足りなかった
邪神の猛攻に晒されて、カーくんは自ら離れられないようだ。
下がれば、そのまま押し切られるのだろう。
声をかけてはみたものの、無駄だったかもしれない。
いや、これから行くぞ、と伝えられた訳だし、カーくんも心構えができて上手く下がれるはずだ。
そのため――無理矢理にでも介入する。
邪神がチラリと俺を見た。
再度、五つの巨大な魔法陣から魔法を放って近付けさせないつもりだろうが、その前に動く。
「『【詠唱破棄】炎腕、氷腕、嵐腕、岩腕、煌腕、影腕』」
周囲に六つの巨大な魔法陣――邪神の周囲にある巨大な魔法陣と同程度の大きさ――を展開。
そこから、それぞれ巨大な魔法陣に合わせた燃え盛る炎の巨腕、凍てつく氷の巨腕、荒れ狂う嵐の巨腕、堅牢な岩の巨腕、煌めき輝く光の巨腕、暗く染める闇の巨腕が飛び出す。
邪神が五つの巨大な魔法陣に対抗して六つとした。
闇属性は効果ないかもしれないが……まあ、勢いって大事だから。
ここまでくれば、である。
それに、手数が多いに越したことはないからだ。
決して――そう、決して、魔法なら俺の方が上だと証明するために六つにした訳ではない。
六本の巨大な腕と共に邪神へと襲いかかる。
『……はっ……そんなに、竜よりも、先に死にたいと、いうのなら……いいだろう……殺してやろう』
「カーくん! 下がれ!」
邪神の意識が俺に向いたことでカーくんへの攻撃が緩んだ。
カーくんが後方へと下がる。
「いけるんだな? アルム」
「ああ、任せろ! カーくんは少し休め!」
すれ違いざまに言葉を交わして前に出る。
カーくんは、アブさんが見てくれるだろう。
邪神に意識を向けて、六本の巨大な腕で殴りかかった。
「フルボッコにしてやる!」
『……なら、逆に痛め付けて、やろう』
「こっちは六本! そっちは四本! できるモノならやってみろよ!」
『……そう、だな……では、こうしよう』
邪神の周囲にある五つの巨大な魔法陣のすべてから、真っ黒な巨腕が飛び出てくる。
……えっと、邪神が今四本腕で、新たに五本の真っ黒な巨腕だから……合計九本の巨大な腕か。
あれ? 手数では勝っていたはずなのに。
こうなったら、俺の二本の腕も足して……細腕だな。足しても八本で足りない。
「………………う、おおおおおっ! 砕けろっ!」
煌めき輝く光の巨腕以外の五つの巨腕を、邪神の周囲にある五つの魔法陣から出ている真っ黒な巨腕にぶつけて――どちらも砕け散りながら消滅。
邪神本体の四本腕が俺に向けられ――一本は煌めき輝く光の巨腕で相殺。
残り三本の腕は、前に進みながら回避していく。
障壁が通用すれば防ぐのだが、容易に砕かれてしまうので隙間を縫うように進む。
なんか妙な姿勢になっている時もあったが、誰も見ていないし、特に気にしない。
「……もう少し避け方を」
「あれはあれでアルムらしいが」
そんな声が聞こえてきたが、俺が気にしていないのだから、アブさんもカーくんも気にしないで欲しい。
そうして、邪神の直ぐ側まで近付くことができた。
「これだけ大きさが違えば、やりづらいだろ?」
邪神が振り払うような動きを取るが、それをかわして――。
「『【詠唱破棄】断罪光炎柱』」
邪神の上下に巨大な魔法陣を展開し、その両方から輝く炎が降り注いで焼き尽くしていく。
放つのをやめると直ぐ元に戻るだろうから、このまま放ち続ける。
まあ、この大きさのを放ち続けるとなると俺もかなり魔力量を消費するが、邪神も大きく消耗させることができるはずだ。
そう思っていたのだが、駄目だった。
降り注ぐ輝く炎の中から邪神の腕が飛び出してきて、俺に殴りかかる。
回避するが、その先に巨大な魔法陣が展開。
俺は展開していないので、誰が……いや、考えるまでもない。
「くっ」
これも回避しようとするが、巨大な魔法陣から出てくるのは単発ではなく多発の真っ黒な魔力弾。
範囲が広く、すべてを回避することはできない。
合成魔法を解除して、真っ黒な魔力弾を相殺するように魔法を放つが、その内の数発が相殺できずに迫り――当たる前に障壁が防いだ。
さすが真竜ノ杖。障壁は本当に魔法防御の方が強いようだ。
ただ、降り注ぐ輝く炎は消え、邪神が無事な姿を現わす。
相変わらず傷を負ったようには見えないが――消耗していればいいな。
『……今のは、中々な、魔法だったぞ……では、お前は魔法で、殺してやろう……』
邪神の周囲に巨大な魔法陣が五つ展開。
……休憩入れない?
そう提案してみようかな? と思ったのだが、口にする前に邪神の周囲の五つの魔法陣から次々と魔法が放たれる。
……物量で攻めるのはやめないか?
そう提案してみようかな? と思ったのだが、口にする暇がないほどの密度であるため、その対応に追われて無理だった。
けれど、正直に言えば助かる。
直接攻撃だと防ぐのが苦労しそうだし、魔法ならこっちも魔法で対抗できる。
ただ、邪神の魔法攻撃は凄まじく、完全に防戦に回ってしまった。
それでも、魔法なら負けていられないと相殺しつつ、時折反撃の魔法も放つ。
……その結果を気にしてはいけない。
そうして、少しの間邪神と魔法合戦を繰り広げていると――。
『……いやいや、待て待て』
邪神から待ったが入った。




