待つ必要はない
「『【詠唱破棄】光槍』」
光り輝く巨大な槍を十数作り出して、邪神に向けて放つ。
邪神は四本腕を振るって、十数の光り輝く巨大な槍をすべて払い飛ばす。
刺さらなかったか。
注ぐ魔力量が足りなかった。
「次はもっと魔力を注いで」
『……いや、次はもっと、ではない! ……我は、待て、と言った! ……そこは待つところ、だろう!』
どことなく邪神が焦っているように答えるが、俺としては何を言っているんだ、こいつは? という気持ちである。
「は? なんでお前に待てと言われて待たないといけないんだ? そもそも、俺が待ったとして、その間もお前は回復するんだろう? なら、待つ必要はないというか、待つ訳ないよな。――『【詠唱破棄】光の拘束』」
邪神の周囲に巨大な魔法陣を展開。
そこから光り輝く巨大な鎖が飛び出し、邪神の周囲にある五つの巨大な魔法陣を破壊して、そのまま邪神の四本腕と両足に巻き付いて拘束する――が、もって数秒だろう。
だから、その前に行動する。
「『【詠唱破棄】五重魔力弾』」
闇属性と無属性以外の五つの属性を合成した魔力弾を放つ。
普通よりも魔力を大量に注ぎ、巨大となった魔力弾が邪神の腹部を貫通する。
邪神の腹部は直ぐ元に戻り、合わせて拘束も力任せに砕かれてしまう。
『……いいだろう……そっちが、その気なら、このまま話す……いや、お前に一つ、聞きたい』
そう言いながら、邪神は再び五つの巨大な魔法陣を展開して、そこから魔法で攻撃してくる。
こっちとしてはそれを相殺するのに忙しいのに、そんなことは知らないと邪神が話しかけてくるのでいい迷惑だ。
ただ、受け答えくらいはしておこうと思う。
これで少しでも邪神の意識が逸れてくれれば、それが隙となる訳だし。
『……何故、お前は、それだけ、魔法を使える?』
「は? 言っている意味がわからないな」
相殺するので大変だから、もう少しわかりやすく言って欲しい。
『……そうだな……言い方、を変えよう……何故、それだけ、次々と大きな、魔法を放ち続ける、ことができる?』
「は? 言っている意味がわからないな」
『……そう言えば、いいと思って、いないか?』
……これは邪神相手とはいえ、失礼をした。
何しろ、邪神の放つ魔法を相殺しつつなので、ほぼ無意識に答えてしまっていたのだ。
しかし、何を聞きたいのか、さっぱりである。
「いや、できるからできるとしか言いようがないが?」
『……それが、不可解なのだ……どう、考えても、おかしい……普通、これだけ大きな魔法を、放ち続ければ、魔力切れを起こす、はずだ』
「俺の魔力量は莫大だからな。そう簡単に魔力切れは起こさない」
無のグラノさんたち――七人分だからな。
魔力切れはそうそう起こらない。
『……いや、莫大だから、で済む話、ではない……そもそも、これだけ魔法を使用、しているにも関わらず、まったく疲れた、様子がないのが、おかしい』
「え?」
邪神に言われて自分の状態を確認してみる。
………………。
………………。
邪神の魔法攻撃を相殺しつつなのでしっかりと確認できた訳ではないが、なんか魔力量、あんまり減ってない気がする。
いやいや、そんな訳がない。
邪神との戦いが始まってから、かなり魔法を使っている。
それなのに、あんまり減っていないというのはおかしい。
莫大な魔力量に比例して自然回復量も相当だが、それ以上の魔法を使い続けている自覚はある。
消費魔力量の方が多い……はず。
「……どういうことだ?」
『……いや、我に聞いて、どうする……わかっていた、として、答えると、でも?』
「だよな。うん。いや、その通りだ。わかっている」
というか、邪神から聞いてきたのだし、答えを知っている訳がない。
気にはなるが、現状を考えれば……悪くことではないのでは?
何しろ、俺は相当消耗していたと思っていたが、実際は消耗していないようなモノだ。
このまま俺が魔法合戦を続ければ、邪神が先に消耗するかもしれない。
……まあ、その前にやられないように気を付けないといけないが。
『……なんにしても、お前を、殺せば、意味のないことだな』
「当然、そうなるよな」
邪神の魔法攻撃がより激しくなる。
それでも直接攻撃に出ない辺り、俺を侮ったままなのは間違いないようだ。
俺もより強い魔法を放って相殺していく。
ただ、一度疑問に思うと気になってしまうモノ。
……本当に、どうして消耗していないんだろうか?
不思議に思う俺に、真竜ノ杖が目に付く。
……まさか? と今度は周囲の魔力の流れを確認すると――真竜ノ杖が大半を吸収して俺に注いでいた。
それは邪神が取り込んでいる魔力よりも多く、寧ろ取り込ませないように邪魔している。
一体いつから? ――は別にいいか。
重要なのは、真竜ノ杖のおかげで俺は回復していて、邪神は消耗しているという状況になっている、ということである。
そして、邪神は……そのことに気付いていないということも。
元々強大な力を有しているからこそ、些細と言える変化に気付けないのかもしれない。
だから、このことをわざわざ言う必要はない。
優位に立った――と魔法合戦を続けていると……。
『……くっ……まさか、こんなことが』
邪神から呻くような声が聞こえたかと思えば、四本腕の内――背中側にあった二本が体内に取り込むようになくなり、周囲に五つある巨大な魔法陣の三つが消えて二つになった。
――その時が来たかもしれない!
邪神の消耗が目に見えて現れた。




