エピローグ 5 終
さらに一か月ほど経った。
念のために、竜たちにも協力してもらって可能な限り調べてみたが、邪神の遺物とも言える巨大な黒い球は各地から完全になくなった。
まだ各国の復興と支援は続いているので平和と言うにはまだ早いかもしれないが、少なくとも邪神による魔物大発生が終わって一息吐いたのは間違いない。
それを証明するように、もう竜たちは一部を除いて各地を飛び回ってはおらず、竜山へと戻っていっている。
竜たちの一部――竜自身が気に入れば、そこに姿を現わしてはいるらしい。
例を挙げれば、ミドナカル王国の王都――キンのところにシーさんがよく来ているそうだ。
なので、関係が続いているところはそのまま続いている感じである。
そんな中で、竜たちと同じく各地を飛び回っていた無のグラノさんたちは――。
「……ふむ。やはり、ここが一番だな。というか、もう外に出るのは面倒だし、偶にでいいな」
「「「「「「激しく同意」」」」」」
ラビンさんのダンジョン・最下層でのんびりと過ごしていた。
「装着式戦闘用外殻」は脱ぎ捨て――ラビンさんが回収して改良中――いつもの見慣れた骸骨姿を晒している。
「……いや、無のグラノさんたちはそのまま『装着式戦闘用外殻』を着て、外で生活すると思っていたよ。少なくとも、飽きるまでは」
思っていたことを口にする。
漸く手にした体な訳だし、久し振りの外を堪能するのかと思っていた。
それがまさか、巨大な黒い球は片付いたと判断されると同時に各地を飛び回るのをやめて、ラビンさんのダンジョン・最下層に戻ってきたのである。
「まあ、ワシらは既に死んだ身だからな。緊急時であればまだしも、平時であれば何かしらがなければ外の世界に干渉しようとは思わない。それに、もう既にここがワシらにとっては家だ。帰るべき場所なのだよ。外出して家に帰ってきた。それだけのことだ」
無のグラノさんたちがそう言い、他の皆もその通りだと頷く。
いや、まあ、俺も近い感情を抱いているのでわからないこともないが……でも、一人だけ。
「まあ、アンススさんは会わないと決めているし、他の皆も長い年月が経っているからわかるけど、レイさんはそれでいいのか? ロアさんとルウさんと一緒に居なくて」
「……問題ない。二人もわかってくれている。それに、これまでとは違って、会いたくなったら『装着式戦闘用外殻』を着て会える。二人がくることだってできる。だから大丈夫」
「まあ、納得しているのなら……いいか」
「……それと、『装着式戦闘用外殻』の長時間着用は今のところ遠慮したい」
「え? なんで?」
「……蒸れるから」
……ああ、そういえば、アレって空気穴とかなかったような……いや、空気自体は口が開くから気にすることはないけれど、快適性というか蒸れとかそういうのは着るのが骸骨だし、必要ないからってわざわざ求めていなかったと思う。
「……それ、重要なのか?」
「……超重要」
光のレイさんが断言する。
すると――。
「そうだな。だが、俺としては完成した肉体というのが駄目だ。あれでは筋肉の育て甲斐がない」
火のヒストさんが腕を組んで頷きながら言い――。
「僕も快適性……いや、通気性かな? 風の流れを感じられないのはちょっと……」
「一度今の姿まで見られたせいか、笑われるんですよね……「装着式戦闘用外殻」を着ると……ニーグに」
「自分は見せたい相手も居ませんので」
「仮面を付けているとはいえ、知っている人に会うかもしれないと思うと面倒だし、私のことを知っている人が居なくなってからじゃないと怖くて普段から使えないわ」
他の皆も口々にそう言う。
不評……という訳ではないが、だからラビンさんが改良中なのか。
急造だったし、本当の意味での完成を目指しているのかもしれない。
ちなみに、ニーグたち「王雷」がこの場に居ないのは、笑われた水のレイさんが叩き出した――ということではなく、三柱の国・ラピスラはもう自分たちが居なくても大丈夫だと判断してラビンさんのダンジョンの攻略を再開――でもなく、今はアブさんのダンジョンの方に居る。
自分のダンジョンに足りないモノは何か? と冒険者の意見を聞きたいらしく、アブさんがお願いしたのだ。
それに「青い空と海」も同行している。
各地が落ち着いたからこそ、できることだ。
なので、アブさんは今ここには居ない。
合わせて、母さんとリノファもここには今居らず、後処理や今後のことでテレイルのところで手伝いを継続中だ。
でもまあ、母さんとはちょいちょい顔を合わせているので寂しいとかはない。
ちなみに、カーくんも今ここには居ない。
竜の町の方にカーくんの奥さんと子供が来ているそうで、どうして連絡を出さなかったとか、「神性」とは? みたいな感じで説明を求められたからなのだが……その時、カーくんは俺を連れて行こうとした。
共に説明を、ではなく、なんか盾として使いたいと。
真竜ノ杖の障壁なら一か八か耐えられるかもしれないとか言っていたが……説明に行くんだよな?
