サイド 対黒ローブ 2
黒い靴を履いた者がニーグに攻撃を仕掛けた時、黒い剣を持つ者も動いていた。
狙いは、ファイ。
黒い靴を履いた者ほどの速度は出ていなかったが、それでもかなりの速度で詰め寄り、ファイに向けて黒い剣を振り下ろす。
ファイは当然のように反応しており、槍で受け流した。
「よく反応した。全員を相手にすると言うだけはある」
「今のでその評価になるのか? だったら、思ったよりも大したことなかったな、お前ら」
「人としては高いと言っているだけに過ぎない。私の敵になると言ってはいない」
「そうか! なら、お前らが俺の敵になるかどうか……楽しませてみせろよ!」
ファイが槍を振るい、黒い剣を持つ者が黒い剣を振るい、ぶつかり合って甲高い音が響き続け、火花が散り続ける。
槍と黒い剣の応酬が続く中――不意に黒い剣の軌道が変化して、狙いがファイから青い竜へと向けられた。
現状――ファイは青い竜の背を足場としていて、黒い剣を持つ者は空中を自在に飛ぶことができる。
となれば、まずは足場を崩すというのは先ず行われることだろう。
何しろ、それだけで空中を――相手の上を取れるのだから。
もちろん、それを許すファイではない――というか既に対策済みである。
「やらせるかよ! というか、さっさと逃げろ! 巻き込まれるぞ!」
黒い剣を槍で払うと同時に、青い竜の背を蹴って空中にその身を投げ出すファイ。
「『飛翔』」
その言葉と共に、ファイは空中に浮き、落ちることなく留まった。
青い竜は、ファイに向かって両前足を握って見せて、頑張って、と伝えるとこの場から離れるように飛んでいく。
そんな青い竜には興味がないと、黒い剣を持つ者はファイだけを見ていた。
「これは驚いた。まさか、飛べるとは……見たところ、その槍の能力か?」
「ああ、こういう状況になるのはわかっていたからな。それを見越しての特別製だ」
ファイが笑みを浮かべる。
余裕があるのは、既に経験済み――練習でなんども飛んだあとだからだ。
ファイが口にしたように、今持っているファイの槍は特別製。
竜山での出来事で黒ローブの四人が空を飛べることがわかったからこそ、黒ローブとの戦いにおいて戦場となるのは空中も含まれることは明らかである。
なので、アルムに竜杖を用意したように、ラビンが用意した。
竜杖ほど強力なモノではないが、それでも飛ぶことができて、神器と打ち合うことになろうとも、負けずにやり合えるだけの武器を。
皆既日食までの間に行った訓練は、ただ強くなるだけではなく、空中戦も行えるようにするためのモノでもあったのだ。
それを今、こうして披露する形となったのである。
ただ、黒い剣を持つ者は気になることがあった。
「……しかし、疑問はある。何故最初からそうしなかったのか……竜に乗ってきたのは、持ち前の魔力に不安がある、といったところか?」
「ああ、どっかの魔法使いみたいに長時間使用は、俺の魔力ではできないからな。でもまあ、お前らを倒すくらいなら充分だろ? 時間がかかるなんてことにはならないだろうしな」
「そうだな。貴様を倒すのに時間をかけるつもりは……ない!」
黒い剣を持つ者がファイへと斬りかかり、再び応酬が始まる。
先ほどまでとは違って、空中すべてが戦場だと縦横無尽に飛びながら。
それは、ニーグの方も同じである。
ニーグは早々に黄色の竜の背から飛び出し、黒い靴を履いた者と空中で格闘戦を行っていた。
黄色の竜は、青い竜と同じようにニーグに向けて頑張ってください、と意思表示したあとにこの場から離れている。
「向こうの生意気なヤツも同じように飛ぶようだね」
空中での格闘戦を一旦やめて、空中でニーグと対峙する黒い靴を履いた者がそう言う。
「ああ、まあ、俺は直ぐ飛べて、あいつは少し手間取ったけどな」
肩をすくめて、ニーグはそう証言する。
「お前! 嘘吐くな! 俺も直ぐだったぞ!」
異議が飛んできた。
発したのは、少し離れた場所で戦っているファイ。
だが、それにニーグは何か言う前に、黒い靴を履いた者が口を開く。
「普通に考えれば飛べる訳ないし……それっぽいのは、そのレザーブーツかな?」
「ああ、そうだ。このレザーブーツは特別製だからな。これがどのくらい特別かと言えば、そっちにあった武具による優位性がなくなる程度には、といったところだな」
「……言ってくれるね。まるで、武具に差がなければ負ける訳がない、とでも言っているような言い方で気に食わない」
「事実だからな」
黒い靴を履いた者から、僅かながら怒気が漏れ出る。
それは少しばかり怒ったというモノではなく、怒りが大きくなり過ぎて押さえ切れない部分が出た、といったモノ。
対して、ニーグは飄々としている。
「……だったら、教えてあげる。何をどうしようが、私には勝てない――てね!」
黒い靴を履いた者が飛び出すように前に出る。
ニーグとの距離を一瞬で詰めて、そのまま蹴りを放つ。
反応しているニーグはかわして拳を放つが、黒い靴を履いた者は受け流し――ニーグと黒い靴を履いた者は格闘戦を始める。
それは先ほどまでより激しくなっていた。
ファイと黒い剣を持つ者も激しくなっている。
戦いはより苛烈な方へと向か――おうとしたところで。
「こらあ! お前ら! 勝手に始めやがって!」
そんな声が飛んできた。
ファイとニーグではない。
黒ローブの四人でもない。
それは、戦場となっているこの場に向かって飛んでくる緑色の竜――その背に乗っている、青が交じった緑色の短髪の女性――ドレアが発したモノであった。




