サイド 各国 反撃 7
アフロディモン聖教国・聖都近郊。
聖都近郊のみという制限は付くが、聖なる結界の加護によって強化された状態で戦えるため、邪神による魔物大発生に対しても、どうにか乗り切ることができていた。
もちろん、それだけではない。
アフロディモン聖教国軍だけではなく、リミタリー帝国軍の助力もあればこそ、だ。
いや、アフロディモン聖教国はリミタリー帝国の属国的な位置となったため、主力はリミタリー帝国軍の方である。
だからこそ、「暗黒騎士団」が派遣され、団長であるセカンが全体の指揮を執っているのだ。
そこに加護が加わったことで乗り切ることが――どちらかと言えば優勢に立ち回ることができていた。
ただ、今の状態は続かない。いや、続けられない。
確かに、聖なる結界は聖都の本来の力である。
だが、これは言ってみれば切り札、最終手段に位置するモノで――有限なのだ。
聖職者たちの力を使うため、いつまでも続けることは――いや、続けられない。
聖なる結界を維持するべく、人を入れ替えて魔法的儀式を続けていたのだが……遂に限界が訪れる。
突如、フッ――と聖なる結界が消えた。
聖都を包んでいたモノが消え、リミタリー帝国軍とアフロディモン聖教国軍は強化状態がなくなったことを実感する。
けれど、こうなることは事前に通達されていた。
その上で――。
「問題ない! 魔物など、素の力でも充分渡り合える! それに、何も『加護』はこれで終わりではないのだ! 祈りを捧げる聖職者たちが回復すれば『加護』も戻る! それまで耐えろ! 今多少押されようとも取り返せる!」
セカンが声を張り上げたことも効果があっただろう。
加護がなくなったことに慌てたのは戦闘中だった者たちだけ――それでも直ぐに落ち着きを取り戻す――くらいで、大多数は慌てなかった。
慌てなかった者たちの中には――。
「まあ、聖都の加護がなくなろうとも問題はありません。私にはナナンからの愛の加護がありますから」
「……それは私も同じ。エルからの愛の加護があるから問題ない」
そういった理由で変わらず力を発揮している「暗黒騎士団」のエルとナナンが居た。
それが聞こえたセカンは呆れ顔を浮かべるが、それで頑張ってくれるならいいか、と特に何か言うようなことはしない。
だからといって、積極的に関わろうとも思っていないが。
エルとナナンは放っておいても大丈夫。「暗黒騎士団」だし――と判断するセカン。
何より、セカンは先に気にするべきことがあった。
(……リミタリー帝国軍の方は問題ない。戦力は把握している。この程度であれば加護がなくとも対応できるだろう。しかし、アフロディモン聖教国軍の方は……把握するには時間が足りなかった。リミタリー帝国軍より強いということはない。こちらが勝利しているのだからな。そうなると……厳しいな)
セカンの推測は正しく、加護がなくなったことでアフロディモン聖教国軍が展開している場所が徐々に押され始める。
そこに追い打ちをかけたのが、三回目の黒い波動。
最上位の魔物が現れるようになり、それにはセカン、エル、ナナンが率先して対処していくが――やはり手が足りない。
アフロディモン聖教国軍が展開している場所が突破され、魔物たちが聖都の外壁に迫る。
「――まずいっ!」
セカンの脳裏に最悪の展開が過ぎった瞬間――。
「【詠唱破棄】泥沈下」
聖都の外壁に到達しそうだった魔物たちが居る限定的な場所が液状化――泥化して、魔物たちを飲み込むように沈めていく。
魔物たちは抜け出そうとするが、支えとなるモノが一切なく、そのままズブズブと沈んでいった。
「……一体何が? どういうことだ?」
その様子が見えていたセカンがそう呟くと、上から声がかけられる。
「その容姿――あなたがセカンね?」
セカンの近くに女性が舞い降りてくる。
それは長く美しい茶髪をなびかせ、ローブを身に纏っていても魅惑的な体付きを隠すことができず、惑わさそうな色気が醸し出されている女性――土のアンススである。
「な、何者だ!」
セカンが警戒を露わにして身構える。
それも仕方ない。
何しろ、土のアンススは目元だけくり抜かれた仮面を被って顔を隠しているのだから。
それでも妖艶な目付きをしているのはわかるが、怪しさは満点である。
ただ、これは、土のアンススにも事情があった。
というのも、土のアンススは死亡してから約八年であるため、知っている者、憶えている者がまだ多く生きているので、仮面を被ることで自分が土のアンススだとわからないようにしたのだ。
それなら「装着式戦闘用外殻」の容姿を変えれば済む話なのだが、自分の骨に合致する容姿となるとやはり元からの容姿なのである。
それを変えれば感覚も違ってきて、それが大事な時もあるのだ。
だから、元からの容姿であり、身バレ防止で仮面を被っている。
もちろん、警戒されることも想定済み。
「敵ではないわ。だから、あなたに会いに来たのよ。私はアルムの協力者――アルムに魔法を教えた者、でもいいかしら? とにかく、敵ではないわ」
アルムに魔力や記憶を受け継がせているので……まあ、あながち間違いではない。
「……それを信用しろと?」
「この状況でそこまで求めていないわ。だから、私に攻撃してこなければ、それで構わない。そもそも私は私で勝手に動くつもりだから」
セカンは少し難色を示す。
というのも、目の前の女性からやる気のようなモノを感じないからだ。
味方なら、もう少しこう――と思ってしまう。
ただ、これも仕方ない。
土のアンススはこの国が好きではないからだ。
それでもこうして守るために動いているのは、それでも故郷は故郷という思いだけなので、やる気はない。起きない。それだけのこと。
それでも邪神による魔物大発生とやり合えるのは、それだけ強力な魔法使いという証明だろう。
「……それじゃあ、よろしくね」
言いたいことだけ言った感じで、土のアンススは空に浮かんで飛んでいく。
飛んでいった先は――最上位の魔物が現れているところ。
セカンはそれを見て、まあ、敵ではないのならいいか、と気にしないことにした。
そんな余裕もない。
それに、いざという時はアルムに苦情を入れよう、とも考えていた。
アフロディモン聖教国での戦いは、どうにか乗り切ることができそうである。




