サイド 各国 反撃 10
竜山・竜の町。
邪神による魔物大発生はここにも襲いかかった。
ただ、各地で起こった魔物大発生において、ここが最も安全なのは間違いない。
何しろ、ここには竜が居る。
幼体であればさすがに、だが、成体であればその強さは一頭でも国を相手に戦え、その中でもより強いのは強国が相手であっても対抗、あるいは滅亡させることができるだけの力を有しているのが竜だ。
強さがピンキリなのは人も――なんだって同じではあるが、竜はその影響が大きい……大き過ぎる存在の一つであるだろう。
それだけ強い、ということである。
その竜が一頭、二頭ではなく複数――数十頭の竜たちが居るのが竜の町だ。
魔物大発生などわけがない。余裕である。
それに、今竜の町はアルム特製の棘付き巨大で分厚い壁に守られているのだ。
邪神によるモノであろうとも、魔物大発生くらい問題ない。
それは三回目の黒い波動によって最上位の魔物が現れるようになっても状況は特に変わらなかった。
最上位の魔物であろうとも、竜の敵ではない。
ただ、最上位の魔物が現れるようになって、別の危機感を抱いた竜も居た。
まず竜王である終極銀竜――シー。
「……これ、ここは大丈夫だけど、他のところはマズくないか?」
次いで超越魔竜――デー。
「まあ、ここは私たち竜が居るから特別、と考えられなくもないが……それは希望的観測ってヤツだな。他のところにも現れている、と考えるべきだろうな」
さらに次いで至高聖竜――ホー。
「私もデビルと同じ考えです。各地で強い分類の魔物が現れているでしょう。ここは協力的な魔物も居ますし、竜が数頭居れば大丈夫でしょうから、残りは一度様子見も兼ねて各地に向かわせるのがいいかもしれません。でないと、下手をすればここ以外が破滅――というは言い過ぎかもしれませんが、それに近いことになる可能性は充分にあります」
シー、デー、ホーは同じ思いを抱いていると頷き合うが、問題はあった。
帰巣本能とでも言えばいいのか、竜にとって竜の町は故郷であり、自らの力で守りたいのだ。
どの竜も抱く思いである。
つまり、誰も、どの竜もここから離れたくなく、行きたがらない。
誰がここに残るかで揉めるのは間違いないが――そんな時間がないのも事実。
ということは――強権の発動だ、とデーとホーはシーを見る。
竜王として動く時だ、と。
だから、竜王として動く。
「デビルさんとホーリーさんはどこに向かわ」
「ああ、先に言っておくが、私はここに残る。いや、残った方がいいだろう。強い竜が守っていれば救援に出た竜たちも安心だろうからな」
「もちろん、ここに残りますよ。それがここを守るのに最適解だと思いますからね」
ニッコリと笑みを浮かべると共に圧力を発するデーとホー。
屈するしか選択肢がないシー。
そうしてシーが色々と諦めて動き出したことで、まずはミドナカル王国が救われることになったのであった。
―――
竜たちが各地へと飛んでいき、邪神による魔物大発生を発見次第、上空から竜の息吹を放って殲滅していく。
邪神が存在している限り、各地の魔物大発生が終わることはなく、元なる巨大な黒い球体から魔物は出続けることに変わりはない。
ただ、一時的とはいえ、魔物たちの数が大きく減ることになり、一息吐けるのは間違いなかった。
それは大きな助けとなる。
また、各地に飛んでいったのは竜たちだけではなかった。
無のグラノたちもまた、竜たちと同じように各地に飛んで魔物たちを魔法で葬っていく。
その際に使われる魔法の威力は、下手をすれば竜の息吹以上の時もあった。
何しろ、無のグラノたちが身に付けている「装着式戦闘用外殻」が保有する魔力は、今のアルムの魔力の凡そ三分の一はあるのだ。
つまり、元々莫大な魔力持ちであった無のグラノたちであったが、「装着式戦闘用外殻」を身に付け、その内臓魔力が満タンであれば、元々の魔力の倍以上を有することになるのだ。
……まあ、「装着式戦闘用外殻」を動かすのにも内蔵魔力を使うため、そのまままるっと使える訳ではないのだが。
ともかく、これは、アルム以上に魔法に精通している者たちが、元から持っていた魔力以上の魔力を得て、アルム並みの魔法――いや、時にはアルム以上の魔法を使う、ということである。
意味するところは、魔物からすれば、出会えば死を意味するということだ。
といっても、さすがにそんな魔法を使えば直ぐ枯渇して動けなくなるが……内臓魔力は交換可能なので、問題ないと言えば問題ない。
各地で魔物大発生への蹂躙が始まる。
それで多少地形が変わるくらいは……魔物大発生による被害が回避できたと思えば………………きっと許容範囲だろう。
そして、竜たちだけではなく、無のグラノたちの姿も、多くの人の目に映ることになる。




