落ちた
「ちょっと待ってろ!」
ファイが、先ほどまでやり合っていたと思われる黒い剣を持つ黒ローブに向けてそう言い、こちらの方に飛んできた。
ニーグとドレアも、それぞれやり合っていたと思われる、黒い靴を履いた黒ローブと、黒い盾を持つ黒ローブに一声かけてこちらに飛んでくる。
いや、なんで来る? 別に来なくてもいいと思うのだが……というか、先ほどの「来るのが早い」とは?
やり合っていたであろう黒ローブ三人からも特に追撃があるようなことはなかった。
いいのか? 絶好の隙だと思うが……まあ、隙を見せたからといっても誰も警戒は解いていないので直ぐ反撃すると思う。
……あっ、それがわかっているから何もしないのか。
それとも、一息吐きたかったとか?
……まさかね。
「来るのが早いんだよ、アルム」
ファイがそう言ってくる。
「早いってなんだ? 遅れてきた自覚はあるんだが」
「俺がまだあいつらを倒していない内から来るんじゃねえよ。楽しみが減るだろうが」
そういうことか。
だが、いくらファイでも全員の相手は……まあ、頼めば喜んでやるとは思うが。
できるかどうかは……ファイなら噛み殺してでもやり遂げそうな気がするが、それはさすがにちょっと……。
「まったく……まだ致命傷だって一回しか入れられていないし、これから楽しくなりそうだってのに」
「は? 致命傷? 一回? ……いや、相手に致命傷なんて見当たらないが? ……はっ! 俺が遅れたからといって騙そうとしたのか? いや、悪いとは思うが俺だって色々とやることがあって……あっ、これからの話?」
「ちげえよ。というか、さっきの『悪い』と『遅れた』は、先に謝ることで遅れたことを有耶無耶にしようとしてなかったか?」
そこで、こちらに飛んできたドレアがうんうんと頷く。
どうやらバレていたようだ。
しかし、訓練中はいつも言い争っていた二人が同意見とは……。
「それは悪かった。素直に謝る。でも……手を取り合って仲良くなったんだな」
ドレアとファイを見て、うんうんと頷く。
「「違うわ!」」
違うようだ。
ニーグが、まあまあと二人を宥める。
これは訓練中によく見る光景だ。
まあ、その時は「王雷」が揃っていたので、ビライブとクララも一緒に宥めていたが。
「いや、違うのがわかっていつも通りということで安心はするがそうではなく、致命傷を負っているように見えないのはどういうことだ?」
「ああ、それな。あいつら、なんか邪神が居る限りは死なないんだとよ」
そう言って、ファイが今わかっている黒ローブたちについて説明してくれる。
ついでに、ファイが着いてから今に至るまでも。
……まあ、今日までの間に時間はそれなりにあったし、準備の他にも色々と考えることができた。
邪魔するのはわかっていたので、当然黒ローブたちについても考えていたのだ。
何しろ、過去の出来事――無のグラノさんの記憶の中にも黒ローブを纏う「邪神の僕」が現れていた。
だから、もし黒ローブたちが無のグラノさんの記憶の中に出てくるのと同じ者たちなら、その力は? どうしてそれで今も居る? と色々考えたのである。
邪神の力で生き永らえている、というのがこちらの推測だったが、話を聞く限りだと間違っていなかったようだ。
まあ、竜山の時は普通に消耗していたし、不死と言ってもいい今の状態は、邪神が封印から解放されたからだろう。
ということは、邪神封印時は死んだらそのまま死んでいたんだろうな。
つまり、想定内である。
大体の状況がわかったところで――。
「話は終わったかな?」
軽い感じで尋ねられた。
声が聞こえてきた方に視線を向ければ、居たのは黒い杖を持つ黒ローブ。
ドレア、ニーグ、ファイが、それぞれ先ほどまでやり合っていた黒ローブに向けて身構える。
身構えるのは黒ローブ側も同じ。
違うのは黒い杖を持つ黒ローブで、声をかけてきた時と変わらず悠然としている。
「終わったらなんだっていうんだ?」
「終わったのなら、そろそろ自分の相手をしてくれないかな? 自分以外の三人の相手は決まっているし、キミが相手をしてくれるんだろう?」
黒い杖を持つ者が指名してきたのは俺。
俺は笑みを浮かべる。
「そうしたいのは山々だな。何しろ、一度はやられている訳だし、一発殴ったがそれで終わりというのもな。でも、こう見えて俺はこれから邪神の相手をしないといけないから忙しい」
「まあ、そう言わずに。自分の相手をお願いしますよ」
「……よく言う。戦わせることが狙いだろ? まあ、殺すつもりなのは間違いないだろうが、邪神は一度封印された。再びそういうことが起こらないように、少しでもこっちを消耗させて、封印しようとしてもできない、あるいはその効力を弱めて打ち破れるようにしておきたいんだろ?」
「………………」
黒い杖を持つ者は答えない。
図星かな?
でもまあ、それは杞憂だ。
こっちは邪神を倒す気だからな。
「だから、お前の相手はこっちで用意しておいた。俺じゃないぞ。俺よりもお前に直接的な恨みを持っているヤツだ。難色を示すかな? と思ったけど、お前がしたことを話したら、快く協力してくれることになった」
カーくんを見る。
それが合図となって、カーくんが包んでいた両前足を開く。
そこに――。
「お前の相手をするのは、『人類最強』です」
黒髪の男性――「人類最強」がその姿を見せる。
「人類最強」はカーくんの両前足から出て――落ちていった。
………………いや、飛べる道具渡しただろ!




