エピローグ 1
邪神を倒してから数日が経った。
姿も見えないし、気配も感じないし――邪神は倒した……滅ぼしたと言えると思う。
ただ、それでも不安を抱いてしまうのは、やはり邪神だからだろうか。
まあ、「神性」はなくなった訳だし、正確には邪神ではなく邪なる何かでしかないが、力はそのままだったので復活もあるかもしれない、と考えてしまうのは仕方ない。
そのため、二度も魔力をほぼほぼ使い切って疲労困憊な俺、「神性」を使いこなしていた疑惑はあるが、それでも慣れぬ力であったことは確かなようで見た目以上に疲労していたアブさん、カーくんは、休息のためにラビンさんのダンジョン・最下層に戻っても、いつでも出られるように常に警戒していたのだが――、
「……そうやっていつまで警戒しているつもりなの? というか、警戒し続けている人たちが側に居る状態というボクのことも考えてくれる? 休めないから。なんか落ち着かないから。……は? 邪神? いや、倒したでしょ。間違いなく倒しているから。復活もないから」
ラビンさんがそう断言して、そこで漸くホッと安堵した。
ここまで警戒していたのには理由がある。
邪神を倒したあとも各地にある巨大な黒い球は消えておらず、規模は縮小されて散発的になったが、魔物大発生が続いていたためだ。
だから、邪神復活もあり得るのでは? と考えてしまっていたのである。
仕方ない。仕方ない。
という訳で、各地の巨大な黒い球は残っているのだが、ここ数日でわかったのは魔物を出す度に巨大な黒い球は小さくなっていっているということである。
邪神が居なくなったことで、残った力を使い果たしていっている感じだろうか。
使い切れば消滅する……のかもしれない。
其れに関してはまだ確認できていないが、間違っていないと思う。
各地が落ち着くまで、もう少し時間がかかりそうだ。
けれど、魔物大発生に対する各地の被害は、聞いている限りだと壊滅的な場所もあるが、全体的にはそこまで深刻ではないらしい。
まあ、きちんと聞いた訳ではないので、実際はもう少し被害を受けているかもしれないが、それでも全体的に予想していたよりはまだマシであるそうだ。
ハッキリしていないのは実際にこの目で見た訳ではないからである。
何しろ、ラビンさんのダンジョンの最下層で休息を取り始めてから、二回連続で魔力を使い切った影響で中々疲労状態が抜けずにいて、一度も外に出ていない。
なので、外の情報については、無のグラノさんたちが教えてくれた。
どうして無のグラノさんたちが外の情報を知っているかと言えば、ここ数日各地を飛び回っているからだ。
「装着式戦闘用外殻」で疑似的とはいえ肉体を手にして外で活動できるようになったから――というのもあると思うが、一番の目的は各地に現れている魔物大発生の魔物を少しでも減らすためである。
内臓魔力の交換のために戻ってくる度に、各地のことを教えてくれた。
俺も手伝いたいところだが、無理に手伝っても足手纏いになるので、回復するまでは任せるしかない。
それならアブさんとカーくんにも各地の魔物大発生への対処をお願いしたいところなのだが、どちらも今は満足に動くことができなくなっていた。
その時は大丈夫でも、あとで影響が出るモノだってある。
「神性」は正にそれだったらしく、今は体に順応、適応しようとしているそうで、ラビンさんが言うには数日の辛抱だそうだ。
骨が軋む、とアブさんは言う。
ただ、無のグラノさんたちの誰かが戻ってくる度に、アブさんは「装着式戦闘用外殻」を羨ましそうに見ている。
欲しいのかもしれないが、今は素材不足や気力不足で新たに造れない、とラビンさんが言っているので我慢してもらうしかない。
とりあえず、その欲しそうな視線で無のグラノさんたちを見るのはやめようか。
体がビキビキして動けない、とカーくんは言う。
なので、大人しくしている……大人しくするしかないのだが、カーくんはこの状態が嫌のようだ。
というのも、体が動かない → 筋トレできない → 筋肉量が減り、輝きが落ちる――ということらしい。
筋肉が泣いている、と言っている。
動けるようになったら存分に筋トレすればいいと思う。
その時にまだ魔物大発生があれば、それを相手にでもして。
まあ、現状でも各地の魔物大発生に対しては、無のグラノさんたちに加えて竜たちも協力しているので、アブさんとカーくんが居なくても問題ないと言えば問題ない。
あと、ドレアたちも今はそれぞれの場所で対処に当たっている。
黒く染まった神器は回収済。
ドレアたちがしっかりと見つけてきたのだが……大事なのは無事に回収できたことであって、誰が最初だったとか、別に良くない? と思うのは俺だけだろうか。
そこには関与しなかった。
黒く染まった神器はラビンさんが封印。
ラビンさんでも直ぐ元の状態に戻すのは難しいというか、時間がかかるそうで後回しとなった。
直ぐ必要になる訳ではないから、それで構わないと思う。
そんな感じでさらに数日が経ち、動けるようになった俺、アブさん、カーくんも魔物大発生の対処を手伝うようになってから――大体一か月が経った。




