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賢者巡礼  作者: ナハァト
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私にとっての神

 翌日。俺は宿屋に戻ったが、母さんとリノファはそのまま王城の方に宿泊した。

 テレイルが来たし、久々だから積もる話もあるのだろうから、その方がいいだろう。

 そういえば、今日キンによる今後についての話し合い――会談が行われるのだろうか、と考えながら宿屋の食堂で朝食を頂く。

 本日朝食は、焼き立てパン二個、特大オムレツ、サラダ、濃厚コーンスープである。

 美味しくいただいていると――。


「お迎えに来ました」


 メイドさん(美人)が現れた。

 昨日も見た光景な気がする。

 ともかく、口の中にあるオムレツをきちんと咀嚼してから飲み込む。


「………………え? は? 迎え?」


「はい。昨日お伝えした通り、本日は集まった各国の代表の方々との会談が行われます。その際の話す内容について、キングッド陛下からアルムさまに協力をして欲しい、とのことです。そのお迎えに来た、ということです」


「き、協力? 初めて聞いたけど?」


「はい。私も、つい先ほど初めてお聞きしました。そもそも、キングッド陛下自身が『あっ、聞くのを忘れていた』と漏らしたくらいですから、アルムさまが知らなくても不思議ではありません」


 いや、そこを忘れては駄目だろう。

 しかも、まだ続きがあった。


「ですが、これは強制ではありません」


「……へ? そうなのか?」


「はい。キングッド陛下から、そのように指示を受けています。なんでも、各国の代表の方々に向けた開示する情報の精査に時間を割いていたため、アルムさまへの協力を求めるのを忘れていたそうです。それで、開示する情報については既に充分揃っているそうで、今となってはアルムさまの協力は、その……」


「……居ても居なくても変わらない的な?」


「はい」


 正直に言うな、おい。状況によっては心に大きな傷を負うかもしれないぞ。

 でも、そういうことなら……行かなくてもいいかな。

 キンに情報を伝えたのはラビンさんだろうし、ラビンさんなら抜けはないだろうし。


「じゃあ、行かなくてもいいかな」


 そう判断して朝食の続きを――。


「アルムさまなら、そう言われると思っておりました」


「へ? はあ……え?」


 メイドさん(美人)が距離を詰めてくる。


「つまり、アルムさまの予定が空いたということ。そして、私は本日会談の方に割り振られておりません。アルムさまと共に居られます。よって――今日が絶好の機会だと思いませんか?」


 メイドさん(美人)が力強くそう主張してくる。

 一瞬――何が? と思ったが、その一瞬でメイドさん(美人)の視線が鋭くなって思い出す。

喋る全身鎧(リビングアーマー)の結婚相談所」か。

 ………………。

 ………………。


「行くか!」


「ありがとうございます!」


 笑みを浮かべるメイドさん(美人)の周囲に、可憐な花がいくつも咲いたように見えた。


     ―――


 竜の町に行くとして、手段はまあ……真竜ノ杖にお願いするとして、そもそもの話になるのだが……メイドさん(美人)を竜の町に連れて行って大丈夫なのだろうか?

 不安なので、一応許可を取ってみる。

 許可を取る相手は、もちろんホーさん。


「宿泊ではなく立ち寄るだけ? 別に構いませんが? 秘密にした方がいい? いえ、別に構いませんよ。そもそも、公言したとしても容易に辿り着くことができる場所ではありませんし、辿り着けたとしても気に入らなければ竜の息吹(ドラゴンブレス)で消すだけですので。ただ、何か起こるかもしれないと不安なのでしたら、竜の町滞在時はアルムが共に居た方がいいかもしれませんね」


 ……まあ、そうなるよな。

 許可は出た、ということにしておこう。


「……あの、ここに竜王が居るんだが……竜王の許可は要らないのかな?」


 シーさんが来ていた。会談に参加するためだろう。

 いや、今はその確認は必要ないというか、確認するまでもない。

 カーくんの姿はなく……ラビンさんのところに戻ったそうだ。

 デーさんとホーさんが不敵な笑みを……いや、そうではなく……えっと……ほら、シーさんは竜山の神殿の方が担当であって、竜の町はホーさんの担当かな? と思っただけで他意はないから。

 立ち入るのが竜の町だからホーさんに頼んだ訳で……わかってくれたのなら良かった。

 いや、本当に、決して……そう、決して、竜王という肩書き、存在を軽んじている訳ではないから。

 シーさんを宥めてから、早速出発する。

 真竜の杖の障壁内にメイドさん(美人)を取り込んで、竜の町に向けて飛んでいく。

 一人ということもあって、揉みくちゃになるようなこともなく、また、メイドさん(美人)自身は高いところに興味があるのか、「いい景色ですね」と楽しんでいるように見えた。

 ほどなくして、竜の町に辿り着く。

 さすがに俺のことを忘れられているということもなく、すんなりと中に入ることができた。

 メイドさん(美人)は……息が少し荒くなっているような気がする。

 もしかして、空の移動が……違う。なら、竜の町が……違う。もう少ししたら運命の相手がわかるかもしれないことに興奮が抑えられなくなってきていると………………うん。どうにか抑えて欲しい。鼻血が出そう? それはさすがに気が早くないか?

 時間をかけても仕方ないので、早速「喋る全身鎧(リビングアーマー)の結婚相談所」に向かった。

 ………………。

 ………………。

 とりあえず、以前も見かけた、もじもじしていた全身鎧が受付をしていた。

 それと、結果として、メイドさん(美人)は数か月後、ミドナカル王国の王城で運命の出会いをすることになるそうだ。相手については、その時わかる。今はまだ明かせない。明かすと運命が変わる可能性がある、らしい。


「それで充分です。私にとっての神よ(マイ・ゴッド)


 メイドさん(美人)にとって、喋る全身鎧(リビングアーマー)は神となったようだ。

 喋る全身鎧(リビングアーマー)に感謝、あるいは賛辞の言葉を伝え続けるメイドさん(美人)をどうにか引き剝がし、竜の町で一泊する気はないので、ミドナカル王国の王都に戻った。

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