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賢者巡礼  作者: ナハァト
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影響があったようだ

 邪神に障壁ごと投げられた。

 飛んでいく。

 障壁の中に居るのでダメージはないし、そもそも障壁は俺と真竜ノ杖が中心となって張られているので、投げ飛ばされたといっても障壁の中でぐるぐると回るようなことにはならなかった。

 目が回るようなことにはならなかったし、そのことには安堵。

 問題なのは飛んでいく速さだ。

 邪神は相当力を込めて投げたようで、邪神は巨大なのでまだ見えているが、戦場となっていた島の方はもう見えなくなっていた。

 とりあえず、このまま飛ばされ続ける訳にはいかない。

 急いで戻らないと。

 勢いはまだ落ちていないので……まずは風属性魔法で勢いのある風を後方に出してこれ以上飛んでいくのをとめよう。


「『【詠唱破棄】強風噴射ストロングウィンド・インジェクション』」


 手のひらを後方に向けて、そこから強風を――。


「「「グギャアッ!」」」


「「「ギャアッ!」」」


 魔物――四枚羽の巨大なワイバーンの群れ――六体が現れる。

 俺を餌だとでも思っているのか、早い者勝ちだと愉快そうに鳴きながら襲いかかってきた。

 ワイバーンたちはかなりの速度で距離を詰めてくる。

 ふんっ。タイミングが悪かったな。

 今の俺は魔法を発動する直前だったのだ。

 その魔法が発動する手のひらを、そのまま四枚羽の巨大なワイバーン六体に向けて放ち――さらに魔力を注いだことで強風は鋭い風の刃の乱舞へと変わり、六体すべてを瞬く間に切り刻む。

 今はお前たちの相手をしている暇は――。


「あっ」


 後方に向けて出すはずだった強風をワイバーンたちの方に向けてしまった。

 想定していたのとは違う方向に飛んでいってしまう。


     ―――


 直ぐに立て直そうとしたが想定以上の風力を出していたようで、飛んでいくのをとめることが中々できなかった。

 途中、体勢不十分でくるりんと一回転したのも影響しているかもしれない。

 そうしてとまったのは、大陸の上空だった。

 ついでに言えば、見慣れた光景が眼下に広がっている。

 アフロディモン聖教国の聖都近くだ。

 聖都は結界のようなモノで守られているので大丈夫そうだが……なんか魔物が多い気がする。

 倒す数より現れる数が多いということかもしれないが……それでも多いと思う。

 まるで、さらに現れる数が増えたみたいに………………あっ! ふと、邪神の放った黒い波動が脳裏を過ぎる。

 もしかして、邪神の黒い波動が影響しているのか?

 その可能性はある。

 となると、邪神の黒い波動は大きく広がっていったから、各地で同じようなことが起きているのは間違いない。

 その内に、数ではなく強いのも出てきそうな気がする。

 ……まあ、いざという時の切り札は用意しているというか、あとはもうラビンさん次第だ。

 まだそれらしいのが見えないので、まだできていないのだろう。

 もう少しだとは思うが。

 とりあえず、一番は邪神討伐なのでさっさと戻ろう。

 でも、少しだけ手助け。

 魔法を放って数を減らしておく。

 ついでに、近くの空中に巨大な黒い球体があってそこから魔物が現れているので、そこにも魔法を放った――が、巨大な黒い球体は霧散すると直ぐ戻った。

 邪神の体と同じようなモノのようだ。

 今はどうにもできないか。

 再度魔法を放って魔物の数を一時的に減らしたあと、邪神が居る戦場に向けて飛んでいく。


     ―――


 急いで戻る。

 戻る前に考えるのは、魔物大発生(スタンピード)の魔物の数が増えているということを、皆に伝えるかどうか。

 ………………やめておこう。

 対策があって大丈夫だからといっても、今伝えれば余計な不安を煽るだけになってしまうことになりかねない。

 そう判断したところで戻った。

 状況は――特に変わっていない。

 攻防は続いていて、誰かが追い詰められているといったこともなさそうだ。

「人類最強」も空を飛ぶことに慣れてきたのか、かなり動きがよくなっている。

 黒い杖を持つ黒ローブは距離を取って魔法を放っているが、「人類最強」は大したダメージは食らっていないようだし、その内思うように動けるようになるだろう。

 その時が黒い杖を持つ黒ローブの最期になるだろうな。

 そう思っていると、黒い盾を持つ黒ローブを攻め続けているドレアから声がかけられる。


「戻ってきたか! 投げ飛ばされるなんて、情けない!」


「いや、いきなりだったし、アレだからな! 勢い、凄かったからな!」


「あっそ。まあ、私なら直ぐ戻ってきたけどな!」


 いや、どうやって? と思うが、あえて言わない。

 なんか理不尽と言いたくなるような行動で戻ってきそうだからである。

 ただ、ドレアは俺が戻ってきたから――というだけで声をかけた訳ではなかった。


「アルム! なんか黒ローブ共(こいつら)が言うには、さっきの黒い波動は魔物大発生(スタンピード)に影響を与えているんだとよ! 大丈夫、なんだよな?」


 どうやら、黒ローブたちがバラしたようだ。余計なことを。

 おそらく、ドレアたちの動揺を誘うつもりだったのだろう。面倒なことを。

 一応、ドレアたちに動揺している様子は見られない。そこは安堵。

 少なくとも、表面上は。内面はわからない。

 だから、そういうことなら安心させるように断言する。


「ああ、もしそうなっていたとしても問題ない! そういうのも対策している!」


「……だ、そうだ。残念だったな!」


 ドレアが黒い盾を持つ黒ローブに向けてそう言う。

 ニーグとファイにも聞こえていたはずなので、大丈夫だろう。

「人類最強」は黒い杖を持つ黒ローブしか見えていないようなので問題ない。

 俺は邪神と戦っているアブさんとカーくんの下へ。


「無事か? アルム」


 アブさんが近付いてきて、気遣うように言ってくる。

 問題ないと頷く。


「投げられただけだからな! 問題ない! 次はないように気を付け」


「むっ!」


 カーくんから訝しむような声が漏れ出る。

 視線を向ければカーくんは邪神を見ていたので、俺も邪神に視線を向ける。

 ……最初は気付かなかった。

 けれど、ジッと見ることでカーくんが何に反応したのかわかる。

 邪神が小さくなっていた。

 いや、正確には小さくなっていっている。

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