巻き込ませるかどうかは相手による
早速向かうことにする。
どこをどう向かえばいいかはわからないが、ここで竜杖の出番だ。
「帰還」
その一言を囁けば、竜杖はラビンさんの隠れ家に向かう。
あとはその竜杖に跨っていれば辿り着くことができる。
けれど、早い方がいいだろうと、少しばかり魔力を流して速度を上昇させた。
竜杖はどこまでも魔力を注げそうなので、最高速は試していない。
相当速いとは思うのだが、問題は俺の方だ。
前も試したが、その前に魔力が尽きそうだという感覚があったのは確かだし、今思い出してみると、竜杖との繋がりで落ちることはないと思うけれど、体にぶつかる風圧で弾けそうであった。
……ぶるっ。
想像しただけで怖い。
風圧ということは風属性を受け継げばどうにかできるかもしれない。
それまではほどほどに。
前回は非常にゆっくりとした移動だったのでそれなりに時間がかかったが、今回は少し急いだのでそれほど時間はかからずに、ラビンさんの隠れ家に辿り着く。
空を飛んでの移動はやっぱり早い。
出た時と何ら変わりない小屋に入り、奥に進んで、床に描かれている魔法陣の上に立つ。
「転送」
景色が一変する。
小屋の中から洞窟――まだ記憶の中にハッキリと刻まれているダンジョン最下層に。
まだほんの少し前のことなのに、もう懐かしさを感じる。
記憶を頼りに、まずはボス部屋へ。
大きな扉を開けて中を覗くと――。
『………………』
無のグラノさん、火のヒストさん、風のウィンヴィさん、闇のアンクさん、カーくん、ラビンさんが倒れていた。
女性陣の姿は見えない。
「……え?」
少し放心してしまったのは仕方ない。
俺の中で、絶対やられない人たちがやられているのだ。
現実であると理解するのに、少しばかり時間がかかってしまった。
急いで駆け寄る。
「大丈夫か! 一体何が!」
大きな扉から一番近くに居たラビンさんを支えるようにして起こす。
ボス部屋の中に戦闘痕のようなモノはない。
まさか、戦闘痕すら残らないような――それこそ一瞬の内にでもやられたというのか?
戦慄していると、ラビンさんが俺に気付く。
「あ、あれ……アルムくんだ……幻覚かな……」
「いや、幻覚ではなく、実際に戻ってきたんだ」
「そっか……おかえり……でいいのかな?」
「構わないが、この状況は一体?」
「……状況?」
ラビンさんが周囲の状況を見て、何かを思い出したように目を見開く。
「あ、ああ……そうだ。そうだった」
そう言って、ラビンさんは俺をしっかりと見て、ドラゴンローブを掴む。
「今ここは……危険だ。早く……逃げた方が、いい……」
「危険って、一体何が?」
聞き出そうとした時、コンココココココン、と独特なリズムのノック音が響く。
大きな扉の方を確認すると、ここに居ない女性陣――水のリタさん、土のアンススさん、光のレイさんが入ってくる姿が見えた。
三人ともが、それぞれトレイを持っている。
「次を持って……おや? アルムが居ますね」
「あら、本当に。ただ戻ってきたとは思えないし、国をどうにかした報告かしら?」
「……どちらにしろ、審査員が増えたのは喜ばしい。そこらに寝ているだらしないのより、きっとただしい意見を言ってくれる」
歓迎してくれているような気がしないでもないが、俺の直感は警鐘を鳴らしている。
命が脅かされる。危険だ。と。
……なんだ。もしや震えているのか、俺は。
「え、ええ、報告と相談で戻ったが……邪魔だったら日を改めるが」
「「「いいえ、大丈夫。寧ろ、好都合」」」
絶対に逃がさない、と狩人のような目で見られている気がする。
スケルトンなので確証はないが。
しかし、女性陣が近付くにつれて、直感の警鐘はさらに大きく鳴る。
「……ラビンさん。今、何が起こっている?」
「……女性陣による試食会さ」
「……俺の記憶が確かなら、ここで暮らしている間はこのような状況になるまで酷いのは出てないし、確かリタさんが得意と言ってなかったか?」
「……うん。それは、間違いない……ただ、言い忘れていたね。……最初は、普通の腕を競う試食会だった……でも、今は違う」
「どう、違う?」
「……今は、舌のないスケルトンでも、味を感じることができるかどうかの……創作試食会に」
――撤退! ――できなかった。
「いや、ラビンさん! 放して! 逃げた方がいいって言ったよな!」
「そうだね……逃げた方がいい」
「だったら、ドラゴンローブを掴む手を放して欲しいんだが」
「……でもほら……せっかく来たんだし、それに……ボクたち、友達でしょ?」
「友達だが、友達なら逃がしてくれ!」
ラビンさんの手はドラゴンローブをがっちりと掴んだままで、どうにか振り払って逃げようとしたが、気付けば女性陣に囲まれていた。
「よく来てくれた、アルム。ここに居るのは全員だらしなくて困っていた」
「そうね。味だけではなく、食感にもこだわったというのに、固いだの、噛み切れないだの、違和感、異物感がすさまじいだの、文句しか言わないし」
「……アルムに期待している」
女性陣は嬉しそうだった。
あっ。無理矢理口の中に――。
―――
そこから先の記憶はない。
起きた時、口の中が何故かジョリジョリしていた。




