手当たり次第は駄目なようだ
ジルフリートさんと話している間に結構な時間になったので、新たな代表者の方は向かうのは明日にした。
なので、一旦宿に戻るのだが……リノファは王女である。
一応聞いてみた。
「宿、どうする?」
「え? 宿屋で構いませんが?」
構わないのだろうか?
まあ、俺が宿泊している宿の女将さんはキンと繋がっているのだが……宿屋自体は普通の宿屋だ。食事は美味いが。
それに、俺はキンと繋がりがあるし、フォーマンス王国もその内来るだろうから、先に王城内に部屋を取っておいてもいいと思う。
念のためもう一度。
「改めて聞くが、本当にいいのか? なんなら、ミドナカル王国の王――キンとは知り合いだし、今から王城に部屋を用意してもらうこともできるが?」
「問題ありません」
「そうか? でも、王城での宿泊とは色々と勝手が違うが……」
「大丈夫です。今まで私が居たのはダンジョン最下層ですよ。大抵のことはもう一人でできるようになりましたから。それに、困ったとしても、義母さまが居ますから」
安心させるように笑みを浮かべるリノファだが、なんか今発言の仕方が変だったような……まあ、いいか。
母さんからも問題ないと頷きが返されるし、何かあった時に俺の近くに居てくれた方が色々とやりやすいのは間違いない。
そう判断して、母さんとリノファと共に宿屋に向かい、無事に部屋を取ることができた。
もちろん、別部屋である。
―――
翌日。王城へ。
母さんとリノファは、王都内を見たいと観光に向かった。
俺もあとで観光しよう、と考えている間に王城に着いて、中に入ってから気付く。
そういえばメイドさん(美人)が現れていない。
いや、忙しいのだろう。
それを邪魔するつもりはないが……どうしよう。
さすがに案内の人が居ないと、どこに居るのかわからない。
誰かに声をかけて……いや、見かける人は誰もが忙しそうだ。
そろそろ代表者たちが揃って、キンによる説明が行われるのかもしれない。
メイドさん(美人)がメイド長さん(目力が強い)に仕事だと連行されていったのも、その辺りが関係していそうだ。
となると、忙しそうにしている人に声をかけて案内を頼むのは気が引ける。
……仕方ない。
迷うかもしれないが、とりあえず適当に進んでみるか。
手当たり次第でいけば、いつかは辿り着くだろう。
そう思って一歩前に出ると、真竜ノ杖が前に回って立ちはだかった。
まるで、その選択は許容できない、と言わんばかりに。
「……駄目?」
真竜ノ杖が頷くように動く。
「いや、でも、わからなくとも進んでいけばいずれは」
真竜ノ杖の装飾の竜がジト目で俺を見ている気がする。
そのいずれは一体いつになるのか? と言われているような感じ。
「じゃあ、このままここに居続けろと? それでどうにかなるのか?」
なる、と真竜ノ杖が頷くように動く。
本当に? と思っていると、奥の方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「……なんでついてくるんだよ? なんもしねえよ」
「それが信用されているとでも? そもそも、何もしないのであれば、その手に持つ槍を持つ必要はないのでは?」
「これは、アレだよ……その、なんだ。体が鈍らないように、ここの訓練場でちょっと振ろうと思っただけだ。他の国のヤツらやっているって聞いたから問題ねえだろ」
「その行為自体は問題ありません。私も確認しましたから。ですが、あなたの場合は少し訓練で済みませんよね? 間違いなく他国の方に絡んで訓練以上の傷を与えますよね?」
場が騒然となる。
そこにミドナカル王国の者や他国の者であるとか関係ない。
それも仕方ないだろう。
それだけ広く知れ渡っているということなのだ。
姿を見せた男女が身に付けている黒い鎧は。
リミタリー帝国の「暗黒騎士団」という名と共に。
ついでに言えば、男女はどちらも知っている。
「ファイ! クフォラ!」
青い髪の男性――ファイと、紫髪の女性――クフォラが、声をかけると俺に気付く。
先ほど竜の送迎でファイは見かけていたので来たことは知っていたが、クフォラも居るとは思わなかった。
……ん? あれ? もしかして、真竜ノ杖が俺をとめたのって、二人が来ると察したからか?
まあ、真竜ノ杖ならできても不思議ではない気がする。
「おっ! アルムじゃないか! なんだ、お前も来ていたのか!」
こちらに来たファイが片手を上げて陽気に声をかけてきた。
「……どうも」
クフォラは、どうしてここに居る? といった感じである。
「まあ、色々とあってな」
とりあえず、そう答えておく。
詳しいことは、このあと知るだろうし、俺から言っても仕方ないというか、この場で言うべきことではない。
「でも、クフォラはまだわかるが、ファイが来るとは思わなかったな。こういう場、嫌い……いや、面倒とか思いそうなのに」
「まあ、俺もそれだけ成長したってことだよ」
「違いますよ。アンル陛下がここに来るにあたって、色々と考慮した結果です。アフロディモン聖教国のこともありますので、セカンはアンル陛下が居ない間の帝国を見ておかねばならず、アスリーはその補佐として残らなければいけません。ですので、アンル陛下の身辺を守るにあたって、護衛として強い者をとなった時、ファイしか居なかったのです。ただ、ファイはこういうヤツですので、私がお目付け役として同行しています。私も暇ではないのですが……はあ」
疲労感を抱かせる息を吐くクフォラ。
大変そうだ。ごくろうさまです。
「………………ん? アンル殿下……いや、もう皇帝か。アンル皇帝の護衛として来ているのなら、今ここにこうして居ていいのか?」
「別に私とファイだけが護衛という訳ではありませんから。まあ、だからといって、勝手な行動を取っていいということにはなりませんが」
クフォラがそう言うが、後半はファイに向けてだろう。
ファイは肩をすくめた。
「仕方ねえだろ。何しろ、竜だぞ! 竜! 竜と戦えるかもしれないんだったら、まずはそこに赴くだろ!」
いや、普通は赴かない。
しかし、そう口にするファイの目はキラキラと輝いている――と思っていたら、その目が俺に向けられる。
「でもまあ、その前にまずはアルムとだな! なんでその杖がそんな風に浮いているのか気になるし、戦いながら聞いてやるよ!」
いや、普通に聞けよ、と思うがファイには通じない。
肩をがっしり掴まれて逃げられず、結局王城敷地内にある訓練場で、ファイと模擬戦を行うことになった。
陽が落ちるまで続けられ……今日はそのまま宿屋に戻………………あっ、アンル皇帝に会ってない。
……いいか。また会えたらで。
宿屋に戻った。




