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賢者巡礼  作者: ナハァト
564/614

サイド 各国 3

 リミタリー帝国・帝城・大会議室


 武官、文官が慌ただしく動いている。

 その理由はもちろん「魔物大発生(スタンピード)」に対してのモノだ。

 怒号のような声が室内に響くが、その中においてリミタリー帝国の皇帝――赤髪の男性・アンルは落ち着いていた。

 このような事態であろうとも悠然としている姿は、この場に居る者たちにとって、リミタリー帝国の皇帝として相応しく、頼もしく、誇らしく見えるだろう。

 ただ、アンルからすれば違う。

 リミタリー帝国の皇帝として、ここまでにやるべきこと――今打てる手はすべて打ったと自信を持って言えるため、今更慌てる必要はない、といったところなのだ。

 まあ、捕まっていた時も特に動じるといったことはなかったので、元々胆力がある、というのはあるかもしれない。

 ともかく、そんなアンルの姿を見て、この場に居る者たちは少なからず冷静さを取り戻すのであった。


     ―――


 リミタリー帝国・帝都・エンペリアルリミタール・


 帝都の門は固く閉ざされていた。

 その理由は一つ。

魔物大発生(スタンピード)」の魔物が、帝都にかなり接近しているからである。

 といっても、これは攻め負けて近付けてしまった――という訳ではない。

 わざと、だ。

 こうする理由はただ一つ。

 先の内乱で帝国軍が反乱軍と帝都付近で対峙したのと同じ理由で、大軍が戦える場所が帝都付近しかないのだ。

 帝都から離れた位置となると、森であったり、地が荒れていたりと、何かしらの理由によって大軍では戦いづらくなっていた。

 もちろん、敵を近付けるということはそれだけ危険性が増す、ということでもある。

 しかし、それはリミタリー帝国。軍事国家と呼ばれ、それが名実共にとなるだけはあって、それでもどうにかできるだけの戦力が質も数も充分に揃っているのだ。

 その象徴となるのが「暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)」である。

 戦場となっている場所――それも帝国軍側ではなく、「魔物大発生(スタンピード)」の魔物が居る側で、剣を振りながら突き進んでいる者が居た。

 黒の長髪をうしろで一つに纏め、黒い鎧を身に付ける男性――「暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)」のアスリーである。

 アスリーの剣速は凄まじく速く、魔物は斬られたことすら自覚せずに絶命していく。

 ……まあ、未だこの場に居る魔物は対して強くなく、反応できるのが居ない、というのはある。

 とりあえず、今は少しでも数を減らすべきだろう、とアスリーが駆けながら剣を振るっていると、進行方向の少し先――そこを巨大な炎の蛇が魔物を飲み込みながら這っていく。

 合わせて、アスリーに向けて声が飛んでくる。


「アスリー! 前に出過ぎですよ! というより、帝都から離れるように移動するのではなく、帝都周辺を回るように動きなさい!」


 それは、杖を構えた、紫髪に、黒い鎧を身に付ける女性――「暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)」のクフォラであった。

 炎と土の魔法を得意とし、先ほどの巨大な炎の蛇はクフォラの魔法によるモノである。

 注意を受けたアスリーは、とある方向をクフォラに向けて指し示す。

 何を見せたいのかと、クフォラが指し示された方に視線を向ければ――そこでは「魔物大発生(スタンピード)」の魔物を相手に、アスリーと同じように剣を振るって突き進んでいく黒髪の男性――トゥルマの姿があった。

