多分、通じた
………………。
………………。
どうなるのか心配で見ていたが、ドレアたちは無事に黒ローブたちを倒したようだ。
倒せた、ということは、邪神の「神性」がなくなったことで黒ローブたちの不死、不滅もなくなったということか。
もしくは――。
「貴様如きでは、この神骨を砕くこと叶わず! 嘆くのなら、己の骨密度の無さを嘆くが良い! ……というか、貴様骨あるのか?」
「無駄だあ! 我の神筋肉の前には一切通用せんぞ! 何故なら、貴様には圧倒的に何よりも筋肉が足りないからだ! ……というか、貴様のその体は筋肉あるのか?」
『……くっ! 訳の、わからぬことを!』
アブさんとカーくんに押されている邪神に、黒ローブたちに向けて意識を割ける余裕がないか。
まあ、骨密度とか筋肉とか、それらに繋がる関連を前面に出した会話なので、邪神も困惑しているのだろう。
……いや、主な原因は「神性」を失ったことだと思うけどな。
ともかく、ドレアたちが勝ってホッと安堵した。
いや、負けるとは微塵も思っていなかったが、思っていることとこの目で実際に見ることは違う。
というか、ドレアたち……さすがに消耗したのか、邪神との戦いでは現状だと足手纏いだと判断したようで、こちらには来ていないが……そこまで傷を負っているようには見えない。
……強くない?
相手は邪神の僕で、黒く染まった神器持ちだと言うのに………………あっ、神器どうしよう。黒ローブたちと一緒に落ちていったが……無人島だけではなく海の方にも落ちていったのが居たな。放っておいても……いや、邪悪になっているし、さすがに放置はマズいか。浄化……できるのだろうか? 聖女のリノファ……いや、そこにカーくんが居るから邪神を倒したあとに頼めばいいか。なら、回収か。
そうなると、俺はまだ満足に動けないし、アブさんとカーくんは邪神の相手で忙しいので、残るはドレアたちだが………………なんか騒々しくなっていないか?
なんというか、こう……主にドレアとファイがニーグと「人類最強」に食ってかかっているというか……絡んでいる?
ドレアとファイが主にとなるとどっちが強いかでよく揉めていたし、その辺りで自分の方が強いと主張している、とかだろうか。
多分間違っていないと思う。
疲れているだろうに、よくやるな、とも思う。
状況を考えろ、というか、疲れているんだから大人しく休めばいいのに、とついでに思う。
そう思っていると、ニーグと目が合った。
視線だけの会話を試みる。
――神器、回収よろ。
――わかった。やっておく。
多分こんな感じ。
間違っていないと思うが……まあ、大丈夫だろう。
ドレアやファイ、「人類最強」だと「……あっ」という感じで忘れそうだけど、ニーグなら安心だ。なんだかんだとしっかりしている。いや、抜け目ない、だろうか。元々王族だし、そういう教育を受けていたのかもしれない。
これで黒ローブたちの方の片は付いた。
あとは邪神の方だけ――と視線を向けようとした瞬間、黒い波動が周囲に広がっていく。
またか、という思いで邪神に半眼を向ける。
『……はあ……はあ……』
邪神の表情はわからないが、息を吐いているようで疲労の色が見える。
アブさんとカーくんは俺を守るような位置に居た。
結果は黒い波動だったが、邪神が何か仕掛けようとしたのがわかったからだろう。
守ってくれてありがとう、と一言添えてから尋ねる。
「アブさん、カーくん、今のは」
「やはり、某らには何も起こっていない」
「となると、各地の魔物大発生の方か。しかし、今更魔物大発生の方を弄る意味がわからんな」
『……これは、選択を、突き付けたのだ』
アブさんとカーくんが疑問を口にすると、邪神がそのように言ってくる。
「せ」
「選択だと?」
「何を選択させようというのだ?」
俺が何か言う前にアブさんとカーくんが口を開いた。
いや、別にいいけど。実際、先ほどまで戦っていたのはアブさんとカーくんだし。
でも、俺にもここぞとばかりに一言くらい言わせて欲しかった。
『……今、放った波動は……これまでで、最大の効力を発揮、するモノ……つまり、今各地で、質、数、共に揃った魔物が発生、している……さあ、選択の、時間だ』
邪神がこちらに向けて問いかけてくる。
『……このまま、我の相手をして、世界を滅ぼす、か、世界を守るために、我の前から去る、か……選ぶといい』
え~と、つまり、邪神との戦いはまだ続きそうな感じで、魔物大発生の方が強化されたから、時間をかけると各地が危ない。下手をすれば多くの人が死んで復興ができずにある意味世界崩壊。
だから、邪神を倒すことを優先して各地の状況を後回しにするか、各地の状況を優先して邪神を見逃すか――どちらか選べということか。
というか、邪神を見逃したとして、邪神に再起の芽はあるのか? どこかで力を蓄えるとか?
……まっ、その辺りはどうでもいいというか、考える必要がない。
何しろ、答えは決まっている。
「選ぶも何も、魔物大発生の方も対処済みだから――俺たちはこのままお前を倒すだけだ」
何故なら、元から魔物大発生の方も対処しているからだ。
魔物大発生が強化しようが問題ないほどに。




