サイド 各国 2
海洋国家・シートピア・王城・作戦本部
「近くの草原にて、第三騎士団、それと協力している冒険者の部隊が『|魔物大発生』と接触しました! 未だ魔物の出現は散発的ですが、出現している種類は多数であると報告さっれています!」
兵士からそう報告を受ける女王――グラス。
この場にはグラスだけではなく、「魔物大発生」に対するために集まった、宰相や騎士団長、この国のギルドのマスターといった肩書きを持つ者たちも居て、数は? 強力な個体は居るのか? などなど、報告に来た兵士に尋ね始める。
その答えによって、兵士や騎士、冒険者の追加、武具や傷薬などの補給といった指示を出していく。
そんな中、グラスは少しだけ考えて……場が落ち着いてから報告に来た兵士に問う。
「海の方はどうなっている?」
そう。ここは海洋国家。
陸地もあるが、海もある。
寧ろ、国土は他の国よりも海に接している部分が多いのだ。
そして、海にも魔物が居る。
陸地だけではなく、海で「魔物大発生」が起こっても不思議ではない。
また、それはある意味陸地で発生するよりも困難である。
何しろ、人は水中で陸地ほど素早く自由に動けない。
対して海の魔物は素早く、自由に動けるというのは、それだけで大きな脅威となり得るのだ。
しかも、そこに数も加わる。
まず、まともにやって生き残ることはできないだろう。
だからこそ、気にかける。
「はっ! 兆候は確認しているそうですが、まだ『魔物大発生』と呼べるほどではないそうです!」
「そうですか。いつ始まってもおかしくありませんので、危険と判断すれば陸地に上がるようにしっかりと伝えてください」
「かしこまりました!」
伝令のために兵士が下がる。
海の方の報告を聞いた者たちは少しだけ安堵したが、疑問もあった。
陸地の方では始まっているのに、海の方では始まっていないのはどういうことなのか? と。
その答えを、グラスは知っていた。
―――
なんてことはない。
海の方の「魔物大発生」は既に始まっていた。
それこそ、陸地の方とほぼ同時に。
海上に浮かぶ巨大な黒い球体から海の魔物が零れ落ち続けていて、港に向かって進んでいっている――のだが、それが途中で阻止されていた。
阻止しているのは、一隻の船。その船の名は「海神の船」。海の魔物を一切寄せ付けない――そういう結界を張ることができる船である。
海の魔物はその結界に阻まれ、破ることもできない。
また、海神の船は戦闘能力も高い。
魔力を溜めて帯状の光を放つ――魔力砲が十門以上搭載されており、それで海の魔物を倒すことができるのだ。
そんな海神の船に乗っているのは、「青い空と海」。
約百五十年前に存在していた軍隊であり、今はゾンビとスケルトンで構成されている。
アブのお気に入りだ。
「船長! いくら海神の船でも、さすがにこの数をすべて倒すのは無理ですぜ!」
船員スケルトンの一人が、そう断言した。
船長スケルトン――ゼルは答える。
「今は少しでも数を減らすことを優先するんだよ! 状況が変わる時は必ずくる! それまで気張りな!」
「「「了解!」」」
「あっ、船長!」
「どうした! 何かあったか?」
「今、とっておきのネタを思い」
「あとにしな!」
一蹴する船長ゼル。
だが、しばらくすると船員スケルトンたちから笑いを堪えるようにカタカタと震え出す。
「骨伝導で伝えるんじゃないよ!」
再び船長ゼルが一蹴した。
―――
三柱の国・ラピスラ・王都・ガレット・冒険者ギルド総本部・臨時統合本部
この国で大きな力を持つのは王だけではない。
何故なら、この国だけではなく世界各国のある冒険者ギルドと商業ギルドの総本部があるのだから、そこの力が弱い訳がない。
だからこその三柱。
そして、三柱の中で王よりも戦闘に直結しているのが冒険者ギルドと商業ギルドだ。
そこで、指揮系統が別の場所に居ては情報速度や伝達など手間がかかり、それが致命的になる場合もあるため、冒険者ギルド総本部内にある一番大きな会議室を臨時統合本部として、冒険者ギルド総本部マスター・ラフト、商業ギルド総本部マスター・ビネス、それと王であるジルフリートもここに居た。
いやいや、とジルフリートと共に来た武官、文官が口を出す。
「何もここに居なくても、城でも指示は出せるのでは?」
「くどい。こっちに居た方が話は早いだろ。それに、こうして私自ら協力しているという姿を見せた方が、騎士たちも冒険者と協力しやすくなるだろ」
その通りなのもあるし、何よりジルフリートの意思は固い。
それに、ここまで来た以上、もう今更であった。
武官、文官は色々と諦め、ここで自分のやるべきことを行い始める。
現在、「魔物大発生」は王都近郊まで来ているが、そこでとまっていた。
冒険者、騎士、有志が集い、それ以上近寄らせないように抑え込んでいるのである。
騎士団だけではなく、ここには冒険者ギルド総本部があるのだ。
戦力は揃っている。
だからといって、指示を出さなくていい、という訳ではない。
「冒険者たちにあまり突っ込ませるな、と伝えろ! 王都から離れ過ぎている! それと、長い戦いになるのだから、適度に休め、ともな!」
ラフトが冒険者たちに伝達を出して――。
「この非常時に補給品を出し渋っている商会があるのですか? 愚かなですね。心象を悪くするだけだというのに……では、別のところにお願いします」
ビネスが商人たちに指示を出して――。
「あちらの方はBランク以上が少ない。騎士の一部隊を向かわせろ。こちらの方はそろそろ疲労が見られるようになるはずだ。交代要員を出せ」
ジルフリートが騎士団を動かす。
不思議とそれが噛み合い、相乗効果を発揮していく。
これこそが三柱である。
―――
三柱の国・ラピスラ・王都・ガレット近郊・戦場
そこではあることが起こっていた。
「誰です、あの人……いや、あの方は? 王都に居ませんでしたよね?」
「味方なのは間違いないけれど……美しい」
「……(ぽっ)」
「王雷」のエルフ・ビライブの戦う姿に見惚れる女性冒険者、女性騎士が続出し――。
「「「………………いい」」」
「王雷」のドワーフ・クララの戦う姿を見守る紳士たちが増えていた。




