策、発動
邪神が消耗した。
いや、そう見せかけて罠に嵌める、という可能性もあるにはあるが……そういう風には見えない。
おそらくだが、背中側の二本の腕をなくし、巨大な魔法陣の数を五つから二つにすることで、消耗量よりも回復量が上回るのだろう。
真竜ノ杖が密かに周囲の魔力を取り込んで、邪神の回復を妨害している結果だ。
俺の魔力の自然回復量もその一助になっているはず。
ともかく、邪神が実感するほどに消耗しているのは間違いない。
邪神を倒すための策を使うのに、絶好の機会が訪れた。
「アブさん! カーくん!」
「わかっている! 個の機会は逃さない!」
「邪神は我らが押さえておくから、アルムは準備を始めろ!」
アブさんとカーくんが前に出る。
『……何か、考えがある、ようだが、無駄だ……神は不滅……お前たちが何を、しようとも、神を滅することは、できない』
無駄な足掻きを、と邪神がアブさんとカーくんを迎え撃つようにそのまま戦い始める。
それなりに休めたカーくんが前に出て、アブさんがその援護を行うが……うん。やはり、邪神に先ほどまでの勢いはない。
いや、弱くなったとかそういうことではなく、少し疲労を感じ取っている程度だろう。
未だ、アブさんとカーくんを相手にして、互角に渡り合っている。
……邪神からは余裕を感じられるので、互角以上かもしれない。
死なないこともそうだが、力の方も相当である。
アブさん、カーくん、頑張ってくれ、と思いながら俺も準備を始める。
本当は固定というか、できるだけ範囲を狭めた方がより強固となって邪神が相手でも成功確率が上がるのだが、範囲外に出られると困るというか失敗するのは間違いない。
だから、それなりの範囲が必要だ。
成功確率は、俺の莫大な魔力量と、あとは気合で上げよう。
アブさんとカーくんもそれがわかっているからこそ、できるだけ邪神が動かないように戦ってくれている。
あと、邪神の攻撃が俺に迫らないようにも。
助かる。
邪神を中心として、その周囲を回りながら飛び、要所で各属性魔力弾を空中に置いていく。
まずは火属性。次は水属性……と、無属性を含めた七属性を配置しなければならない。
……こうして準備をしながら思うのは、ラビンさんの凄さだろうか。
魔法発動時の魔法制御力とでも言えばいいのか、俺はこうして前準備が必要で、さらに真竜ノ杖の補助があればこそ正常に発動できるが、ラビンさんは描かれた魔法陣だけで正常に発動しているのだ。
俺が同じ条件で行えば、まともに発動しないか、あるいは暴走するのがオチである。
「ぬおっ!」
『……骨が砕ける、小気味良い音が、聞こえると思った、が残念だ』
声に反応して見えたのは、迫る邪神の拳をアブさんがギリギリで回避していた姿だった。
位置的に、勢い余って前に出過ぎてしまったように見える。
一発で砕け散るのだから余り前に出ないで欲しい。
ハラハラする。
けれど、他のことに意識を向けると失敗するかもしれないので、ここはアブさんとカーくんを信じて、集中して準備を進めていく。
……できるだけ急いで、無属性を含めた合計七つの属性魔力弾の配置が終わる。
次いで、瞬時に発動できるように魔力を練り上げていく。
失敗は許されない。
元々オリジナル魔法だし、何を行おうとしているかわからなくとも、二度目を許すほど邪神は甘くないだろう。
だからこそ、この一度で決めないといけないが……正直言って、どれだけの魔力が必要かわからない。
それだけのことをしようとしているのだ。
魔力をすべて使い切るつもりでいかないといけない。
………………。
………………。
緊張でお腹が……大丈夫。きっと気のせい。
魔力を練り上げ、真竜ノ杖を構え――俺の準備が終わる。
いつでも発動できるように身構えて、アブさんとカーくんに向けて一つ頷く。
アブさんとカーくんは直ぐに反応する。
「これで――どうだ!」
アブさんが大爆発を起こす赤黒い球を連発。
特に頭部を狙って大爆発を起こし、上がる黒煙で邪神の視界を封じる。
今更だが、邪神が視界ではなく気配とか魔力とかを感知して動いていたら、なんの意味も――いや、このことについて考えるのはやめよう。
本当に今更だ。
それに、僅かな時間でも戸惑わせることができればいいのだから。
「ついでに、これも食らっておけ!」
カーくんが竜の息吹を薙ぎ払うように放って、邪神の腹部と、その周囲にある巨大な魔法陣二つを破壊する。
魔法陣は少し邪魔だったので助かった。
攻撃し終わると同時に、アブさんとカーくんは邪神から離れる。
邪神の腹部が直ぐ元に戻り、邪魔だと黒煙が振り払われていく。
だが、僅かとはいえ、邪神をその場に留めておくことはできた。
俺は魔法を発動。
邪神を中心とした周囲に置いた、七つの属性魔法弾を起点として、そこから幾何学模様が広がっていき――邪神を内部に取り込んだ球体魔法陣が描かれる。
邪神が小さ――いや、今でも大きいが、カーくんくらいの大きさになってくれて助かった。
元の大きさでもやろうと思えばできたと思うが、その分魔力を大きく消費していたのは間違いない。
その分、余裕ができたので球体魔法陣を強化することができた。
これで終わりではない。
アブさんとカーくんが球体魔法陣に触れる。
触れたところから新たな球体魔法陣が描かれ、アブさんとカーくんを内部に取り込む。
一度に使用する魔力量の多さに気を失いそうになるが……耐える。
アブさんとカーくんに関しては、カーくんが主であり、アブさんは念のためだ。
黒煙が完全に振り払われて、邪神が状況に気付くが――もう遅い。
眩い光が視界を白く染める。




