手応えがない
黒ローブたちのことは任せて大丈夫だろう。
あとは俺、アブさん、カーくんで邪神を倒すだけだが……。
「……でっかいな」
近くで見ると、改めてその大きさがわかる。
いや、わからない。
視界を埋め尽くせるほどに大きく、近付けば近付くだけ全体が把握できなくなる。
ただただ黒い人型だというのはわかるのだが……。
「まあ、大きいのはわかったが、問題はなんで丸まっているんだ? 動かないし」
それなりに近付いたのだが、邪神が反応しない。
カーくんが考えるように顎に前足を当てる。
「……ふむ。我らに影響はなさそうだが、周囲の魔力が邪神に向けて流れていっているな。魔力を取り込んでいるのだろう。それがある程度溜まれば」
「動き出すってことか。……なら、動いていない今は攻撃するのに絶好の機会ってことだな?」
アブさんと目を合わせる。いや、アブさんに目はないが、気持ち的にだ。
頷き合う。
カーくんと目を合わせる。
頷き合う。
そのまま魔法を発動しようとしたところで、真竜ノ杖が俺の前に回ってくる。
……頷き合う。
よろしくお願いします。
体に魔力を漲らせる。
「『【詠唱破棄】四重魔力弾』」
俺自身の技量はまだまだ未熟なので、本来なら詠唱破棄だけではなく、瞬間的に属性魔力を混ぜ合わせることはできないのだが、今の俺には真竜ノ杖がある。
真竜ノ杖の力によって可能なのだ。
なので、まずはこれでどうだ? と試しに以前「人類最強」との戦いで放った合成魔法を邪神に向けて放ってみる。
アブさんは即死魔法を放った。
……あれ? と思う。
少し前――「魔物大発生」から竜の町を守る際に見た時、骸骨が持っている大鎌の刃の数は四枚だった。
でも、今即死魔法の骸骨が持っている大鎌の刃は六枚。
正確には、大鎌の柄部分が長くなっていて、一方の先端には五枚刃、もう一方の先端に大きな一枚刃が付いている。
なんというか凶悪さが増した気がしないでもない。
そんな即死魔法の骸骨が合計六枚刃の大鎌を構えて邪神に襲いかかる。
カーくんは竜の息吹を放つ。
ただ、大きく息を吸い込んでから放った竜の息吹はこれまで見たモノと違って、眩しく感じるくらいに白く光り輝く帯状で、激流のような勢いがあった。
けれど、見た目の勢いとは違って聖なるモノを感じる。
相手は邪神であるし、聖属性が有効ということなのだろう。
俺、アブさん、カーくんの攻撃を、邪神は避けもせずにまともに食らう。
俺の「四重魔力弾」は邪神の体の一部を抉り取り、アブさんの即死魔法の骸骨の大鎌は邪神の体を切り刻み、カーくんの竜の息吹は邪神の体の一部を消し飛ばした。
「……こうなるか」
思わず呟く。
俺たちの攻撃を食らった邪神の体は、何事もなかったように直ぐに元に戻った。
そんな馬鹿な! とアブさんの即死魔法の骸骨が何度も大鎌を振るって邪神の身を切るが、結果は変わらないというか直ぐ元に戻ってしまう。
涙が流せるなら流していそうな――そんな雰囲気である。
また効かないヤツが居るのかよ、とか思っていそう。
まあ、邪神だしね。
……でも、どうなんだろうか?
即死魔法の骸骨の大鎌の刃は砕けていない。
「人類最強」の時は砕けていたのに……その時は一切通じないという感じだったが、邪神の方はものともしない感じだろうか。
……だから何、という感じではある。
少なくとも、今は無理だとほどなくして諦めて、泣くような仕草で戻ってきた即死魔法の骸骨をアブさんが慰める。
そうして即死魔法の骸骨を慰めつつ、アブさんが即死魔法ではなく火属性や風属性の魔法を邪神に向けて放ち始めた。
即死魔法の骸骨のため――のような雰囲気だ。
俺とカーくんも再び攻撃を行う。
俺は威力の高い魔法を放ち、カーくんは竜の息吹の他にも手足の爪を使って直接攻撃を食らわせる。
しかし、結果は何も変わらない。
ダメージを与えたところが元に戻るだけ。
これは……手応えがなさ過ぎる。
それに、未だ邪神は動かない。
攻撃を食らっても動じない、というべきか……どうしたものか。
一応、対策というか、対邪神に向けて倒すためにどうすればいいかを考えて、これだ! というのはあるのだが……今のままでは駄目だ。
邪神が万全の状態だと抵抗されるかもしれないし、ある程度ダメージを与える必要はある……が、今はそのダメージを与えるのができていない――ように見える。
いや、そう見えるだけかな? 削れてはいる……と思う。思っておこう。
ただ、邪神が無事だと黒ローブたちも無事だということになる。
……ドレア、ニーグ、ファイ、「人類最強」には申し訳ないが、もう少し頑張って欲しい。
邪神をどうにかするには、もう少し時間がかかりそうだ。
……大丈夫だよな?




