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賢者巡礼  作者: ナハァト
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サイド 対黒ローブ 6

 アルムが問題とした時間の経過は、各方面に影響を与えるのは間違いない。

 大陸各地の魔物大発生(スタンピード)との戦いでは、まだその影響は僅かながら受けている程度だろう。

 影響が僅かなのは、数に対して数であたっているからである。

 時間の経過と共にその影響は大きくなっていくが、今はまだ大丈夫だろう。

 しかし、邪神の(しもべ)である、黒い武具を持つ黒いローブの者たちと戦っているファイたちは、今まさにその影響を受けていた。

 何しろ、一対一である。

 しかも、相手は傷を受けても即時回復する上に疲れ知らずというだけではなく、その戦闘能力も高い。

 それこそ、誰の目から見ても有数の実力者であるファイたちであっても、手を抜いて戦えるほど甘い相手ではないほどに。

 また、相手が倒せない状態である以上、全力戦闘で一気に決着――ともできない。

 だからこそ、ファイたちは未だ全力は出していないが……黒いローブたちとの戦闘は、全力に近い状態での戦闘であった。

 そうなると、疲労の蓄積は早く積み上がっていく。


「……はあ……はあ……」


「どうした? 目に見えて息をするようになっているが……もう限界が見えているのか?」


 僅かに乱れたファイの呼吸に対して、黒い剣を持つ者がそう言う。

 その口調に気遣いは一切ない。

 ただ、もう終わりなのか、よくもった方だ、と少なからず感心が含まれていた。

 ファイは槍を構えたまま大きく息を吐き、笑みを浮かべる。


「はっ! そんな訳ねえだろ! 思ったよりも楽しめているからな! 体力の配分を少し忘れちまっただけだ! それに、これくらい……ハンデの一つとして丁度いいだろ?」


「そうか。なら、遠慮は要らないな」


「はあ? 俺を相手に遠慮? できる訳ねえだろ、そんなこと!」


「ハハッ! どうだろう、な!」


 黒い剣を持つ者が飛び出し、斬りかかる。

 ファイは槍を巧みに使い、受け、流し、時に反撃。

 黒い剣を持つ者に傷を与えるが、それは直ぐに元に戻る。

 対して、ファイの方は既に無傷ではなくなっていた。

 戦闘に大きな影響が出る大きな傷や致命傷は負っていないが、それでも小さな傷は既にいくつか負っている。

 ファイは、少なからず疲労を感じていた。


     ―――


 疲労を感じているのは、何もファイだけではない。


「アハハハハハッ! あれあれ? どうしたの? もう私の動きについてこられなくなっちゃった?」


 超速で動き続けている黒い靴を履いた者が、狙いを定めているニーグに向けてそう言う。

 そこにあるのは嘲笑。

 というのも、先ほどまでは超速以上の動きをしていた、ニーグの足がとまっているからだ。


「……そうだな。別についていけなくなったとか、そういうのはないな。追い抜くのが面倒になっただけだ」


「へえ、言うね。でも、言葉はしっかりと、正しく言うべきじゃない?」


「正しくとは?」


「もちろん、もう私を追うことができなくなった――てね!」


 黒い靴を履いた者がさらに加速する。

 ニーグの目は、その動きを追っていた。

 だから、黒い靴を履いた者が攻撃してきても対応できる。

 けれど、ニーグは表には出していないが、体の奥の方に溜まり始めている疲労を感じていた。


     ―――


 ドレアも似たようなモノだ。


「どうした? 先ほどまであった苛烈と言えるだけの攻めがなくなったぞ? もう終わりか?」


 黒い盾を持つ者が、ドレアに向けてそう言う。

 その口調に含まれているのは落胆。

 黒い剣を持つ者、黒い靴を履いた者は、これまでに致命傷の類を何度か受けていたのだが、黒い盾を持つ者は未だにそれだけの攻撃を一度も受けていない。

 黒い盾でしっかりと防ぎ、ドレアの攻めが苛烈であればあるこそ、それを黒い盾で耐え切っていることに、どこか誇らしさを抱いていたのだ。

 これだけの攻撃を自分は防ぎ切ることができるのだ、と。

 だからこそ、ドレアからの苛烈な攻めがなくなるということは、誇らしさを感じる時間の終わりを意味しているため、落胆なのだ。


「はっ! 勝手なことを言う! 別に限界じゃねえよ! というか、私の限界は私が決める! お前が勝手に私の限界を決めるな!」


「なるほど。確かにそうだな。勝手に決めて悪かった。……だが、俺の見立てだと、そう間違っていないと思うが? ……汗かいているぜ、あんた」


 黒い盾を持つ者が指摘した通り、ドレアは汗をかいていた。

 呼吸は乱れていない。しかし、僅かではあるが体は疲労を感じている。


「……だから、どうした? これくらい――私が疲労したくらいで勝てると思っているのなら、随分と甘い考えだな。お前が死ぬ時に如何に自分が甘かったかを痛感するだろな」


「ハハハハハッ! 痛感する? 俺が? できるとでも?」


「今からその時が楽しみだ!」


 ドレアと黒い盾を持つ者は戦闘を始める。

 ファイ、ニーグ、ドレアは確かな疲労を感じていた。

 手を抜けない戦いを続けて、それなりに時間が経っているのだから当然である。

 いや、それだけではない。

 戦場となっているのは空中なのだ。

 飛び続ける――空中に居続けるだけで、たとえ僅かであろうとも魔力を消費し続けている。

 ハッキリ言えば、状況は良くない。

 少しでも疲労を感じたまま、それが休みなく続くとなれば、限界は当人が思っているよりも早くに訪れるだろう。

 このままでは、そう時間はかからずに、状況は黒いローブたちの方に傾いて覆せなくなる。

 しかし、まだ疲労を感じていない者も居た。

「人類最強」である。

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