サイド 各国 反撃 6
リミタリー帝国・帝都。
大軍で戦える場所が帝都付近にしかないため、邪神による魔物大発生に対して帝都は常に危機的状況にあると言える。
もしも展開したリミタリー帝国軍が突破され、帝都の外壁、あるいは門が破られでもすれば、あっという間に蹂躙されてもおかしくないだろう。
しかし、そうはならない。
何故なら、リミタリー帝国は軍事国家であり、世界一の強国と言われてもおかしくないほどに強く、それはリミタリー帝国軍の象徴である「暗黒騎士団」によってというだけではなく、全体的な質が高いからだ。
また、今はそこにバトルドールも少なからず組み込まれているため、平均的な質はさらに上がったと言える。
そのため、邪神による魔物大発生に対しても互角以上に戦うことができていた。
ただ、さすがに三回目の黒い波動によって現れるようになった最上位の魔物に関しては、多少質が高いくらいでは通用しない。
そこは――「暗黒騎士団」の出番である。
「アスリー! 奥からトレントの大きいヤツ――多分エルダートレントかトレントキングとでも言えそうなデカいのが来ているわよ!」
「暗黒騎士団」の一人――クフォラが、魔物大発生の魔物たちの奥に現れた巨木の魔物を指し示す。
「……斬ってくればいいのだろう。なら、クフォラはあちらの――なんか特別感を抱かせる死霊系の魔物をどうにかしろ。普通の兵士や騎士たちでは手に負えていない。あっ、それと、ついでに空から来ているのを魔法で落とせるか?」
「暗黒騎士団」の一人――アスリーが、少し離れた位置で暴れている死霊系の魔物と、空から襲いかかろうとしている魔物の群れを指し示す。
魔法なら通じるだろうし、届くだろう? と。
実際――問題なかった。
アスリーは魔物たちを斬りながら前に進み、そのまま淀むことなく巨木の魔物を斬り払う。
クフォラは死霊系の魔物と、空から迫る魔物の群れを魔法で一掃する。
また、リミタリー帝国軍も負けていない。
次々と現れる魔物たちを、ものともせずに倒していく。
――だから、だろうか。
リミタリー帝国軍がしっかりと対応していたからこそ、邪神による魔物大発生――その発生源である巨大な黒い球からよりたくさんの魔物が、より強い魔物が現れ続ける。
より激しくなる帝都周辺での戦い。
何より厄介なのは、ただ魔物の数が増えただけではなく、現れる最上位の魔物の数も増えたということである。
最上位の魔物となると対応できる者が非常に限られてしまう。
この場で言えば、最上位の魔物とまともに戦えるのは「暗黒騎士団」のアスリーとクフォラだけである。
そのため、最上位の魔物の数が増えると手が足らなくなるのだ。
「アスリー! 向こう側に新手が!」
「……いや、こっちも忙しい。クフォラが魔法で援護して時間を稼げ」
「無茶言わないでください! 私も余裕はありません!」
アスリーもクフォラも率先して最上位の魔物の相手をしているのだが、早々倒せるモノでもない。
リミタリー帝国軍もアスリーとクフォラが来るまでの時間稼ぎしかできなかった。
そのため、対応は次第に後手へと回り――破綻の時がくる。
人の数倍は大きい六本足の虎の魔物――タイガーキングがリミタリー帝国軍を蹴散らし、帝都の外壁へと迫った。
勢いがあり、そのまま体当たりして外壁を砕くのが狙いであると見てわかる。
リミタリー帝国軍はとめられず、アスリーとクフォラが気付いて動こうとするが、そもそも最上位の魔物の相手をしているため、下手に動けば何かする前にやられてしまう。
どうしようもない――と誰もが思った時、タイガーキングの前に、空から一人の男性が下りて来て立ち塞がった。
その男性は腰に提げた鞘から剣を抜き――。
「ここには嫌な思い出もありますが、それはそれ。彼女が眠る地を荒させはしません」
淀みなく流れる動きで振り上げて振り下ろす。
振り下ろす際、剣は黒く染まり、その切っ先から先に黒い剣身が伸びて、タイガーキングを両断し――振り下ろし切る前に剣は元の姿に戻った。
その光景を見たリミタリー帝国軍の誰もが驚きを露わにする。
タイガーキングは間違いなく最上位の魔物で、それを両断したのだ。
驚かない方がおかしい。
また、リミタリー帝国軍としては、それとは別に驚くことがあった。
その男性は黒髪に普通の顔立ちなのだが、何よりも目を引くのは身に付けているモノである。
――黒い鎧。
リミタリー帝国における黒い鎧とは、「暗黒騎士団」の象徴なのだ。
それを身に付けてこの場に居て、さらに最上位の魔物を両断するほどの力を有しているのだから、その男性が「暗黒騎士団」ではないか? と考えが至っても、誰もこれまでその男性を見たがないために戸惑いが生じる。
その光景を見て、どう思っているのか察したのか、その男性――闇のアンクは苦笑を浮かべた。
どうしたものかと思っていると、アスリーとクフォラが闇のアンクの前に姿を現わす。
「……貴様、何者だ?」
アスリーがそう尋ねる。
状況から敵ではないかもしれない、とは思ったが、口調に少しだけ厳しさが紛れていた。
それは警戒ではなく嫉妬。
タイガーキングを両断した闇のアンクの動きを見て、自分に同じことができるイメージができなかったためだ。
「そうですね。所属は? 黒い鎧を身に付けているようですが、この国で黒い鎧を身に付けるのは『暗黒騎士団』にだけ許されています。まさか、知っていて身に付けている訳ではありませんよね?」
クフォラの口調にも、少しだけ厳しいモノがある。
これも嫉妬。
闇のアンクがタイガーキングを両断した際に剣を黒く染めて剣身を伸ばしたのは、剣に魔力を纏わせることで威力などを飛躍的に高める手法――所謂「魔法剣」と呼ばれるモノなのだが、普通は魔力に耐え切れずに剣が崩壊したりと、使用するには緻密な魔力操作が求められる。
その魔力操作技術に対して、クフォラは自分よりも上だと感じてしまったためだ。
闇のアンクは苦笑を浮かべたまま言う。
「味方、ですよ。アルムの協力者で通じますか?」
アルムの名にアスリーとクフォラが反応を示す。
これで大丈夫そうですね、と判断する闇のアンク。
「さて、味方とわかっていただければ充分です。それに、今はのんびりと話している暇はなさそうですからね」
闇のアンクが視線を向けるのは、新たに現れる最上位の魔物たち。
確かに、とアスリーとクフォラは戦闘態勢に入り、周囲のリミタリー帝国軍も動き出す。
リミタリー帝国軍の本領発揮はここからである。




