サイド 各国 反撃 2
火のヒスト。本来であれば、この場に居ない者。
死者だから、というだけではなく、火のヒスト――というよりは無のグラノたちはラビンのダンジョンより外には出られないのだ。
肉体が死して尚、骸骨となって生きている代償――魂がラビンのダンジョンに縛られている、と言ったところである。
そのため、本来はラビンのダンジョンより外には出られないが、それを可能としているのが「装着式戦闘用外殻」であった。
なんてことはない。ラビンのダンジョンより出られないのなら、そこをラビンのダンジョンとすればいいだけの話なのだ。
ラビンのダンジョンは、ラビンの隠れ家や、アブのダンジョンや海神の船が隠されていた孤島の小規模ダンジョンといったラビンのダンジョンではない場所と繋がっていて、無のグラノたちはそこにも移動できる。
何故移動できるのかと言えば、それは魔法的に繋がっているから、というのがラビンの出した結論であり、正解であった。
結論として、転移魔法陣で繋がっているダンジョンであれば、その繋がりによって同じダンジョン内であるという認識で移動して動けるのである。
今回の場合、転移魔法陣で繋がっているのは「装着式戦闘用外殻」の内部。
内部を簡易ダンジョンと化して、それを転移魔法陣でラビンのダンジョンと繋げているのである。
もちろん、それは簡単なことではない。
ラビンだからこそ可能である。
ただ、常設ではない。そこまではできなかった。
なので、内部の簡易ダンジョン化を維持する力が必要であった。
その力とは――魔力。
ただ、かなりの量が必要で、内部の簡易ダンジョン化だけではなく、「装着式戦闘用外殻」を動かして魔法も使えるようにするとなれば、一体どれだけの魔力が必要となるか……それこそ、並の魔法使いでは稼働することすらできないほどである。
しかし、そこはラビン作の「装着式戦闘用外殻」。
膨大な魔力も溜め込むことのできる魔力貯蔵部のようなモノを組み込んでいるので、そこに必要量を溜め込めばいいのだ。
まあ、その必要量というのが、稼働だけでも並の魔法使いであれば十数日かかり、そこに内部の簡易ダンジョン化の維持まで加われば、どれだけの魔力量が必要になるのか――といったところだが……問題なかった。
そこを解決したのは、膨大な魔力持ちのアルム。
さすがにアルム一人で無のグラノたち全員分の魔力貯蔵部を一度に満タンに――とはいかなかったが、それでも魔力貯蔵部の交換用まで用意するのに、そう時間はかからなかったのは事実である。
そういった経緯で、火のヒストはこの場に居るのだ。
いや、火のヒストだけではなく、他の者たちも思い思いの場所に居る。
その目的はもちろん、魔物大発生を潰すために。
―――
大胸筋を見せつけるような姿勢を取った火のヒスト。
火のヒストは姿勢そのままにクラウを見て……ジッと見て……大胸筋を見せつけるような姿勢はそのままに、表情だけ――ハッ! と何かに気付いたように変わる。
「その容姿に服装! 他の者とは違う雰囲気! 何よりお前の筋肉が教えてくれる! お前が今代の王であるクラウか? いや、もしそうなら、王を相手にこの言葉遣いはさすがに失礼だな」
「い、いや、このような状況であるし、そもそもここは冒険者の国なのだから、言葉遣いはそこまで気にならないが」
「おおっ! さすがだ! この国の王なだけはある! いや、この国の王はそうでなければな!」
上腕二頭筋を盛り上げるような姿勢に変えてから、火のヒストは満足そうに頷く。
クラウは戸惑いつつ口を開く。
「それで、貴殿は……見ない顔だが?」
「うむ! 俺は――失礼にあたるが、名を告げるのはやめておこう。申し訳ない。こちらにも色々と事情があるのだ。まあ、敵ではない。アルムの協力者で、今回の事態の収拾を手伝っている、といったところだ! つまり」
火のヒストは背を向け、広背筋を見せつける姿勢を取る。
「味方である!」
ハッキリと宣言する火のヒスト。
名を告げないのは、見た目は人であってもその中身は骸骨――死者であることに変わりないため、調べられて余計な混乱を起こさないように……念のため、だ。
味方でいいようだが、その姿勢でないと話すことはできないのだろうか? と本気で考えるクラウ。
いや、なんとも逞しい筋肉だ。惚れ惚れする筋肉だ。頼もしい――がそれはそれ、とクラウは口を開く。
「アルムの協力者、か。そうだとして、他の者はどこに?」
「他の者? 何を言う! ここに来たのは俺一人だ!」
「ひ、一人?」
いや、王都を取り囲んでいる巨大な炎の柱は一人で行えるモノではない――と言おうと口を開こうとした時、巨大な炎の中から人の三倍はある巨大な魔物――オーガキングが飛び出してくる。
「グガ、アアアアアッ!」
その体の各所は火傷――いや、既に炭化しているが、それでも暴れるように動き、無意識だろうがクラウに襲いかかろうとしていた。
「なっ!」
「「「陛下っ!」」」
兵士、騎士、冒険者がクラウを守ろうとするが、オーガキングの方が速く、クラウに向けて握った巨大な拳を振り下ろした――が、火のヒストがクラウの前に立って片手で受けとめる。
「うむ! 中々良い拳だ! だが――」
火のヒストが魔力を漲らせる。
「俺を倒すには筋肉が足りない! 【詠唱破棄】炎螺旋貫通」
火のヒストの魔法が発動。
オーガキングの足元に魔法陣が描かれ、そこから螺旋を描く炎が噴き出し――オーガキングを瞬く間に焼き尽くす。
「ふんっ!」
火のヒストが手を振れば、螺旋を描く炎の魔法は何もなかったかのように消える。
オーガキングが瞬く間に焼き尽くされるという光景を見た者は、誰もが火のヒストは戦士のような見た目だが凄まじい魔法を使う者であると実感した。
それは同時に、彼が居れば――という希望の火が胸に灯り、それが活力となって戦意を高め、士気が上がり、勢いとなる。
ただ――筋肉、関係なくない? と思う者も多かった。




