持論は誰だって持っている
「それで、紹介していただけますか?」
リノファが笑みを浮かべたまま、俺にそう言ってくる。
これまでにない積極性を感じるのは、きっと気のせいではない。
それほどまでに骸骨が好きなのだろうか?
――いや、互いを知っているのは俺だけだから、だろう。
そういうことにしておいた。
まずはリノファと母さんを紹介し、次いで無のグラノさんたち、ラビンさん、カーくんと――。
「『よくぞきた! アルムの母と弟子よ! 我こそ、この世を照らす聖なる光と、この世を覆って染める魔の闇。対極の力、存在、性質を一つの身に宿す究極生物。究極聖魔竜――「Chaos」である!』」
あっ、本当に言うんだ、と思った。
カーくんに関しては、さらに追加しておく。
「リノファ。カーくんが、キミに『聖属性』を教授してくれる。最高峰の使い手らしいよ」
ムンッ! と筋肉を見せつけるポーズを取るカーくん。
「そうなのですね。よろしくお願いします」
リノファはカーくんに向けて、綺麗な所作で一礼する。
普通に受け入れているな。
「普通に受け入れるのだな」
カーくんと言葉が被った。
でも、本当に無理をしているとか、そういうのが一切ないのだ。
リノファはくすりと笑みを浮かべる。
「ふふ。私は強くなるための教えを受けにきたのですから、その相手に失礼がないようにしているだけです」
それだけでできるとは思えないが……まあ、なんか骸骨好きらしいから、寧ろ大歓迎の環境なのかもしれない。
今もチラチラと盗み見ている。
その対象である無のグラノさんたち――特に無のグラノさん、火のヒストさん、風のウィンヴィさん、闇のアンクさん――男性陣は、リノファからの視線を意識しているように見えた。
遠くを見ながら髪をかき上げる仕草をしたり、服を体に合わせるように軽くいじったり、何か深く考えているように顎に手を当てて物憂げにしたりしている。
服と顎はまだしも、髪はないのにかき上げる仕草は逆効果では?
でも、楽しそうだから放っておこう。
対する水のリタさん、土のアンススさん、光のレイさん――女性陣は母さんに詰め寄っていた。
「あの、その姿はメイド、ですよね?」
「そうですが、何か?」
「つまり、家事が得意、ということで大丈夫?」
「メイドとしての嗜みですし、私は極めていますが?」
「……極め……ということは、他人に教授できることも?」
「ええ、可能です」
「「「師匠! どうかその技術の伝授を!」」」
女性陣が母さんに向けて跪く。
お願いしますと懇願しているようだ。
前の料理で何か……前の料理? なんの話だ? なんか身に覚えがないというか……あれ? なんか体が震えてくる……まるで思い出してはいけないと、本能が訴えかけているような……。
これ以上深く考えるのは危険と判断してやめた。
「メイドの技術はメイドだけに伝えたいのですが」
そう言って母さんは断ろうとしている――が、女性陣の必死な姿に折れたようだ。
「……仕方ありませんね。私が教えられる限りで教えましょう。もちろん、優先されるのはリノファさまの身の回りの世話ですが、空いている時間で良いのなら。ただ、私は厳しいですよ?」
「「「はい、師匠!」」」
なんだろう。
完全な上下関係ができあがった気がする。
「あれ、もう上下関係ができているよね?」
似たような感想を言ったのは、ラビンさん。
「ラビンさんの目から見てもそう見えるのなら、やっぱりそうなんだろうな。でも、すんなりと受け入れられそうでよかった。どっちも、な」
「そうだね。でも、不思議ではないかな」
「そう?」
「まあ、『聖女』というか『聖属性』持ちなら大丈夫だと思っていたし、一緒に来たのがアルムくんの母親だと教えられた時から平気だと思っていたよ。アルムくんはここで目を覚まして最初に見たのがグラノくんたちなのに、暴れず襲わず受け入れていたからね」
いや、驚いたし、死を覚悟というか、現実感がなかっただけだったような。
それに、確か妙な起こされ方をされそうに……いや、忘れよう。
思い出しても、誰も幸せにならない。
ただ、ラビンさんの言葉の中に気になる部分があった。
「『聖属性』持ちなら大丈夫とは?」
「まあ、ボクの持論なんだけど、『聖属性』は死人系統に強い。強いということは耐性があるということ。耐性があれば、好きになってもおかしくないでしょ」
……おかしくはないかな。
総じて、という訳ではないだろうけど。
でもまあ、お互いすんなりと受け入れたというか、悶着がなくてよかった。
これなら、直ぐにでも旅立つことができそうだ。




