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賢者巡礼  作者: ナハァト
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サイド 各国 反撃 3

 森の国・フォレストガーデン。

 邪神による魔物大発生(スタンピード)に対して、既に森の奥の方まで侵入を許してしまっている。

 森の国・フォレストガーデンの守護の要である世界樹も、元々広大な森全体にかけてあった幻術や隠蔽の結界はやめ、物理的な防御となる障壁の結界を張ることで、森の中にある王都と各集落を守っていた。

 しかし、それも次から次へと現れる魔物たちの圧力によって、何度か破られたあとである。

 結界を張り直す度に押し込まれた結果が、今だ。

 今もまた、障壁の結界にはヒビが入り、砕けそうになっている。

 もう時間はそれほどないだろう。


「臆するな! 隊列を組め! 世界樹が再び結界を張るまで耐えるのだ! これは時間との勝負である! 生き残れば、こちらの勝ちだ!」


 光のレイの妹であるロアがその手に持つ長剣を構えながら、障壁の結界内に居る、エルフや冒険者――戦っている者たちを鼓舞するために声を張り上げた。

 それに反応する者も居れば、しない者も居る。

 反応しないのは疲労による部分が大きいが、中には既に心が折れそうだから、という者も居た。

 終わりのない戦闘によって、あるいは何度も障壁の結界が砕ける光景を見たから、他にも衝撃の結界が砕ける度に後退していったことで体も心も疲弊した、と理由は様々である。

 そこにさらに追い打ちがかけられた。


「くそっ……ここで、か」


 ロアの表情が少しだけ歪む。

 その視線の先に居る――障壁の結界の向こう側に現れたのは、三回目の黒い波動によって現れるようになった最上位の魔物。

 数人を纏めて呑み込めるほどに巨大な蛇――スネークキング、それと――人の何倍もある大きさの巨大蜘蛛――スパイダーキングであった。

 スネークキングが体当たりを行うと、障壁の結界に大きくヒビが入る。

 スパイダーキングが足を突くと、障壁の結界にさらにヒビが入った。

 ここを突破されると、王都に侵入を許すことになりかねない――が、相手が最上位の魔物となると、とめることすら難しい。


「あ、ああ……」


 絶望した、と表す呟きがところどころで漏れ出る。

 さすがにロアも死を覚悟した。

 そんなロアに声がかけられる。


「間に合ったわね」


 ロアには声だけで誰かわかったが、信じられなかった。

 だから、声がした方に振り向き、そこに姉であるルウの姿を見て驚きを露わにする。


「ルウ姉! どうしてここに! ルウ姉は世界樹を守らないと!」


「いいえ、ロア。既にここまで侵入させてしまったのです。ここを守らないと、もう世界樹を守ることはできません。だから、私たちもここに来たのです」


 ルウがそう口にしたところで、ロアが気付く。

 奥――世界樹のある方から、エルフと冒険者の一団が姿を現わす。

 世界樹を守っていたエルフたちと、避難していた者たちを守っていた冒険者たちであろうと、容易に推測できた。

 戦える人が増えることは助かるが、これで出せる戦力は終わりであることも示している。

 ここが正念場であり、最終防衛線であった。


「そう……ルウ姉が一緒に居るのなら、頑張らないとね」


「ふふ。私も、妹の前だから張り切らないといけないわ」


 笑みを浮かべるロアとルウ。

 そこに、絶望を告げるように障壁の結界からビシリ! と大きな悲鳴のような音が響き、障壁の結界に大きなヒビが走った。

 ロア、ルウ含め、戦える者は全員身構える。


 ――瞬間。障壁の結界は断末魔のような音を上げて砕かれ、魔物たちが咆哮を上げて襲い――。


「……『【詠唱破棄】輝きの土砂降りシャイニング・ダウンポー』」


 光り輝く雨が降り注ぐ。

 ただし、それが降り注いだ場所は魔物たちだけ。

 光り輝く雨に打たれて魔物たちは次々と消滅していく。

 エルフや冒険者――戦える者たちには一切降り注ぐことはなく、森の中でありながら木々にも傷一つ付いていない。

 一体何が! とロアとルウが視線を上げれば、空から地上へと下りてくる存在が居た。

 それは、輝く銀髪に美しい顔立ちで、均整の取れた体付きに軽装とローブを身に付けた女性エルフ――光のレイ。


「レイ姉!」


「レイ!」


 ロアとルウが驚きの声を上げる。


「シャアアアアアッ!」


「キ、キキキキキッ!」


 光り輝く雨で死ななかったスネークキングとスパイダーキングが飛び上がり、光のレイに襲いかかる。


「……しぶといのが居る。『【詠唱破棄】輝きの断罪シャイニング・ジャッジメント』」


 スネークキングとスパイダーキングの周囲にいくつも魔法陣が描かれ、その魔法陣から飛び出した光り輝く剣に貫かれて絶命する。

 周囲一帯の魔物を駆逐した光のレイが、ロアとルウの前に下りてきて軽く手を上げた。


「……久し振り。元気だった?」


「レイ姉!」


「レイ!」


 ロアとルウが光のレイを抱き締め――揃って首を傾げる。


「……本当にレイ姉?」


「姿に声や雰囲気はレイそのものだけど……何か感触が違うような……」


 疑問を口にする。

 まあ、「装着式戦闘用外殻(バトルスーツ)」なので、生物特有の温かさのようなモノはない。

 その辺りの違いを感じたのだろう。

 もう一度首を傾げるロアとルウ。

 そんな二人に対して少しだけ呆れたような目を向けつつ、レイは口を開く。


「……説明はあと。今はあっちが優先」


 光のレイが示したのは、光り輝く雨が降り注いだ場所の向こう側――新たな魔物たちが姿を現わしていた。

 一息吐けたのは少し間だけ。

 しかし、光のレイはその力で周囲一帯の魔物をすべて駆逐した。

 その光景は戦う者たちの心中に希望が抱かせる。


「……ここから巻き返すから、しっかり付いて来て」


 森の国・フォレストガーデンで戦う者たちは息を吹き返し、ここから押し返していく。

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