俺はホッとすべきだと思う
ドレア、ニーグ、ファイに渡したように、「人類最強」にも魔力を流せば空を飛べる道具――靴や腕輪だと大きさがわからないし、下手なモノを渡して大き過ぎると気になるだろうし、逆に小さ過ぎると身に付けられない可能性があるので、無難に腰帯を渡しておいた。
これなら調整できるし、「人類最強」は格闘家のような胴着を身に付けているので違和感がない。
いい選択――だと思ったのだが、「人類最強」は落ちた。
いや、渡した道具を使えよ。
突然のことでというか想定していなかったので、カーくんも「人類最強」を掴み損ねていた。
俺も反応が遅れたので、急いで落下する「人類最強」の下へ向かうが間に合わない。
……まあ、地上に落ちても大丈夫そうな気がしないでもないので、別にいいかな? と思ったところで、「人類最強」は地上に落ちる前に空中に留まる。
どうやら、渡した腰帯のことを思い出したようだ。
ゆっくりと浮上して、俺たちが居るところまで上がってくる。
「……すまない」
ぼそっと謝られた。
少し顔が赤い……気がしないでもない。
「おいおい! 大丈夫なのか? さすがにこの場で足手まといになるようなのは必要ないが?」
黒い剣を持つ黒ローブから視線は外さずに、ファイがそう言ってきた。
多分、上手く飛べなかったことを指摘しているんだろうけど、腰帯はさっき渡したばかりで、今が初飛行である。
仕方ない部分があるし、何より遅れていたから練習させる暇がなくて……あれ? 俺のせい?
「……問題ない。今は浮ければ充分だ。あとは、慣れていけば足手まといにはならない」
「人類最強」は気にしていないようなので、ホッと安堵。
「……なんだったら、慣れるまでの時間さえ稼いでくれれば、あとはこちらの方で片付けておくので休んで構わないが?」
いや、やっぱり気にしているな、これ。
ファイは黒い剣を持つ黒ローブから視線を外していないので視線が交わった訳ではないのだが、それでもファイと「人類最強」の間でバチッと火花が散ったように見えた。
……まあ、やり合った関係だし、仕方ないか。
でも、その辺りを知らないドレアとニーグからすれば、「人類最強」は初対面である。
顔を合わせる時間がなかったのだ。
「……アルムが連れて来た訳だし、『人類最強』なんて大層な呼び名のようだが、大丈夫なんだな?」
ファイと同じように、ニーグは黒い靴を履いた黒ローブから視線を外さずに尋ねてきた。
「ああ、大丈夫だ。ここを任せられるだけの戦闘能力は充分にある」
「……そうか。まっ、邪魔にならなければ構わない」
「アルムがそう言うのなら好きにすればいいさ。それに、ファイが嫌がっているってのがいい。面白いな」
黒い盾を持つ黒ローブから視線を外さないドレアの理由が不純だ。
「はあ? 別に嫌がってねえし! それに、贖罪だって言って最近まともに戦っていないこいつより、今では俺の方が強いし!」
「今では? ということは、ファイはこいつに負けていたのか?」
「俺の言ったことわからないか? ドレア。重要なのは今だ。俺の方が強い。それが重要だ」
今度はドレアとファイの間で火花が散ったように見えた。
まっ、ここは訓練の時からそうだったので問題ない。
気にするだけ無駄だ。
ニーグも慣れたモノで、火花を避けるような仕草を取っていた。
「まっ、ともかく、予定通り黒ローブたちは任せた。こっちは邪神を倒してくる。あっ、でも、黒ローブたちは邪神の力で不死になっているんだったな。………………邪神を倒すまで頑張れ」
とりあえず応援しておく。
「「雑だなっ!」」
ドレアとファイが反応して、ニーグは苦笑、「人類最強」は黒い杖を持つ者に意識を向けているようで無視。
「人類最強」はもう少し反応してくれてもいいと思うが……まあ、いいか。
アブさんとカーくんに合図を送り、邪神の方へ飛んでいこうとした――瞬間。
「行かせるとでも?」
黒い剣を持つ黒ローブが瞬く間に距離を詰めて斬りかかってきた。
黒い剣が迫るが、俺は特に反応しない。
いや、する必要がない。
「おいおい、戦っているのは俺だろうが! 浮気してんじゃねえよ!」
ファイの槍が迫る黒い剣を弾き、そのまま黒い剣を持つ黒ローブの前に立ちはだかるように体を滑り込ませてきた。
「アルムの方に行きたいのなら、まずは俺をどうにかすることだな! まあ、できれば、の話だが!」
「そうか。なら、貴様の死体を手土産にして行かせてもらう」
ファイと黒い剣を持つ黒ローブが戦い始める。
ニーグと黒い靴を履いた黒ローブ、ドレアと黒い盾を持つ黒ローブも次いで戦いを始めた。
「人類最強」は……まだ戦い始めていない。
飛ぶことに慣れていないから、今はまだ一気に動くことができないのだろう。
慣れれば……待てよ。
世の中には高いところが怖い人が居る。
「人類最強」はどうだろうか?
先ほど落下したし、それで……という可能性は充分にある。
狙っていた訳ではまったくないが、「人類最強」の弱点を作ってしまったかもしれない。
と思ったが、「人類最強」は黒い杖を持つ黒ローブに向けてゆっくりと飛び始めた。
やはり不慣れなだけだったようだ。
ホッとするべきか、残念と思うべきか。
確かなことは、黒い杖を持つ黒ローブは、俺よりも「人類最強」の方が気になるようで、黒い杖の先端を「人類最強」に向けている。
どこか緊張している――警戒しているように見えた。
とりあえず、これで邪魔する者は居なくなったのは確かだ。
アブさん、カーくんと共に邪神に向けて飛んでいく。