 アスリーと比べると魔物を斬る速度は落ちるが、それでも殲滅していると表現できるだけのことはしている。


「……皇帝を守る立場の近衛騎士長がどうして最前線に居るのよ」


 お前が好き勝手動いてどうする、とクフォラは思った。

 ただ、その効果というか、アスリーとトゥルマの殲滅力は凄まじく、現段階における戦況はリミタリー帝国軍が優勢である。


     ―――


 アフロディモン聖教国・聖都・サークレッド・大聖堂


 教皇となったルーベリーと共に、多くの聖職者が祈りを捧げる。

 これは無事に終わって欲しいと願いながら、隠れるように引きこもっている訳でもない。

 魔法的儀式を行っているのだ。

 その結果は聖都、それとその外に現れている。

 現在、聖都は聖なる結界に包まれて守られているのだが、それだけではない。

 その影響は聖なる結界の周辺に居る者たちにも現れ、僅かではあるが聖なる力を付与して、攻撃力と防御力を高めていた。

 この状態を言葉にするのなら、「加護」である。

 前教皇はこういうこと――己の力を糧にして他者を守り、強くするということを行うタイプではなかったために実行しなかったが、これこそが聖都の本来の力である。

 ただ、加護の影響範囲は聖都周辺に限られているため、リミタリー帝国の帝都は周辺環境のために魔物を近付けるしかなかったが、聖都は加護のために魔物を近付けさせた。

 現在、加護によって強化されたアフロディモン聖教国軍が、「魔物大発生(スタンピード)」の魔物を相手に戦っている。

 いや、アフロディモン聖教国軍だけではない。

 ここにはリミタリー帝国軍も居た。

 というのも、先の戦いにおいて敗北したアフロディモン聖教国は、現在言ってみればリミタリー帝国の属国という扱いとなっている。

 また、その戦いにおいてアフロディモン聖教国軍は大きく消耗していた。

 そこで現在のアフロディモン聖教国軍だけでは「魔物大発生(スタンピード)」を乗り越えられるか不安であったため、教皇のルーベリーがリミタリー帝国に助力を願い出て、皇帝のアンルが応えた形である。

 まあ、そこに国と国の関係性というか色々な思惑があったのは間違いないだろう。

 なので、この場にリミタリー帝国軍が居るのだ。

 その派遣されたリミタリー帝国軍を率いているのは、白髪交じりの緑髪の男性――「暗黒騎士団(ダークネス・ナイト)」の団長となったセカン。

 セカンなら、アンルも安心して任せられるのだ。

 聖都からの加護を受けてさらに強さを増したリミタリー帝国軍が「魔物大発生(スタンピード)」の魔物を倒していく様子を見て、セカンは満足そうに一つ頷く。

 これなら大丈夫、と。

 ただ、あっちは――とセカンが視線を向けた先に居たのは――。


「……魔物を屠るエル。カッコいい」


「それを言うなら、魔物を斬り裂くナナンは美しいよ」


 金髪の、黒い鎧を身に付ける女性――「暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)」・ナナンが、金髪の、黒い鎧を身に付ける男性――「暗黒騎士団(ダークネス・ナイツ)」・エルを褒め、その逆も自然な形で起こる。

 そんな光景。

 戦いが始まって――いや、始まる前からエルとナナンはずっとこの調子であった。

 それでも魔物を倒せているのを凄いと思うべきか、呆れるべきか……いや、戦力的に助かっているのは間違いない。

 しかし、あれにはついていけん――とセカンは突っ込むのを諦めた。

 触れた方が面倒だ、と思ったのもある。


     ―――


 ミドナカル王国・王都近郊・草原


 他の国同様に「魔物大発生(スタンピード)」は既に始まっており、王都・セントール近くの草原で衝突していた。

 騎士団と兵士、冒険者、それと傭兵などといった有志が協力して、「魔物大発生(スタンピード)」の魔物と戦いを繰り広げている。

 その中には茶髪の男性――ミドナカル王国の騎士団長・ナートの姿もあって、剣を振るって魔物を次々と倒していく。

 そんな戦場となっている場に展開しているミドナカル王国軍の後方には大きな天幕が張られ、そこに金髪の男性――この国の王であるキングッドが待機していた。


「……なあ、俺も行っていいか?」


「駄目です。私が宰相(ライム)殿に怒られます」


 キングッドが問いかけ、答えたのは青髪の男性――魔法師団長であるジックである。

 ジックは笑みを浮かべているが、その意思は固そうだ、とキングッドは思う。


「いや、でも、ほら、王さまも戦った方が、騎士や兵士も士気が上がると思わないか?」


「士気は既に充分高いですから、今上げる必要はありません。それに下手に上げて張り切り、それで要らぬ体力を消費してどうするのですか? 情報によればこの『魔物大発生(スタンピード)』はいつ終わるかわかりませんし、長期戦を想定して動かないと一気に押し切られてしまいますよ? それなのに士気を上げると? キングッド陛下が戦いたい、という理由だけで?」


「……いえ、大丈夫です。ここで大人しくしています」


 そう言ってキングッドは目を伏せる。

 それでお願いします、とジックは頷く。

 キングッドも、直ぐに切り替える。

 いつ、何が起こってもおかしくない。いざという時にいつでも出られるように、と少しの変化も見逃さないと戦場から目を離さず、心構えだけはしっかりとしておいた。

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