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賢者巡礼  作者: ナハァト
562/614

サイド 各国 1

 邪神の力によって、世界各地で「魔物大発生(スタンピード)」が始まった。

 それが突如始まったのであれば危機的状況どころの騒ぎではないが、今回に限っていえば、それはない。

 何故なら、これは起こるとわかっていた「魔物大発生(スタンピード)」――しかも、数日前とかではなく、数か月前からわかっていたことなのだ。

 不測の事態というモノがある以上、完璧に――はどれだけ時間があっても無理だろうが、それでも、邪神の力による「魔物大発生(スタンピード)」を迎え撃つのに必要な準備を行う時間が充分にあったのは事実である。


     ―――


 ――フォーマンス王国・王城・対「魔物大発生(スタンピード)」指令本部


 王城にある一室の中央には、王都(おうと)を中心とした地図が置かれている巨大な机があり、その周囲をフォーマンス王国において要職に就いている者たちの多くが取り囲んでいた。

 その取り囲んでいる者たちの中に、フォーマンス王国の王・テレイルが居る。

 近くには、テレイルの妹のリノファと、アルムの母で今はリノファの専属メイドであるジナの姿があった。

 テレイルは難しい表情を浮かべて、机の上の地図を見ている。

 先ほど、この部屋の窓から皆既日食を見て、合わせて黒い波動も見た。

 しかし、邪神の姿は見ていない。

 つまり、近場に邪神は居ないということ。

 そのことは、テレイルの心に少しだけ安堵をもたらしていた。

 けれど、安堵するのはまだ早い。

 それを証明するように、扉が勢い良く開けられ、兵士が飛び込んできて、敬礼してから室内の隅々まで響かせるように大きな声で報告をする。


「『魔物大発生(スタンピード)』確認! 南方よりこちらに向かっています! 数、不明!」


「南か!」


 誰かがそう口にし、直接見ようと窓に向かう者、地図から進路を推測する者、関係各所に指示を飛ばす者など、室内に居た者たちが一斉に騒ぎ、動き出し始めた。


「始まりましたか」


 テレイルがそう呟くと、そっと肩に手が置かれる。

 その手からは優しさが感じられ、気遣われている、ということがわかった。

 肩に置かれた手が誰のモノであるか――テレイルは考えるまでもない。

 リノファである。


「大丈夫ですか? テレイル兄さま。今から気を張っているともたないですよ」


「大丈夫だよ、リノファ。戦闘が始まるまでの間に、落ち着かせるから」


 そう答え、テレイルは大きく深呼吸する。


「……さあ、しっかりと迎え撃ちますよ。アルムが邪神を倒す――その時まで」


 フォーマンス王国で戦いが始まる。


     ―――


 冒険者の国・トゥーラ・王城・執務室


 この国の王――クラウは、白髪の男性――宰相のリヒターから、王都近くの草原で「魔物大発生(スタンピード)」の魔物との戦闘が始まったことを告げられた。


「戦力的には問題ありません。ですが、魔物は途切れず現れ続けています。『魔物大発生(スタンピード)』がいつまで続くかわかりませんので、王都まで撤退してそこでの籠城戦も視野に入れて行動させています」


「そうだな。この『魔物大発生(スタンピード)』がいつまで続くかわからない以上、早期決着を見越して無理に戦う必要はない。危機的状況になれば王都まで即時撤退させろ。先が見えない戦いだ。人的被害が一番戦力に直結するからな」


「かしこまりました。より徹底するように指示を出しておきます」


「ああ、頼む。ダンジョンの方は?」


「ダンジョンから魔物が出てくる様子はありません。一応、少数ですが見張りを残しておりますので、もし何かあっても報告が直ぐ届くようにしております」


 リヒターからの報告を聞き、クラウは内心でホッと安堵する。

 仮ではあるが、クラウは国王というだけではなく、アブのダンジョンのダンジョンマスターでもある……いや、その上にアブが居るので、立場的にはサブマスターといった方が正しいだろうか。

