サイド 各国 反撃 1
冒険者の国・トゥーラ・王都
王都の外では兵士や騎士、冒険者が魔物大発生の魔物と戦闘を繰り広げている。
王都近くまで魔物大発生の魔物は来ているが、王都外壁に触れることすらできなかった。
それだけ、ここの戦力が充実している、ということである。
だから、ここはまだ持ち堪えている方だ。
国の名が示すように、騎士や兵士だけではなく冒険者の数が非常に多く、その質も全体的に高かった。
冒険者ランク最上位であるSランクといった突出した存在も居るため、最上位の魔物が現れても対処できるだけの戦力がここにはある。
だから、絶望するにはまだ早い。
「「「オオオオオオオオオオッ!」」」
王都の外から大歓声が上がった。
それは王都内部側――出入りする大きな門近くに設営された作戦本部である天幕の中にも聞こえ、そこで休憩を取りつつ、周囲の状況確認の報告を聞いていた、この国の王――クラウの耳にも届く。
ちなみに、休憩を取っているのは先ほどまで王都の外に出ていて、魔物と戦いつつ周囲を鼓舞して士気を高めていたからだ。
王都の出入りに関しては、負傷者を王都内部に入れたり、逆に戦闘要員を王都外部へと送るために時折開け閉めされているため、その時に出て戻ってきたのである。
「今の歓声はなんだ!」
クラウの問いに、報告は直ぐ届けられる。
「冒険者パーティ『煌々明媚』と冒険者ネウが協力して、ゴブリンキング、それとエイプキングを討伐しました! それにより魔物の足並みが乱れ、現在こちらが押しています!」
報告に来た兵士が興奮して声高に告げると、天幕内が一気に沸く。
中には拳を握って興奮を露わにしている者も居た――が。
「ほ、報告! 新たにオークキング、それとオーガキングとその種の群れが出現! それに伴い態勢を整えるため全軍門付近まで後退! 指示を!」
キングの名を冠する魔物が新たに現れたと告げる兵士の報告に、先ほどまでの興奮はなかったかのように消えて、重苦しい空気が流れる。
現在の戦いは初めからこの繰り返しだった。
押して、押されて――倒し、倒されて――上位の魔物を倒しても、直ぐに別のが現れるのだ。
一喜一憂を何度も繰り返したことで精神も大きく摩耗していた。
全員という訳ではないが、この繰り返しで心が折れる者も出続けている。
今回は特に、であった。
容易に倒せない最上位種の魔物をどうにか倒しても別の最上位種の魔物が現れる――ということが影響しているのは間違いない。
絶望が広がっていく。
このままではそう遠くない内に――と天幕内の空気の重さを感じたクラウが打開策を考えようとした時――。
――ゴボオオオオオッ!
激しい音が周囲に響く。
勢いがあり、何かが渦巻いているような、そんな音が。
今度は一体なんなんだ、とクラウが天幕から出る。
「……は?」
クラウから困惑する声が漏れる。
見たモノが信じられなかった。
それは、巨大な炎の柱。
王都を囲む巨大な外壁の向こう側にあるにも関わらず、その姿が見えているということは、外壁よりも高く聳え立っているということに間違いはない。
しかも、それが見間違えではないと、巨大な炎の柱は一柱ではなかったのだ。
クラウが周囲を見渡して見えるだけの外壁の向こう側のどこにもあって、巨大な炎の柱が王都を取り囲んでいることは容易に想像できた。
誰もがその光景を目の当たりにして動きをとめている。
今はクラウもその一人。
「……終わった」
この光景はこの世の終わりを示していると思った誰かがそう呟いた。
その呟きはクラウの耳にも届き、同意せざるを――。
「わはははははっ! 久々なのもそうだが、知識を得るばかりで試すこともできなかったからな! 少々魔力調整を失敗してしまった! まあ、それなりの魔物を焼き尽くしたようだし、些事だな! うむ、些事だ!」
声が聞こえた方へとクラウが視線を向ける。
それは負傷者の中に入れるために少しだけ開いていた王都の門の向こう側から聞こえてきた。
聞いたことのない声。しかし、聞こえてきた内容はこの光景についてであることを直感したクラウは駆け出し、門を越えて王都の外へ出る。
その行動に気付いた兵士や騎士が慌ててあとを追うが、クラウがそれに気付いた様子はなかった。
王都の外に出たクラウが見たのは、兵士、騎士、冒険者の中に居て、一人笑っているだけに妙に目立つ者。
燃え盛るような赤色の短髪に、野性味を感じさせる顔付きの、鎧を身に付けたように盛り上がっている筋骨隆々な体付きで、その筋肉が自慢であるとローブと思われる服を腰に巻いて上半身を見せびらかせている――そんな男性。
この男性こそ、「装着式戦闘用外殻」を身に纏った火のヒストであり、この容姿については本人の希望通りである。
そこでクラウは気付く。
巨大な炎の柱が王都を囲んでいるが、驚くべきことにそれでこちらは被害を受けていない。
焼き尽くしているのは魔物だけ。
だから、クラウは味方であると判断――いや、本当に味方かどうかを確認するために声をかける。
「……これは、あなたがやったのか?」
「ん? もちろん! その通りだ!」
火のヒストは大胸筋を見せつけるような姿勢を取った。




