サイド 対黒ローブ 3
緑色の竜の背に乗って、ドレアが現れた。
――だからといって今は戦闘中である。
戦いの手はとまらない。
ファイは黒い剣を持つ者に、ニーグは黒い靴を履いた者に、それぞれ攻められて中々声をかけられなかった。
「………………いや、聞こえてんだろ! お前ら!」
ドレアが憤慨した。
黒い靴を履いた者と組み合うと、ニーグが投げ飛ばす。
まあ、空中なので何かにぶつかるといったこともなく、放り投げたといった方が表情としては近いかもしれない。
黒い靴を履いた者はなんでもないように空中に留まり、ニーグを見ながら、何のダメージもないと肩をすくめた。
ニーグは視線だけは黒い靴を履いた者から外さずに、ドレアへと声をかける。
「返事を待たせたのは悪いと思うが、こっちはご覧の通り戦闘中だ。俺の相手は中々素早いし、下手に注意を逸らす訳にはいかなくてな。まあ、あっちはどうかわからないが」
あっちとはファイのことである。
当然、これには反応する。
「はあ! もしかして、俺には喋られないくらい余裕がないって言いたいのか! あるから! さっきはこの戦いを楽しんでいただけだからな!」
ファイがニーグに視線を向けて怒鳴るように言う。
そこに、ファイの腹部を狙って黒い剣が突かれる――が直前でファイが回避。
これまでの中で一番大きく体を動かした回避行動だったのは、実際はちょっと危なかったからだろう。
ニーグは黒い靴を履いた者から視線を外していないので見えていないが、ドレアは見ていた。
「……ぷっ」
「ちょっと待っていろ!」
黒い剣を持つ者に向けてそう言うと、ファイはドレアの下へ。
「今、笑っただろ?」
「面白いと思ったら笑う。普通だろ。だが、今の動きは良かったぞ。しょぼい突きが当たりそうになって、一生懸命に避ける様は笑えたぞ」
「はあ? さっきのは追撃があればあそこから反撃をするための動きだったんだよ! まあ、お前には無理な動きだろうけどな! 寧ろ、あんなしょぼい突きを避け切れずに当たっていたんじゃないか?」
「あっ?」
「ああ?」
火花を散らすように睨み合うファイとドレア。
そんなファイとドレアの会話だけで、ニーグはどういう状況かよくわかった。
というのも、皆既日食までの訓練にはドレアも居たのだが、その時ファイとドレアはよく衝突していたのだ。
ファイは騎士。ドレアは海賊。
相容れない存在だから……ではなく、それは関係ない。
理由は一つ。どちらも槍を使うためである。
訓練中に他に槍を使う者が居なかったため、比較対象が目の前の相手しか居なかったのだ。
どちらが――自分の方が強いとどちらも主張するため、何度も衝突を起こし――今に至る。
ファイとドレアがそのままやり合い始めそうな雰囲気の中、思わぬダメージを受けている者が居た。
どちらにもしょぼい突きと言われて、黒い剣を持つ者は落ち込んでいる。
――しょぼい突き? いやいや、そんなことはないよな、と立ち直ろうとしていた。
「じゃあ、そこで見ていろ! あんなヤツさっさと倒して、次のも倒して、ついでに邪神も俺が倒してやるわ! 遅れてきたお前に出番はねえから! 俺、一番! お前、三番!」
「はあ? 私が遅れたんじゃなくて、お前の待機場所が運良く近かっただけだろ!」
ドレアがファイやニーグよりも遅れて現れたのは、ドレアが言っていたように待機していた場所が違ったことによる結果である。
邪神の封印がどこで解かれるかは、さすがにラビンでもわからなかった。
場所はどこでも可能だからである。
だから、邪神が封印から解放された際にどこでも直ぐ向かえるように、ファイ、ニーグ、ドレアはそれぞれ自国――リミタリー帝国、三柱の国・ラピスラ、海洋国家・シートピアに移動手段としての竜と共に待機していたのだ。
そうして邪神が封印から解放された場所は、大陸の北方にある島。
大陸の北東にリミタリー帝国が、北西に三柱の国・ラピスラがあるため、ファイとニーグが先に着いた――という訳である。
「「ぐぎぎぎぎぎ……」」
先ほどよりもより強く睨み合うファイとドレア。
そこに――。
「誰が先に来たとか意味はないな! 何故なら、どうせここで死ぬんだからな!」
黒い盾を持つ者が、ファイとドレアの下へ迫る。
ファイが動く。
だが、振るう槍は後方へと払うように向けられ――金属同士がぶつかり合う甲高い音が鳴る。
ファイの槍は、黒い剣によってとめられていた。
「貴様の払いも、どうということはないな」
「あ? 死なす!」
ファイと黒い剣を持つ者の戦闘が再開。
黒い盾を持つ者は黒い盾を前に出して突進。
狙われているのはドレア。
その突進を、ドレアは竜の背から飛び上がって避け――そのまま空中に留まる。
ドレアも飛行可能としていた。
ただ、さすがに武器である海神の槍をどうこうするのはラビンでも難しいため、履いている靴にその効果が付与されている。
緑色の竜も急いで黒い盾を持つ者の突進をかわし、この場から離れていき、少し離れた位置で待機している青い竜、黄色の竜と合流した。
黒い盾を持つ者は避けられても少しだけ進んだあと、振り返ってドレアを手招くような動きを取った。
「貴様の相手は俺がしてやるよ! 叩き潰してやる!」
それを見て、ドレアは好戦的な笑みを浮かべた。
「やれるもんならやってみな!」
ドレアと黒い盾を持つ者と戦い始め、ファイは既に――ニーグもまた黒い靴を履いた者との戦闘を再開する。




