で数日過ごした間に、コツのようなモノを聞いておいたのだ。
魔力をどのように流せばいいか、とか。
それと前回のはやっぱり流し過ぎだった。
今の体の状態に耐えられる正確な量を流さないといけない。
いつも魔法行使時よりも繊細な魔力操作だが、その練習も兼ねている。
薄く……膜のように……魔力を流して……纏わせる……。
よし――と思った瞬間、絡んできたヤツが俺に向かって斧を振り上げていた。
ん? いつの間にか始まっていたようだ。
しかし、問題はない。
前回の時のような凄まじさは感じられないが、これで充分だ。
振り下ろされる斧を避けて、竜杖で相手の足を払い、地面に落ちる前に蹴り飛ばす。
次いでナイフが二本投げられるが、空中で掴み取って投げ返す。
投げ返した時の速度をさらに増したのはおまけだ。
別のが槍を持って突進して突いてきたので、竜杖で槍の穂先を受けとめる。
さらに何度も突いてきたが、すべて同じように受けとめ、最後はくるっと回りながら竜杖で払い飛ばす。
相手は槍で防ごうとしたが、その槍も砕けたので意味はなかった。
寧ろ、刺さった破片が痛そうだ。
大盾を構えた男性に守られている男性から、魔法が放たれる。
火の玉三つくらい。無意味。
直に掴んで投げ返す。
太盾を持った男性はその大盾で防ぐが、魔法を使った方は横っ飛びで回避。
多分、横っ飛びしなくても、大盾で当たらなかったと思う。
本能だろうか。
一気に距離を詰め、火属性の魔力を手のひらに集めて大盾に触れる。
どろり……と溶けてなくなる大盾の部分から、顔面蒼白になっている相手の顔が見えて、俺はニッコリと笑みを返す。
大盾を捨てて逃げようとしたので、大盾を返してあげようと投げる。
見事命中して、相手は気絶した。
魔法を放った男性は、俺が近付こうとしただけで泡を吹いて気絶する。
もう相手は居ないだろうか? と周囲を見れば、ワッ! と歓声が上がった。
なんだかんだと、最初の方に倒したのも受けたダメージが大きかったのか、気絶しているようだ。
だが、これで終わりではない。
終わらせない。
俺と敵対するということがどういうことか、その身に刻んでやろう。
これは、冒険者の国・トゥーラに向かうと言った際に、火のヒストさんからこれを使っておけと記憶の中から引っ張り出された魔法だ。
「『赤燃 森を草原を 猛火で焼き尽くし 果ては生命無き荒野 死神宿手』」
これまでの積み重ねによって、魔法行使の成功率というか正確性は上がっている。
今回は上手くいったようだ。
気絶している男たちの頭部を掴んで燃やしていく。
――毛と毛根を。
しぶとければまた生えてくるかもしれないが、それは生命力次第。
といっても、すべてを燃やす尽くす訳ではない。
「バカ」とか「マヌケ」とか、残った部分で文字が見えるようにした。
これで反省することだろう。




