ハッキリと言ってやる
眩い光が収まり、視界が戻る。
「……はあ……はあ……」
呼吸が乱れる中、確認すると――球体魔法陣は消えていた。
アブさん、カーくんは無事。
邪神もそのまま――誰も動いていない。
特に状況が変わったようには見えない。
「……はあ……はあ……ふう……」
けれど、手応えは――あった。
成功した、という実感がある。
その証拠は、今俺が抱いている倦怠感だ。
正直、まともに動くことができない。
いや、動けるのは動けるが億劫というか……正直座りたい。
莫大にある魔力の大半を一度に消費したことが原因だろう。
そんな俺の状態を心配して、真竜ノ杖が大急ぎで周囲の魔力を取り込んで俺に送っている。
――ありがとう。
助かるが……動けるようになるのはもう少し時間がかかりそうだ。
だから、今は様子を見ることしかできない。
アブさんとカーくんは……何か変化を感じているのか、確認するように自身の体を見ている。
邪神は周囲を確認して、特に何も変わっていないことに困惑しているように見えた。
……自分の変化には気付かない、か。
自身を侵すことは何人もできない、とでも思っているのかもしれない。
『……何も、起こって、いない? ……不発、か? ……何が、したかった、のだ?』
「……不発、ではないな……はあ……もう、終わっている……」
俺がどうにか答えると、アブさんとカーくんが俺の側まで来る。
俺の疲労具合を見て、守るために来てくれた――。
「ア、アルムよ! 見てくれ! 某を! この、某の骨を! 輝いているだろう! これは歓喜だ! 大歓喜しているのだ!」
「アルムよ! 見よ! 我のこの筋肉を! この誰もが魅了される筋肉の輝きを! この魅了する輝きは! 極上の甘露を味わっているようではないか!」
アブさんとカーくんが勢いのままに詰め寄ってきた。
いや、邪神が見えないんだが……正直言って邪魔である。
けれど、アブさんとカーくんは興奮したままでそれに気付いていない。
まあ、成功した訳だし、喜びたいのもわかるが……というか、アブさんもカーくんも輝きと言っているが………………か、輝いているか?
俺には輝いているようには見えないんだが……え? 俺だけそういう風に見えないとかではないよな?
確認したいが、ドレアたちは黒ローブたちとの戦いで忙しそう……あれ? なんか戦いがとまってない?
……あっ、球体魔法陣発動時の眩しい光が原因かな?
全員、どこか恨めしい感じでこっちを見ているし。
……なんか、すまん――と軽く頭を下げると、ドレアたちと黒ローブたちの戦いが再開した。
………………はっ! 待て待て! 戦いの前にアブさんとカーくんが輝いているかどうかの確認を先に……それはさすがに無理か。
こうなれば、仕方ない。
邪神に聞くか、とアブさんとカーくんを避けるようにして見ると――。
『……自ら隙、を晒すとは、愚かな』
襲いかかってきていた。
ほら、俺から見えないようにするから、こうなる――が問題なかった。
「うるさい! 今はそれどころではないのだ!」
カーくんの尻尾が邪神の胴体に巻き付き、締め上げ――邪神がそれでもとまらずに殴りかかってくる。
その拳を、アブさんが受けとめた。
……ん? いや、え? は? なんで受け止めて……ア、アブさん! 受けとめたら骨が……骨が……なんともない、な。
少しも砕けず――ヒビすらも入っていないと、まったくの無事である。
そこでカーくんが尻尾のさらに締め上げて、邪神を上半身と下半身に分けた。
体勢の崩れた邪神が少し下がったところで元に戻る。
そうか。元に戻るのは関係ないのか。邪神特有の能力かもしれない。
ただ、先ほどまではなかった、何かしらの影響はあったのだろう。
邪神は動きをとめ、確認するように自分の体を見てから、こちらに視線を向ける。
『……何を、した?』
懐疑的……違和感はあるが、その理由がわからない感じだろうか。
まあ、普通のことではないし、邪神であってもそこに考えが至らないのは仕方ない。
呼吸は落ち着いてきたから、教えてやろう。
バラしても問題ない――いや、バラした方がダメージが大きそうだ。
「教えてや」
「愚か者が! 聞けば素直に教えてもらえるとでも? 甘い! しかし、知った方がショックを受けるのは間違いない! 良し、教えてやろうではないか!」
「いいか! よく聞くのだ! 二度目の説明などしたくはないからな! まず」
アブさんとカーくんが説明しようとした。
俺としてはまだ倦怠感はあるし、まあいいかな、と思ったのだが、それを許さない存在が居た。
それはお前たちがすることではない――と言うように、真竜ノ杖が流れるような動きでアブさんとカーくんの頭部を叩く。
「痛ぁっ!」
「ぐっ! 何をする!」
アブさんとカーくんは顔を見合わせてから真竜ノ杖を見る。
真竜ノ杖からは、どことなく覇者とか覇王と言いたくなるような雰囲気が醸し出されていた。
アブさんとカーくんは、俺に場所を譲るように控える。
いや、これだと、まだ満足に動けないのに俺が標的にされそうな――まあ、いいか。
いざという時は守ってくれると信じている。……頼むぞ。
「……邪神。お前に起こったことは、俺の身にも起こってきたことだ。といっても、俺は受け継がれた側だがな」
『……何を、言っている? ……受け、継ぐ?』
「そうだ。お前を取り込んだ球体魔法陣の原型は別にある。俺はその原型を使って、これまで記憶と魔力を受け継いできた。まあ、俺の話はいい。今口にするべきは、お前の話だ」
邪神をしっかりと見て口を開く。
「球体魔法陣はお前用に調整された改良版だ。それは記憶と魔力ではなく、別のモノを他者へ――球体魔法陣に触れた者に受け継がせる。わかりやすく言えば、お前は元々持っていたモノをなくしたんだ。そのなくしたモノ――お前が元々持っていたモノとは『神性』。神が神であるために必要なモノ。それを、アブさんとカーくんが受け継いだ」
邪神は神である。
神は不滅で不死。
だから、神が神であるための「神性」と呼ばれるモノを、アブさんとカーくんに受け継がせた。
つまり――。
「お前はもう神じゃない。だから、もう不滅でも不死でもない」
ハッキリと、そう言ってやった。




