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賢者巡礼  作者: ナハァト
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それでいいと思う時もあるかもしれない

 口の中がなんかジョリジョリして不快だが、周囲を見渡し、ここがカーくんの住処と言ってもいいボス部屋であることを思い出す。

 もう少し視界を開ければ、全員揃っているのが見えた。

 談笑しているようで、多分だがカーくんを交えてとなると、ここが一番いいのかもしれない。

 火のヒストさんと目が合う。


「おっ! アルムが起きたようだぜ!」


 その言葉をきっかけにあっという間に囲まれて、口々に「おかえり」と言ってくれる。

 少し心がほっこりした。


「ただいま、でも、どうして俺は寝ていたんだ? 確か、ボス部屋に来て……」


 駄目だ。それ以上が思い出せない。

 靄がかかっているような……無意識下で思い出すことを拒絶しているような………………で、待て。


「……どうして全員目を逸らしている?」


『………………』


 誰も答えない。

 しかし、何かを知っているのは間違いない。

 だが、答える様子はない。

 何か情報を。もしくは切り崩せるようなモノはないかと周囲をさらに窺えば、地面にトレイが三つ落ちている。

 トレイ……うっ。頭が……。

 頭を押さえていると、ラビンさんが俺の両肩に優しく手を置く。


「無理に思い出す必要はないよ、アルムくん。何もなかった。それでいい時もあるよ」


「………………」


「その怪しい人を見るような目は何かな?」


「いや、なんかラビンさんに嵌められたような気が」


「気のせいじゃないかな! ボクがアルムくんを嵌める訳がないよ! ……巻き込ませはするけど」


 ん? 最後の方はよく聞こえなかった。

 けどまあ、ここに居る人たちは俺からすれば全員超常の人たちだ。

 わざわざ俺を嵌める必要なんかない。

 ……きっと、滑って頭でもぶつけたんだろう。


「そ、そんなことより、ここに来たのはどうして? アルムくんに酷いことをした国をどうにかした報告かな?」


 だから、どこか焦りながらも話題を変えようとしているように見えるのは、きっと俺の思い過ごしだ。


     ―――


「……なるほどね~」


 ラビンさんがうんうんと頷く。

 他のみんなも大体似たような反応だ。

 丁度揃っているので、そのまま俺がここから出発して戻ってくるまでの間のことを軽く報告した。

 フォーマンス王国の顛末については、特に何もない。

 元より興味はなかったのだろう。

 母さんと無事に会えたことは喜ばれたのだが、女性陣がメイドの裏話に食いついてきた。

 さすがにこの場では……と、あとで教えることになった。

 ただ、問題……とまではいかないが、気にかけられたことがある。


「ふむ。魔力操作が甘いままか」


 無のグラノさんが考えるように顎に手を当てる。


「かなり慣れてはきたが、意識的に行っても甘くなる時はあるし、緻密なのは今でも難しい。無意識下だと、間違いなく失敗する」


「まあ、元々他人の魔力じゃし、ある程度時間がかかるのは致し方ないの。使い続ければその内解消されるじゃろう。それに、まだまだ続くのじゃし、気にしていても仕方ない」


「続くのか?」


「当然じゃろ。ワシらの魔力はそれぞれ違うのじゃから、受け継ぐ度に起こる現象じゃと割り切っておいた方がいい。もしくは、回数をこなして魔力操作の技術が向上すれば、受け継いで直ぐ使いこなせるようになる……かもしれんが、まあ、希望的でしかないの」


「そうなのか」


 なら、無のグラノさんの言ったように、仕方ないと割り切ろう。

 あとは竜杖やドラゴンローブ、マジックバッグの使い心地を尋ねられて、問題ないと答える。

 お土産も喜んでくれた、と。

 心からの感謝の言葉を伝えておいた。


「それじゃあ、あとはアルムくんが無事に目的達成したということで、ここは一つ宴でも」


「待ってくれ。その前に相談が一つ」


 ラビンさんが宴と言った瞬間に動き出そうとしていた全員をとめる。


『……相談?』


 全員、浮いていた腰を下ろし、聞く姿勢に戻る。


「それで、相談とはなんだ?」


「実は……」


 カーくんに促されて、リノファのことを説明する。

 テレイルとリノファから教えられたことを、そのまま伝えた。


「……『聖女』か」


 無のグラノさんの呟きが、どことなく重い。

 ラビンさんとカーくんも何かを思い出しているように見える。

 このダンジョンがいつからあるかはわからないが、無のグラノさん、ラビンさん、カーくんは間違いなく最古参だろう。

 そういう雰囲気のようなモノがある。

 もしかして、その当時を知っているのだろうか?

 それでも不思議ではないと思える。

 ただ、次の瞬間には吹っ切ったというか、そういう部分を感じさせないように、無のグラノさんが口を開く。


「ふむ。『慈愛』と『神託』は本人の資質のようなモノじゃから、放っておいても構わんが、『聖属性』の教授か。残念ながら、知識としてはあるが、ワシらの誰も『聖属性』は持っておらん……と言いたいところじゃが」


 無のグラノさんが顔を横に向ける。

 いや、他のみんなも同様で、向いた先に居るのは……カーくん。


「『究極聖魔竜アルティメット・カオス・ドラゴン』。その名の通り、カーくんは『聖属性』持ちじゃ。しかも、最高峰の使い手でもある」


 無のグラノさんの言葉に、カーくんがムンッ! と筋肉を盛り上げさせてポーズを取る。

 ……なるほど。「聖属性」とは筋肉なのか。


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