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賢者巡礼  作者: ナハァト
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きっと想定外

 邪神が立ち上がった。

 先ほどまでは丸まった姿勢のままで両腕を動かしていただけだったが、今からは本格的に動き出すということ……つまり、邪神が目覚めた、ということだ。

 ………………。

 ………………。

 いや、まあ、うん。それはいい。それはわかった。

 邪神と本格的に戦うことを意味している、というのは間違いない。

 でも……アレかな? 想定外……うん。想定外という言葉が相応しいだろう。

 こっちに、ではない。

 邪神に。

 元々丸まっている位置が悪かったのだ。

 邪神は空中で丸まっていて、伸ばした足を下の島につければいいものを、丸まっていた空中の位置から立ち上がった……立ち上がってしまった。

 そして、邪神は山のように巨大。その上には丁度巨大な雲が広がっていた。

 結果――上半身が巨大な雲に隠れ、巨大な雲から下半身だけ出しているという、どことなく間抜けな姿となった。


「「「………………」」」


 思わず、アブさん、カーくんと順に目を合わせてから、もう一度邪神の姿を見る。

 ……うん。変わらない。どことなく間抜けな姿。


「「はははははっ!」」


 笑い声が響いたかと思えば、ドレアとファイだった。

 戦いに集中しろと言いたい。

 そんなドレアとファイの態度に怒ったのだろう、黒い剣を持つ黒ローブと黒い盾を持つ黒ローブの動きが少し激しくなったように見えた。

 ……まあ、黒ローブたちは任せたのだから任せよう。

 笑って危険になったとしても自己責任ということで。

 とりあえず、下半身しか見えていないのならまずは下半身だけ攻撃を――視線を感じる。

 上を見る。

 巨大な雲から邪神の顔部分が出ていて、こちらを覗いていた。


「覗き駄目。絶対」


 とりあえず、たとえ邪神であろうともそれは許されない行為である、と言っておく。

 邪神の返答は、巨大な雲から飛び出してきた巨大な拳。

 叩き落とすとか払い落とすとか、そういう意図ではない。

 そのまま殴り殺すつもり気満々なのがわかる。

 だが、そのまま殴り殺せると思うなよ。


「『【詠唱破棄】裁く光剣ジャッジメント・ライトソード』」


 俺の周囲に光り輝く剣を三本作り出す。

 数は少ないが、その分魔力をたっぷりと込めた。

 光り輝く剣の大きさは俺の数倍。

 それを、タイミングを見計らって振り下ろす。

 迫る邪神の拳を四つに斬り裂く――が。


「ちっ!」


 直ぐに回避行動を取る。

 四つに斬り裂いた邪神の拳が直ぐに元の形に戻り、そのまま殴りかかってきたので回避したのだ。

 だが、それで終わらせない。

 光り輝く三本の剣はまだ残っているので、狙うのは拳ではなく腕――を斬り落とす。

 斬った手応え――はあった。

 けれど、斬り落とした腕は霧散するように消え、邪神の腕が元に戻る。


「斬り落としても意味がない、か」


 ん~……と唸るが、そこにカーくんの声が飛んでくる。


「いや、そうでもないぞ! 動くようになってから、周囲から取り込んでいる魔力の流れが弱くなっている! また、斬り落とした腕が元に戻る際にも大きく消費していた! つまり、取り込む分より消費を大きくすれば!」


「邪神を消耗させることができる、ということか!」


 そして、消耗し切った時が――こちらの策の絶好の機会。

 目標ができれば、まずはそれを実行するだけだ。


「アブさん!」


「聞こえていた! 攻撃を続ければいいのであろう! 圧殺するような攻撃を、な!」


 といっても、アブさんは一撃でも食らえば終わりなので回避主体である。

 その代わり回避中でも魔力を溜めて、魔法の威力を上げてきた。

 カーくんは、変わらず邪神の攻撃を受けとめている。

 ただ、邪神の体の一部を失わせることが有効だと判断したのか、受けとめてから爪で裂き落としたり、竜の息吹(ドラゴンブレス)で焼き消したりと、カーくんも攻撃の威力を上げてきた。

 俺も魔法の威力を上げるだけではなく、数も増やしていく。

 邪神の動きは単調であるし、見ようによってはこちらが優勢に見えると思う。

 このまま一気に弱らせることができるかもしれない――と思った時、邪神が突然動きをとまった。

 弱らせた――という風には見えない。

 何か力を溜めているような、そんな感じ――と思った瞬間。


「グガアアアアアッ!」


 邪神が叫ぶ。

 衝撃で巨大な雲が飛び散るように消え去り、邪神の姿が露わになったかと思えば、今度はその体から黒い波動が発して、そのまま全方位に広がっていく。

 突然のことで俺の反応は遅れたが、真竜ノ杖は違う。

 障壁が瞬時に張られて、黒い波動から俺を守ってくれた。

 ありがとう。真竜ノ杖。

 ――いや、俺は防いだが、アブさんとカーくんは?

 どうなった? と様子を窺う。

 アブさんとカーくんは共に両腕を顔の前に交差させて、黒い波動を防ぐような姿勢を取っていた。

 黒い波動を浴びたのは間違いなさそうだが……。


「アブさん? カーくん?」


 声をかけてみる。

 アブさんとカーくんは交差させた両腕を解いて、自分の体をペタペタと触り………………何かあった? と首を傾げた。

 特に何かがあったような様子はない。

 とりあえず、ホッと安堵。

 こういう突然のことには気を付けていかないと……ただ、アブさんとカーくんに変化がないとなると……ドレアたち、もしくは黒ローブたちの方か? と周囲の戦闘を見れば………………いや、特に変わりはない。

 黒ローブたちが強くなったとか、そういうこともなさそう。

 ……なんだったんだ? 今のは?

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