サイド 各国 反撃 9
ミドナカル王国・王都近郊・草原
その近くに張れた数ある天幕の中で一番大きなモノに、鎧を身に付けたキングッドが入る。
「はあ……はあ……はあ……」
キングッドの息は切れ、汗も大量に掻き、疲労困憊であるのが誰の目から見てもわかる。
近くにある椅子に腰を下ろし、大きく一息。
そこに騎士団長であるナートと、魔法師団長であるジックが天幕の中に入ってくる。
キングッドほどではないが二人も息は切れていたので、少しだけ整えてから口を開く。
「さすがキングッド。見事な一撃だったな」
「ええ、これで兵や騎士だけではなく、冒険者の方も士気が上がるでしょう」
二人がキングッドを褒め称える。
士気が上がったことで持ち直しただろう、と。
当初、ミドナカル王国は善戦していた。
余裕を持って持ち堪えることができていたのだが、突如流れが変わる。
ミドナカル王国の状況はそこから悪くなり、それこそ緊急事態――崩壊しかけたのだ。
その理由は、三回目の黒い波動によって現れるようになった最上位の魔物。
普通もしくは多少強い程度ではどれだけの数を用意しようとも、最上位の魔物はものともしないため、戦場においては絶望を意味するのだ。
それが姿を現わし、冒険者を含めたミドナカル王国軍は大いに慌てた。
もう駄目だ、と戦意喪失する者も出始めたため、キングッドが出陣して、ナートとジックの協力の下、どうにか最上位の魔物を倒して士気を高めたのだが、その戦いは簡単なモノではなく、それこそ死力を尽くした戦いであったため、一度休憩を取るために天幕に戻ってきた――というのが現状である。
「……これで、態勢を整えることができればいいが……問題は最上位の魔物が再び現れた時だな。……できれば、少し時間を置いて欲しいが……」
休む時間が欲しい、とキングッドが口にする。
それを聞いたナートとジックは苦笑を浮かべた。
「陛下。そういうのは口にしない方がいいぜ」
「そうですね。そういうことを口にすると招き寄せる時があると聞きますし」
「ははっ。そんな訳――」
キングッドは笑い飛ばそうとするが、天幕の外が騒がしくなる。
報告は直ぐ届けられ、新たな最上位の魔物が現れたことを伝えられた。
ナートとジックは、ほら、言わんこっちゃない、という視線をキングッドに向ける。
「……わかったよ。倒せばいいんだろ。倒せば」
そう簡単なことではないが、キングッドは気合を入れて天幕から出た――瞬間、何かがキングッドの上空を通り過ぎていく。
何が? 魔物か? とキングッドが何かに視線を向けると――それは竜だった。
一頭だけではない。五頭の竜が編隊を組んで戦場となっている場所の上空まで飛んでいき、ミドナカル王国軍が戦っている場所の先――魔物たちだけが居る場所まで飛んでいくと、上空から竜の息吹を放って焼き尽くしていく。
また、空の魔物だろうが、最上位の魔物だろうが関係ない。
竜たちが一方的に屠っていった。
一体何が? とキングッドが思った時、上空から声がかけられる。
「なんとか間に合ったようだな、キンよ」
「竜王殿!」
歓喜――いや、それだけではなく感謝するように破顔するキングッド。
ここに現れたのは救援のためだというのは状況を見ればわかる。
助けられたことに対する感謝の気持ちが表情に表れたのだ。
ただ、それでも気になることはある、と竜王――シーが自身の側に下りてくると尋ねる。
「竜王殿。こっちの方に来て、竜山の方は大丈夫なのか?」
「ああ、問題ない。まだ魔物大発生は続いているが、防衛に残してきた竜たちで充分対処できる。それに、最上位の魔物が現れるようになったことで他のところの方が危険だろうからな、救援に出たのだ。さすがに、人の身で最上位の魔物を何度も相手にするのはつらいだろうからな」
「……あ、ああ、その通りだ。一度戦ってどうにか倒したが――もう懲り懲りとしか言いようがない。ということは、今竜たちは救援のために、各地へと飛んでいっているのか?」
「その通りだ」
「そうか……人を代表して、というのは大袈裟かもしれないが、感謝する。ありがとう」
シーに向けて頭を下げるキン。
キンの側に控えていて、話の内容が聞こえていたナートとジックも同様にキンに向けて頭を下げた。
いや、聞こえていた者は誰もが同じ気持ちであると、近くに居た兵士や騎士たちも頭を下げる。
「よせよせ。私とキンの仲だろう。それとアルムも、か。それに、救援の話は元からあっただろう。それを実行しただけだ。それに、まだ戦いは終わっていない。感謝したいのなら、終わってから――私だけではなく他の竜たちにも、だ」
「わかっている。国を挙げて感謝しよう。盛大にな」
「ああ、盛大に頼む」
これで話は纏まった、とシーも竜たちと共に戦い始め、休憩を取ればキングッドも戦いに加わる。
ミドナカル王国は竜たちの助力によって危機的状況を脱した。




