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賢者巡礼  作者: ナハァト
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折れない心

 邪神の至るところがブクブクと膨れだした。


「……あれ、何?」


「邪神であることに変わりはないが……何やら不穏なことを口にしていたような……」


「確かに、無にするとかなんとか……滅ぼす気なのは元々では?」


 俺の呟きにアブさんとカーくんがそんなことを言う。

 でも、俺にも無になんとかは聞こえた。

 滅ぼす気なのはそうだが、なんというか意味合いが以前とは変わったような印象を受ける。


「………………え? もしかして、この状況と言葉の流れ的に、自爆?」


 アブさん、カーくんと顔を見合わせ、いやいやそれは――と首を左右に振る。


『……その、通りだ……我と共に、我ごと……貴様たち、それと世界を滅ぼす』


 邪神が肯定してしまった。


「いやいや、自爆って――わかっているのか? お前。痛いぞ。それに、お前は『神性』がないのだから、自爆すれば死ぬんだぞ」


『……それが、どうした……このままでも、追い詰められて死ぬのだ……それが早いか、遅いかの違いで、しかない……だから、この世界ごと、貴様たちを道連れにすることに、した』


 説得失敗。

 邪神の意志は固い。


「それならそれで――その前に死ぬが良い」


 そう言って、アブさんが大爆発を起こす赤黒い球を放つ――が、それは囮で本命は即死魔法。

 赤黒い球を迎撃した邪神に向けて、大鎌を持った骸骨が襲いかかるが、その姿はこれまでと違っていて、合わせて雰囲気も変わっていた。

 大鎌は一枚刃になって凶悪さのようなモノは薄れたのだが、その代わり大きさと鋭さが増したように見えて、本体? の骸骨と共に濃厚濃密な死の気配を纏っている。

 死を司る神――死神のように見えた。

 アブさんが「神性」を得た影響だろうか。

 そんな大鎌を持った骸骨が、邪神の胴体を横薙ぎに切り裂く。

 だが――。


『……何か、やったようだな』


 邪神の体が膨れ上がり続けていることは変わらず、切り裂かれた部分も膨れだしてくっ付いた。

 これまでと違って大鎌が避けられた、とめられて防がれたとかではないが、食らって通じなかったのは初めてである。


『……この感じ、は、即死系か? ……だが、無駄だ……こうなれば最後……即死系であろうとも、とめる、ことはでき、ない』


 自爆中だと無効化されるということか? もう死ぬから?

 それはそれで理不尽だと思うが、邪神だからと言われてしまえば仕方ないかもしれない。

 ただ、今の即死魔法の骸骨は強いようだ。

 能力云々ではなく、心が。精神が。

 これまでは通じなければ、大鎌が、心が、精神が、折れていたのに、今尾即死魔法の骸骨は次こそはやってみせます、どうにかしてみせます、とアブさんに向けて意気込んでいる。

「神性」の影響かもしれない。

 その挑戦精神を買ってやろう、とアブさんが頷いている。

 再び即死魔法が放たれる前にカーくんが動く。


「なら、これならどうだ!」


 カーくんが竜の息吹(ドラゴンブレス)を放つ。

 邪神に直撃するが――膨れ上がっている部分を削っただけで、元となる部分には届いていないようだ。

 その削れた部分も直ぐに膨れ上がって元に戻る――いや、それ以上に膨れ上がる。

 触れ上がるのが限界に来たら爆発するということか。

 邪神の大きさを考えれば相当の被害が出る――どころの話では済まないだろう。

 けれど、そこまで深刻に考える必要はないだろう。

 要は自爆させる前に倒してしまえばいいだけだ。


「一気に決めきれないなら、削っていくまでだ! アブさん! 細かく切り裂いてくれ! カーくん! 消していくぞ!」


「ああ、任せろ!」


「うむ、この世から消してくれる!」


 アブさんが即死魔法の骸骨で切り裂き――切り裂いた部分を、俺は魔法で、カーくんは竜の息吹(ドラゴンブレス)で消し去っていく。

 助かるのは、自爆するのに精一杯なのか、邪神からの攻撃がないということだ。

 でも、問題がない訳ではない。

 こちらが切り裂いて消し去っていくより、邪神が膨れ上がる方が速かったのだ。

 このままではマズい――のはわかっている。

 邪神が自爆するまでの時間を伸ばしているだけで、根本的な解決になっていないため、このまま続けてもいずれ邪神が自爆するのは間違いない。

 だからといって、一気に消滅させるような攻撃はできなかった。

 いや、できない訳ではないが、それをするためにはタメが必要で時間がかかる。

 その間に自爆しそうだ。


「このままではマズいぞ! いや、マジで!」


「それはわかっているが!」


「では、どうする!」


『……ハハ、ハハハ、ハ……無駄、無駄、無駄だあ……もう、諦めたら、どうだ?』


 邪神は余裕を見せるが、アブさんとカーくんから焦りを感じる。

 それは俺も同じく。

 どうすればいい――と考えようとした時、邪神の膨れ上がりがとまり、逆に萎んでいった。

 熟れた果実が急速に萎びるように。


「「「『……あれ?』」」」


 全員が揃って同じ言葉を口にする。

 ついでに首も傾げた。

 どうしてここで萎むんだ?

 意味がわからない。

 誰も――当の邪神ですらわかっていないようだ。

 そんな時、俺の魔力が一気に回復していくのを感じた。

 何が? と真竜ノ杖を見る。

 ……待てよ。もしかして、邪神の自爆とは魔力を取り込み続けて制御できなくなった末の暴発なのかもしれない。

 もしそうなら、逆に魔力を取り込ませなければ、自爆できなくなるということか?

 真竜ノ杖はそもそも俺の魔力を回復させるために周囲の魔力を取り込んでいたから周囲の魔力の流れに気付いて、邪神に魔力が流れないようにより強く取り込み……だと邪神が萎むことにはならないから……真竜ノ杖は邪神から魔力を取り込んでいる?

 真竜ノ杖がそれで合っていると頷いているように見えた。

 ……なんだろう。助かるのは間違いないが……素直に喜べないというか、邪神の魔力を取り込んで、俺の身は大丈夫なのだろうか?

 真竜ノ杖が、自分を通して浄化しているので大丈夫と言っている気がする。

 気がするだけなのだが………………真竜ノ杖を信じて、考えないことにした。

 それに、邪神は困惑しているし、直ぐ自爆するということもなくなったのだから、これは――。


「アブさん! カーくん!」


 邪神を消滅させることができるだけの攻撃を放つ絶好の機会だ。

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