また会えることを切に願う。
そんな風に周囲のことを考えていると、無のグラノさんが声をかけてきた。
「それで、アルムはどうするのだ? これからのこと。ワシらとここでしばらくのんびりとするか? 魔法の扱いについても色々と学びたいだろうし」
「それも魅力的というか必要なこととは思うが、その前に行きたいところがあるから、そこに行ってみようかと思っている」
「行きたいところ?」
無のグラノさんたちが、どこだ? と首を傾げる。
苦笑が浮かぶ。
無のグラノさんたちに関係するからだ。
「どこというか全体的に、かな? ちょっと面白いことになっているみたいで」
面白いこと? どういうこと? と無のグラノさんたちが揃って首を傾げた。
「いや、俺も少し前に母さんから聞いたんだけど――」
そう前置きして話すのは、今各地で大いに盛り上がっている、とある人たちの話。
その人たちは各地に現れ、多彩な魔法で多くの人たちを救い――今では全員が「賢者」と呼ばれている。
「「「「「「「……け、賢者?」」」」」」」
「そう。賢者。グラノさんたちのことだよ」
ちなみに、俺はそう呼ばれていない。
貢献が足りないのだろうか……邪神、倒したんだけどなあ……。
「それで、皆が最初に現れた場所は『聖地』と言われて盛り上がっているみたいなんで、また各地を巡ってみようと思っている。なんかこういうのを『巡礼』って言うらしい。それをしてみようかと」
続けてそう言うと、無のグラノさんたちは悶え出したり、顔を両手で覆ったりと、思い思いの反応をする。
総じて、恥ずかしそう、だろうか。
その様子を見ながら、あえて口にしなかったことを思う。
無のグラノさんたちが賢者と呼ばれるようになったことで思い出した……いや、思い当たった、だろうか。
邪神の僕である黒ローブの杖を使っていたヤツが、「『賢者』となり得る存在は消す」みたいなことを言っていた。
それで、邪神の僕は不死のようなモノだし、長く活動していたかもしれない。
つまり、無のグラノさんたちの死亡の裏に、邪神の僕の画策があったのではないか? と俺は考えている。
といっても、さすがにもう証拠の類はないだろうが。
それでも、何か見つかればな、とは思っている。
その辺りのことに確信が持てるまで言うつもりはない。
今はまだ自己満足でしかないからだ。
だから、何か見つかったら――と一旦この考えは引っ込めて、別のことを口にする。
「だから、多分だけど、皆を模した土産もあるだろうから、買ってこようか?」
「「「「「「「それはやめて!」」」」」」」
しっかりと否定された。
俺は笑いながら言う。
「はいはい。買っても見せないようにするよ」
「「「「「「「買わないということで、どうか!」」」」」」」
「それは無理。だって、ラビンさんに頼まれているし」
「「「「「「「既に手遅れだった!」」」」」」」
「ははは。それじゃあ、行ってくる!」
「「「「「「「いってらっしゃい!」」」」」」」
真竜ノ杖が出発だ、と俺の周囲のふわりと舞ったあと、転移魔法陣からラビンさんの隠れ家へ。
これから行うことに名称を付けるなら、賢者の現れた場所を巡礼する――「賢者巡礼」ってことかな?
そんなことを考えながらラビンさんの隠れ家から出て、真竜ノ杖と共に空へと舞い上がって飛んでいく。
終わり。
これにて終わりです。
まずは、ここまでお付き合いいただき、誠にありがとうございます。
ここまで読んでいただいたこと、感謝しかありません。
少しでも楽しんでいただけたのなら、より嬉しいです。
これもまたここまで長くなる予定ではなかったのですが……書いている内にこう……。
ですが、自分の未熟さを知ると共に、しっかりと自分の糧になったと思います。
ただ、次に活かせるように、しっかりと自分の身になってくれればいいのですが……。
そんな訳で、次に書きたいモノを既に考えて、少しずつ進めているのですが、本当に少しずつでまだまだ投稿する段階ではなく……少し間が空きます……ストックも作っておきたいので。
できるだけ早く、投稿を始めたいと思っています。
また、その時にお付き合いいただけると幸いです。
ありがとうございました。




