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賢者巡礼  作者: ナハァト
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サイド 邪神とその僕たち

 その日が来た。

 数か月前から準備が進められ、終えたところもあれば、継続中といったところもある。

 それでも時間はとまることなく平等に流れ、その日、その時はきたのだ。


 ――日食。


 それもこの日に起こったのは、部分的なモノではなく、月が太陽を完全に隠す皆既日食である。

 太陽の光が月で遮られ、時間としては僅かな間――世界は暗闇に包まれ……それだけ。

 月が動き、太陽の光は再び世界を照らしていく。

 だが、再び照らされた世界はその前とは違っていた。

 誰もがそう感じる。

 ――何かが、変わった。

 曖昧だが、そう感じるのだ。

 また、場所によってはその変化を明確に感じる――いや、見ることができた。

 空中に浮かぶ黒い何か。

 形としては人型。

 細部が何もわからないほどに、すべてがただただ黒い。

 その大きさは、山かと思えるほどに巨大である。

 それが、ゆっくりと手を曲げ、足を曲げ、己が身を抱え込むように丸くなり……動かなくなった。

 この日、何が起こるかを知り、何が現れるかを知っている者が、それを見て脳裏を過ぎったのは一つの単語。


 ――邪神。


 そう呼ばれる存在が、世界に現れた。


     ―――


 邪神に動く気配は一切ない。

 その姿は力を溜めているようにも見える。

 動きを見せない邪神ではあるが、突然、その身から黒い波動が全方位に向けて発せられる。

 黒い波動は広がり、各地の上空を駆け抜けていった。

 一瞬の出来事。

 それで何も起こらない――訳がない。

 影響は直ぐに現れる。

 空中に巨大な黒い球体が現れた。

 それが一つや二つではない。

 世界各地――至るところにその巨大な黒い球体は現れたのである。

 ただ、その大きさは違う。

 国としての規模が大きいほど、巨大な黒い球体はより大きくなっていた。

 その巨大な黒い球体から、何かが零れ落ちる。

 地上に落ちたそれは、魔物(ゴブリン)

 それは間違いないのだが……。


「グワゥ」


 ゴブリンが口を開いて声を出すが、それはただ口を開けた際に出てしまった、という感じであった。

 その声質に、顔に、理性は見られない。

 いや、感情そのものがない――どこか人形のようなモノで、その動きもゴブリンというのはこう動きからそう動いているだけ、といった印象であった。

 それをなんと言えばいいか……そう。命が感じられない、というのが相応しいだろうか。

 なのに、声を出す。動いている。

 明らかに普通ではない。

 そんなゴブリンの近くに、巨大な黒い球体から何かが零れ落ちてくる。

 それも一体だけではない。

 次々と……ゴブリンが。

 ゴブリンだけではない。

 ウルフ、スケルトン、オークなど、多種多様な魔物が、巨大な黒い球体から地上へと零れ落ちていく。

 また、それは巨大な黒い球体のある場所によって、種類も変わっていた。

 わかりやすく例を挙げるのなら、海の上にあるのは海の魔物を零れ落とし、山の上にあるのは空の魔物を零れ落とす、といったモノである。

 それだけではない。

 巨大な黒い球体が大きければ大きいほど、そこから零れ落ちる魔物はより強く、数もより多くなっていた。


「「「グガアアアアアアアアアアッ!」」」


 ある程度の纏まった数が揃うと、魔物たちは一斉に雄叫びを上げ、人が居るところへと向かって歩き出す。

 それで終わりではない。

 巨大な黒い球体から、魔物は零れ落ち続けているのだ。

魔物大発生(スタンピード)」がどこまで続くのか……その終わりは未だ見えない。


     ―――


 動かぬ邪神。

 その直ぐ側の空中に人が四人居た。

 ただし、その姿は詳しくわからない。

 四人全員が揃いの黒いローブを身に纏っているために、その姿が見えないのだ。

 違いがあるとすれば体格だが、それ以外にもある。

 一人は、黒い杖を。

 一人は、黒い盾を。

 一人は、黒い靴を。

 一人は、黒い剣を。

 それぞれ、別の物を所持していた。

 黒い盾――「黒盾(くろたて)」を持つ者が、自身が持つ黒盾を見ながら口を開く。


「これはいいな。神器を使っていた時とは違って手に馴染む。元は同じだというのにな」


「いやいや、これも神器と言えば神器でしょ。まあ、元とは違うモノになった訳だから、『邪神器(じゃじんぎ)』ってところだけど」


 黒い靴――「黒靴(くろくつ)」を履く者が、そう口にする。

 黒ローブの四人が持っている物は、元は邪神封印の要となっていた神器である。

 それが今や黒く染まっていた。

 それを行ったのは、邪神。

 何しろ、邪神にとって神器は己を封印するために必要な物なのだ。

 それをそのまま残してしまえば、再び封印されるかもしれない、という恐れがある。

 ならば壊してしまえばいいのだが……封印から解放された直後の邪神は全快ではなく、完全に回復するには少しばかりの時が必要となるため、どうせならその時間稼ぎのために使わせてもらおうと、己の側の力に染め上げて、配下と言える黒ローブの四人に渡したのだ。

 これで回復するまで守れ、と。

 黒い剣――「黒剣(くろけん)」を持つ者が、黒い杖――「黒杖(くろつえ)」を持つ者に声をかける。


「来ると思うか? 邪魔者が?」


「来るさ。あいつは必ず……そして、殺す」


 黒杖を持つ者は――いや、他の三人も、自分たちにとっての邪魔者たちは必ず現れると待ち構えていた。

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