なりません
ミドナカル王国の王都に向けて出発する。
今回は人数が多いので肩掛けカバンの中にある、度々使用してきた大きな木箱を使って――ではない。
ここで、真竜ノ杖の新たな能力が判明した。
もちろん、俺の魔力は必要だが、障壁の大きさを変えられるようでそれなりに大きくできる。
大きくなれば障壁の中に任意で人を入れることもできるようで、そのまま障壁を張り続けることで中に入れたまま運ぶことができるようだ。
障壁の大きさによっては、木箱よりも多くの人を運ぶことができると思う。
ただ、障壁の形は今のところ球体のみなので、俺は球体の中心に真竜ノ杖と共に居るので平気なのだが、中に居る人はバランスを取るのが大変ではある。
まあ、そうそう使うことはないだろうし、今回はお試しで、目的地も直ぐなので我慢してもらいたい。
一度始めたことなので途中でやめるのもちょっと……。
「ちょっ! お前! 足どけろ!」
「はははははっ! ぐちゃぐちゃだな! はははははっ!」
揉みくちゃになってドレアは怒りを露わにするが、「王雷」のリーダーの銀髪男性――ニーグは楽しそうに笑っている。
「「「………………はあ~」」」
リノファ、「王雷」の黒髪美少女のクララ、金髪碧眼美男子のビライブが大きくため息を吐く。
早く終わって欲しいと耐えているようだ。
「……」
母さんは黙してただ時が経つのを待っているようだ。
揉みくちゃ状態でも特に気にしている様子がないのは……さすが超一流メイド、ということだろうか。
申し訳ないな、と思いつつも――これが一番速く、時間もそうかからないので我慢してもらうしかない……もらうしかないんだよな? と真竜ノ杖を見る。
いや、俺が障壁の中心で浮いている訳だし、真竜ノ杖なら他の人たちにも同様のことができると思うのだが………………真竜ノ杖――の装飾の竜は俺の視線から逃れるように回転した。
うん。これ。できるっぽいな。
でも、そうしていないのは……真竜ノ杖にその気がないとか、そんな感じがする。
……できそうだというのは黙っていよう。
もう本当に直ぐ。直ぐ着くから。
ちなみに、今ミドナカル王国の王都は竜による送迎が行われている影響で、竜が飛んでも問題ないということがあって、ブッくんとホーちゃんは黒竜と白竜の姿に戻って近くで飛んでいる。
「ふふふ。ブッくん。逞しくなったんじゃない?」
「そ、そうかな? ホーちゃん」
「うんうん。間違いないって。今なら、超越魔竜さまや至高聖竜にだって勝てるかもしれないよ?」
「そ、そうかな!」
ホーちゃんに褒められて嬉しいのはわかるが、ブッくんよ。それは無理だ。
―――
予定通りというか、ミドナカル王国の王都には直ぐ着いた。
竜の姿で現れても特に騒がしく――いや、歓迎するような騒ぎにはなるが、逃げ惑うような騒ぎにはならないことがわかり、ブッくんとホーちゃんは少しだけ驚いている。
いや、だから大丈夫だって言っただろ。
問題ないのだ。
ブッくんとホーちゃんが理解したと頷く。
そして、竜の送迎の関係で竜たちは王城付近に多く集まっているので、先に行って構わないと伝えると、ブッくんとホーちゃんはそのまま飛んでいった。
知り合いの姿でも見つけたのかもしれない。
残ったこちらは一旦下りてから、王都の中に入る。
「お待ちしておりました」
王都に入った瞬間、メイドさん(美人)が一礼して出迎えてきた。
「……もしかしてだけど、ここで待っていた、とか?」
「まさか。アルムさまがどこかに出向いている間、私は王城でメイド長に捕まり、メイド長が此度の代表者さまたちの名簿を作成していましたので、そのお手伝いしておりました」
「そ、そうか」
そのまま手伝っていてもいいと思うのだが……ん?
「名簿作成を手伝っていたのなら、どうして今ここに?」
「それは、代表者名簿を作成している時です。私は代表者の名を記していたのですが、お名前の頭文字を縦に読んでいきますと『ア・ル・ム・モ・ド・ル』となっていましたので、出迎えなければと飛び出して、今に至ります」
そんな馬鹿な、と言いたいが、このメイドさん(美人)ならあり得そうだ。
ただ、その行動はメイド長(目力が強い)にあとで怒られると思うのだが……そこまでは関与しない。いや、したくないので触れないでおこう。
そうして、早速王城に向かおうとしたのだが――。
「………………」
「………………」
何故か、母さんとメイドさん(美人)が視線を合わせたまま少しも動かない。
いや、もう行きたいんだけど。
どういうこと? とリノファたちを見るが、誰もわからないと首を横に振る。
俺も状況がわからないままでいると、メイドさん(美人)がいきなり片膝をついた。
「くっ。なんというメイド力ですか……まさか、ここまでのメイド力を持つメイドがメイド長以外居たとは」
「ふふっ。少なからず、私のメイド力を測れるのなら、あなたも立派なメイドですよ」
「そう言っていただけて何よりです。ありがとうございます」
何やら通じ合っていた。
母さん、別に相手もメイドだからと通じ合わなくてもいいから。
そして、メイドさん(美人)に新たに来た代表者のことを聞きながら王城まで向かうのだが、その中で俺が母さんのことをうっかり呼んでしまうと、メイドさん(美人)が反応する。
「この凄まじいメイド力を持つメイドがアルムさまの母親……つまり、これは親への挨拶ということになるのでは?」
なりません。
母さん。真に受けないように。




