どちらかといえば、だから
カーくんくらいの大きさになった邪神に対して、魔法を放つ。
「『【詠唱破棄】裁く光剣』」
光り輝く巨大な剣で斬りかかり、その刃が邪神の体を――斬れなかった。
寧ろ、光り輝く巨大な剣の方が砕けた。
傷付いてすらいない。
先ほどまではこれで両断できていたのに――カーくんは魔力の圧縮で強くなったと言っていたが、体の方も密度が増して相当頑強になっているようだ。
そういう手応えのようなモノも感じられた。
だが、無効化のような一切通じないような手応えではない。
つまり、単純に通じるだけの威力が足りないだけだ。
実際――。
「ふんっ! ぬんっ! おっ! でやっ! はっ!」
気合を込めたカーくんは、邪神と真正面からやり合っている。
殴り、蹴り、噛み付き、頭突き、金的と、様々な手段での攻撃を行い、そのいくつかは邪神にダメージを与えている――ように見えた。
カーくんの攻撃はそれだけの威力がある、ということだ。
つまり、それだけの威力があれば、今の邪神に通用するということである。
「『【詠唱破棄】裁く光剣』」
同じ魔法ではあるが、今度は威力が違う。
注いだ魔力が違うのだ。
これまでよりも大量に魔力を注いだ光り輝く巨大な剣は、より鋭利になって輝きが激しくなっている。
それで邪神に斬りかかる――が、斬り裂くことはできずに、受けとめられた腕の半ばまで斬ったところでとまってしまった。
いや、先ほどと違って砕け散るようなことはならなかっただけマシ――。
「いかん、アルム!」
カーくんが俺を突き飛ばす。
俺が居た場所に、邪神の背中側の腕の拳が通過していく。
危なかった。殴り殺されるところだった。
「助かった、カーくん」
「気にするな! こちらの要はアルムだからな! 障壁で守れないのなら、我が守るのは当然だ!」
そんなカーくんの言葉に反応して、何やら真竜ノ杖が憤りを表すように乱雑に動き、俺に何やら訴えかけてくる。
そこは既に真竜ノ杖と通じ合っている俺。
何を訴えているのか直ぐにわかった。
「カーくん。真竜ノ杖によると、障壁はどちらかといえば魔法攻撃の方に強く、直接攻撃の方には弱いから、先ほどのは砕かれても仕方ないって……弱い?」
言っていて違和感があった。
別に直接攻撃にも弱くないと思うが……まあ、魔法攻撃と比べたら、ということか。
「あ、ああ、わかった。そういうことなら仕方ない、な? とりあえず、今の邪神の放つ攻撃はアルムとアブには危険過ぎるから、このまま我が正面からやり合おう。援護を頼む!」
少し戸惑っていたカーくんだったが、邪神の相手を始めると集中していく。
確かに、カーくんの言う通りだ。
俺も邪神の攻撃を受けてはならないので、援護に回る。
カーくんが邪神と近距離でやり合い、俺とアブさんが遠距離から魔法で援護。
時折、俺やアブさんに向けて邪神が攻撃を放ってくるが、上手く回避している。
それでも、危ない時はあったのだが、その時はカーくんが妨害してくれたので、俺もアブさんも無事だ。
まあ、無事なのは邪神も同じ。
これまでと同じく、こちら側の攻撃を受けても直ぐに元に戻っていた。
それで消耗しているとは思うが、邪神に消耗させるだけの攻撃を放つのに先ほどより大きく力を使っているため、こちら側も消耗が大きくなっている。
下手をすれば、こちら側の方が先に消耗し尽くしてしまうかもしれない。
それに加えて、ここにきて一つの問題が――大きくて無視できない問題が出てきてしまった。
それは――。
「ぐっ。その程度か? 邪神という割には大したことがないな!」
口ではそう言っているが、邪神の攻撃でカーくんがダメージを受けるようになった。
それで一気に――とまではいかないし、竜の自然治癒力で回復はしているが、こちらの消耗が大きくなった状態で、さらにダメージを受けるようになったのが問題なのだ。
より消耗が大きくなる。
一応、邪神がカーくんだけに攻撃しないように俺とアブさんも援護の攻撃を続けるが、やはり直接やり合っているカーくんを、邪魔となる存在だと認識したようで、敵意――排除しようと、カーくんに向けて積極的に攻撃を繰り出していた。
『……どうやら、この場で、もっとも強いのは、貴様、のようだな』
「そこまでこの世界を憎むか、邪神よ! 己が行いの結果であるにも関わらずに!」
『……だが、残念だった、な……神器は、既に、我の力に侵された……つまり、もう我を、封印する、ことはできないぞ』
「くっ! さらに力を上げるか! だが、まだまだ! 必ず屠ってみせる!」
……う~ん。なんか交わしているように見える掛け合いがまったく噛み合っていない。
いや、それは別にいいのだが……このまま状況が続くのはマズい。
ここからすべて上手くいって、こちらよりも先に邪神が消耗したとしても時間がかかり過ぎてしまう。
ドレアたち、大丈夫だろうか?




