……できる
まずは、と王城に居るグラスさまの下へドレアを送り届ける。
「連れてきたぞー!」
ドレアだけを連れて、中に入る。
「来てくれたか、ドレア!」
「まったく。話は少しだけ聞いたが、私必要か? グラスだけでも充分だろう? 私の出番は戦いが始まってからだと思うが?」
「必要に決まっているだろう。主に、私の精神的な意味でな!」
グラスさまが嬉しそうにして、俺に向けて一礼する。
「ありがとう。ドレアを連れてきてくれて。感謝する」
「まあ、これくらいはな。キン――この国の王さまから話が始まるのはもう少しかかるようだから、それまでゆっくりすればいいさ」
それだけ口にして、この場をあとにする。
気を遣った――というのもあるが、他にも向かうところがあるからだ。
向かうところの情報を教えてくれたのは、メイドさん(美人)。
新たに来た代表者たちの中に、三柱の国・ラピスラの王、それと三柱の国・ラピスラ国内にある冒険者ギルド総本部と商業ギルド総本部――それぞれのギルドマスターが共に来て居たのだ。
―――
三柱の国・ラピスラの王ーーとなると、銀髪の男性である、ジルフリートさんだろうか。
まあ、そこに冒険者ギルド総本部と商業ギルド総本部のギルドマスターが居るのなら会えるだろう。
メイドさん(美人)に案内されるまま、王城から出た。
「……ん? あれ? 王城ではないのか?」
総本部のギルドマスターなら宿泊場所が王城でもおかしくないと思うのだが。
「王都のギルドと直ぐ連絡を取れるように、と双方のギルド近くの高級宿の方にご宿泊中です」
疑問に思っていると、メイドさん(美人)がそう説明してきた。
そうなると、ジルフリートさんは……あとでいいか。
まずは総本部のギルドマスターの方だ。
しかし……なるほど。仕事熱心だな。
いや、さすがは総本部のギルドマスターといったところか。
きっと、連絡云々は表の理由で、裏ではしっかりと仕事をしているか、現場の環境が悪くないか――などなど、その辺りの査察もするに違いない……待てよ。既に来ているのなら査察は終わった可能性があるな。
きっと、知らぬ顔でギルド内に入り、絡むか煽るかしてギルド員の対応を窺って査定――場合によっては自らの正体をババン! と明かして、救世主が来たとこれまで虐げられてきたギルド員たちから拍手喝采が起こっていたに違いない。
その場面……見たかった。
もう一回は……さすがに無理か。
「……何か考え込んでいるようですが?」
「あれは、何か見たかったモノを見逃してしまったことに気付き、少し悔しいといった感じですね」
リノファの疑問に、母さんが的確に答えていた。
―――
メイドさん(美人)の案内で着いた高級宿は、全体的に白を基調した品格が高そうな三階建ての大きな宿だった。
中に入るとより一層そう感じるというか、煌びやかという言葉が似合う感じである。
各所に置いている調度品はどれも高そうだ。
俺としては気おくれしてしまう。
しかし、今一緒に居るのは、こういうところでも一切取り乱さないメイド、王女、「王雷」、それに案内役メイドさん(美人)である。
俺は言ってみれば冒険者。
場違い感が強いと思うのだが……気にしたら負けだろうか。
まあ、ここに宿泊する訳ではないし、気にする必要はないか。
そう判断している間に、メイドさん(美人)が高級宿の従業員に話を通して、冒険者ギルド総本部のギルドマスター――黒髪の少年・ラフトと、商業ギルド総本部のギルドマスター――金髪碧眼の美女・ビネスを呼び出していた。
ラフトとビネスは直ぐに現れ――。
「クララ!」
「ビライブお兄さま!」
勢いを付けて目的の人物に抱き着こうとするが、クララは恥ずかしそうに顔を少し赤くしてかわし、ビライブは落ち着くようにと手を前に突き出してとめる。
「もう、落ち着いてよ、ラフト兄ちゃん」
「ビネスも、ですよ。それでなくとも、ここは公共の場です。節度ある行動でお願いします。ビネスもラフトも、ギルドマスターなのですから」
クララとビライブが窘めるように言うが、「王雷」のリーダー・ニーグは気にした様子もなく笑う。
「はははっ。まあ、前々から似たようなモノだったし、こればっかりはな。ほら、久々に会ったんだから、積もる話もあるだろ。部屋まで案内してくれ」
じゃあ、またあとでな! とニーグが俺にそう言って、ラフト、ビネス、クララ、ビライブを連れて高級宿の奥へと向かっていった。
そういえば、「王雷」はどこに宿泊……まあ、ラフトとビネスがどうとでも……それこそ、総本部ギルドマスターの力を使ってどうにでもしそうなので気にする必要はない。
となると、母さんとリノファはどうするのだろうか? と尋ねると、少なくともフォーマンス王国の王でリノファの兄であるテレイルが来るまでは、俺と同じ宿屋でいいそうだ。
それはいのだろうか? ――と考えたところで、一瞬、大きな影が俺たちを覆う。
見上げれば、竜の送迎が新たな代表者を連れてきたようだ。
それが誰か見えたのでこれから会いに行こうと思い、メイドさん(美人)に案内をお願いしようと思ったのだが――。
「新たな仕事です」
そんな声と共に突然現れたメイド長さん(目力が強い)によって連行されていった。
「あのメイド長……できますね」
母さんがそんな呟きを残した。
……あっ、ジルフリートさんと新たな代表者………………いいか。
明日にしようと思ったのだが、母さんに案内されてジルフリートさんと会うことができた。
ゆっくりと話すことができたのだが……ふと気付く。
なんで母さんは他国の城なのに案内できるのだろうか?
母さん……できる。と呟くと、造作もないこと、と返ってきた。




