サイド 対黒ローブ 5
ファイの槍が黒い剣を持つ者の胸部に突き刺さる。
「……っと」
ファイは直ぐに槍を引き抜こうとする。
合わせて、体ごと少し下がった。
黒い剣を持つ者が胸部にファイの槍が突き刺さった前に出て、そのまま黒い剣を振ってきたからだ。
槍を引き抜き、黒い剣もかわして、ファイは黒い剣を持つ者に向けて構える。
「胸を突き刺しても死なないのか」
ファイが言ったように、槍が突き刺さったはずの黒い剣を持つ者の胸部は何事もなかったように元に戻る。
「だから、無駄だと言っただろう。もう諦めたらどうだ? 邪神さまを倒すことはできないのだから」
「はっ! それはどうかな? 案外、どうにかできてしまうかもな。それに、俺に戦いを諦めさせたいなら、殺すしかないぞ!」
「なら、殺してやろう」
ファイと黒い剣を持つ者の戦闘はより激しさを増していく。
―――
黒い靴を履いた者も同じく連続蹴りを放つ。
合わせて、ニーグが連続蹴りを放つ。
両者の蹴り足がぶつかり合い、幾重の衝撃波を周囲に響かせる。
そんな中で、両者は速度を緩めることなく口を開く。
「ハハハハハッ! 速い! 速い! さっき私を蹴り飛ばした時の速度はまぐれじゃなかったんだ! ちょっと痛かったよ!」
「死なないくせに痛みは感じるのか?」
「そんなの当然でしょ。痛いモノは痛い。でも、そっちよりはマシじゃない? 普通は元に戻らないから痛いで終わらないでしょ。傷を負えば、そのまま戦力低下を意味するし」
「……何が言いたい?」
「フフッ。言わなくてもわかっているでしょ? こっちはいつでも万全の状態。でも、あなたたちの方は少しでも傷を負えば……それが蓄積したら……一気に崩壊ね! その時が楽しみよ!」
黒い靴を履いた者の連続蹴りの速度が上がる。
それで押される前にニーグも速度を上げて対応した。
「それは傷を負えば、の話だろ? それにそっちだって、いつまで万全の状態を保てるか……見物だな!」
両者の蹴り足が強くぶつかると、ニーグと黒い靴を履いた者は互いに距離を取った――かと思えば、そのまま超速戦闘に入った。
―――
ドレアが海神の槍を振る続け、それを黒い盾を持つ者が黒い盾で防ぎ続けることで、激しい衝突音が何度も響く。
「何も、万全の状態は傷だけの話ではないぞ!」
「……は? なんの話だ?」
ドレアが訝しげな表情を浮かべる。
ただ、攻撃の手はとめていない。
そのため、大きな衝突音が鳴り響いている。
結果――聞こえづらいのだ。
訝しげな表情はそのためだ。
そのように見えるだけ。
「なんの話をしている?」
「万全の状態というのは、何も傷だけではなく、体力の消耗も含まれているということだよ、女! 俺たちは常に完全回復状態! 対して、お前たちは消耗する一方だ! いずれお前たちは満足に動けなくなる! 楽しみだなあ! 女!」
「はっ! 何を言うのかと思えばくだらない! こっちが消耗し切るまで戦いが続くと思っているのか! 随分と楽観的な考えだな! そこまでお前がもつかどうか見物だ!」
ドレアの攻撃はより苛烈になり、黒い盾を持つ者は防戦一方となる。
―――
「人類最強」がゆっくりと進んでいく。
少し飛んだ程度ではまだ慣れないからだ。
その速度は緩慢と言えるモノであるが、時に緩慢な速度というモノは相手に恐怖を与える。
事実――「人類最強」が向かう先に居る黒い杖を持つ者は、その身に言い知れぬ何かを感じていた。
だからこそという訳ではないが、黒い杖を持つ者はそのまま接近を許すつもりはない。
「キミがこの場に現れることは驚きだったけれど、その動きじゃあね。攻撃してください、と言っているようなモノだよ!」
黒い杖を持つ者が黒い杖の先端を「人類最強」に向けて、魔法を放つ。
単発でなく、巨大な火球や大きな水の槍、不可視の風の大刃に刺々しい土塊、さらには数十の黒球と次々と放ち、そのすべてが「人類最強」に当たり――大爆発を起こす。
黒煙が「人類最強」を覆い、その姿を見えなくした。
黒い杖を持つ者は、さてどうだ? と思う。
放った魔法はすべてかなりの威力である。
それこそ、普通であれば一発でも容易に人を倒してしまえるほどの。
けれど、相手は「人類最強」であるため、黒い杖を持つ者は警戒を解かない。
黒煙が晴れる――前に、「人類最強」が緩慢な速度のまま出てくる。
その姿は無傷。ダメージは一切なかった。
ただ、黒い杖を持つ者からすれば、それは想定内。
これくらいでどうこうはならないか、と確認したに過ぎなかった。
そうして、ある程度距離が詰まったところで、「人類最強」は攻撃されたことなど気にしていないと言わんばかりに、黒い杖を持つ者に向けて口を開く。
「……話は聞いた。お前は今簡単には死なないようだな」
「それがどうかした?」
「……丁度いいと思っただけだ。……一回では足りないと思っていた」
「人類最強」から、堪え切れずといった風に圧力が噴出する。
それは濃密濃厚な殺意であった。
殺意の圧力を向けられ、一身に浴びた黒い杖を持つ者は、自然と喉を鳴らす。
「……感謝しよう。お前を何度も殺せるという、この状況に」
「やれるモノならやってみるといいよ! できるものならね!」
黒い杖を持つ者が再度魔法を放つ。
「人類最強」は避けもせずに食らうが気にせずに、緩慢であろうとも前に進んでいく。
黒い杖を持つ者に向けて。