 ともかく、念のために、邪神解放の影響がダンジョンに及ばないようにアブが行っておいたのだが、実際にその時が来ないと何がどうなるのかわからないのは事実である。

 それで、実際に何も起こらなかったので安堵したのだ。


「……良し。大丈夫そうなら放っておいても問題ない。これで外の方に集中できる」


 そう言ってクラウが剣を手に取って出て行こうとするが、リヒターが待ったをかける。


「陛下。どこに行こうというのですか?」


「戦場」


「はあ~……国王がお強いのは知っていますが、開始から戦場に出てどうするのですか」


「王が前に出るんだ。士気が上がるだろ」


「別に士気は下がっていません。騎士団も冒険者も、寧ろやってやると士気は高いです。ですので、下がったらお願いすることになると思いますが、それまでは待機です。いいですね?」


 問いかけてはいるが、有無を言わさぬ迫力があった。


「あっ、はい」


 クラウはそう答えることしかできなかった。


     ―――


 森の国・フォレストガーデンと隣接している草原の国・メドにある町・ウッドゲート


「急げ! 魔物共は、もう直ぐそこまで来ているぞ! 急いで森の中へ運べ!」


 周囲に居る者たちへ聞かせるように、そう声を荒げたのは、輝く金色の長髪を後ろで一つに纏めた非常に美しい女性(エルフ)――ロア。光のレイの妹である。

 ロアはウッドゲート内を駆けながら、エルフだけではなく人や獣人、ドワーフといった他種族の者たちを、森の中へと入るように、ウッドゲートの中で指示を出していく。

 森の中に入っていく者たちの足取りは重い。

 入りたくない、という訳ではない。

 急いでいるが、速度が出ないのだ。

 というのも、森の中に入っていく者たちは、誰もが多くの武具類や食料品を抱え込んでいるのである。

 それは、森の中に逃げている訳ではなく、森の中で籠城するため。

 何しろ、森の国・フォレストガーデンは森全体が世界樹の結界で守られている。

 邪神の力による「魔物大発生(スタンピード)」であろうとも、魔物たちが森の中に侵入することはそう簡単なことではない。

 それに、何も戦いは森の中だけで起こる訳ではないのだ。


「放てえ!」


 ウッドゲートの外。

 その合図が耳に届けば、エルフたちから矢や魔法が放たれ、迫る「魔物大発生(スタンピード)」の魔物たちの多くを倒した。

 それだけではない。

 ウッドゲートの外にはエルフだけではなく騎士や兵士も居て、同じく合図で矢や魔法を放ち、エルフたちほどではないが多くの魔物たちを倒す。

 騎士や兵士たちはエルフではない。

 森の国・フォレストガーデン所属でもない。

 隣国・草原の国・メドの兵士や騎士である。

 何しろ、ウッドゲートがあるのは、正確には森の国・フォレストガーデンではなく、草原の国・メドの国土であるため、本来であれば草原の国・メドが守らねばならないところであるが、そこにエルフたち――森の国・フォレストガーデンが関わっているのは、隣国だから、というだけではなく、国と国の関係が非常に良好であるからこそ、だろう。

 エルフと人が協力して、ウッドゲートには近付かせない、破壊させないと奮闘することで、多くの魔物を倒すことに成功する。

 しかし、相手は「魔物大発生(スタンピード)」。

 それも序盤の序盤。

 多くの魔物が倒されたといっても、魔物の全体数からすれば、ほんの一部――増え続けている今の段階では誤差でしかなく、影響があったとは言えないだろう。

 だが、倒さなければ増え続ける一方なのだ。

 ロアとしても、できることなら前線で戦いたいのだが、今はそれよりも非戦闘員の避難を優先しているのである。

 ただ、注意は出しておく。


「誰か、前線の者たちに、引き際を見誤らないように言ってきてくれ」


「かしこまりました!」


 ロアの指示を受けて、近くに居たエルフの一人が前線――ウッドゲートの外へと向かう。

 まだ戦いは始まったばかり。

 無理をする必要は今のところないのだ。

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