それとこれは別の話だと思います
一度ラビンさんのダンジョンに戻る。
ミドナカル王国内にあるし、王都から直ぐそこみたいな感じなので、たとえば行って紅茶飲みながら談笑してから戻っても一日もかからないだろう。
いや、そこにさらに昼寝を加えたとしても、朝行って夕方には戻ってくることもできると思う。
なので、メイドさん(美人)にちょっと出かけてきます、と告げて――逃げる訳ではないから! 本当に! 絶対連れて行く……え? いつ? えっと……その……あっ、じゃあ、出かけて戻って少ししたら! 絶対に! 間違いなく! ……いや、駄目だった場合とか言われても……これで行き遅れたらどうするとか言われ……責任? 責任を取ってもらう? ……いや、それはまた違う話では……と、とりあえず、その話は戻ってきたらで! とどうにかこうにか振り切って、あっという間にラビンさんの隠れ家に辿り着く。
近場だったとはいえ、迷うことなく着いたのは、それだけ俺が成長し――はい。真竜ノ杖のおかげです。はい。
俺としては目的地に向けて真っ直ぐ飛んでいたつもりだったのだが、真竜ノ杖がちょいちょい修正していたようだ。
お世話になりました。
太陽を目印にするのが駄目だったのかもしれない。
そうして、ラビンさんの隠れ家からラビンさんのダンジョンの最下層へ。
カーくんは居ないが、ボス部屋だろうと中に入ると、何やら無のグラノさんたちが、地表に描かれた巨大な魔法陣の中でうんうん唸っていた。
近くに居たラビンさんに声をかける。
「ラビンさん」
「ん? ああ、アルムくんか。おかえり」
「ただいま。で、これは何を?」
「魂の強化――いや、意味合い的には保護の方かな? その最終調整中。一時的だろうとっも移し替える訳だし、それで異常を起こさないために保護が必要だからね」
「そうか。順調、なのか?」
「うん。大丈夫。もしもの時の切り札みたいなモノだから、間に合わせるよ。それで、アルムはどうしてここに? この国の王都で、色んな国の代表が揃うのを待っていたんじゃなかった?」
「知っていたのか?」
「そりゃ、今のこの国の状況はボクが提案したことによるモノだからね。ある程度状況の予測はできるさ。といっても、実際はそれだけじゃなく、邪神のことについて少しは情報を伝えておかないといけないことがあるから、この国の王とは今連絡を取り合っているんだ。その中で雑談として色々と聞いているだけなんだけどね」
なるほど、と思う。
確かに、俺がキンに伝えたのはラビンさんの提案であって、そこから先については話していない――というか、俺も知らない。
提案だけで集めた国の代表者たちを納得させるのは難しいというか無理だろうから、より詳細な情報が必要なのは間違いない。
元々ラビンさんとミドナカル王国の王族は繋がっている訳だし、連絡も取ろうと思えば取れるか。
「………………あれ? 連絡を取り合えるということは、俺が報告書? を届けた意味は?」
「あの時はそんな余裕がなかったからね。それに、ボクが連絡を取ろうとすると向こうは恐縮することが多くて。だから、アルムくんに届けてもらった方が早かったんだよ」
「そうか」
「そうそう。ところで、さっきか気になっていたんだけど……」
「ん? どうした?」
「いや、それ、ボクが作った竜杖だよね? なんでアルムくんが触れてもいないのに浮いているの? そんな能力ないのに」
首を傾げながら、ラビンさんが指し示したのは真竜ノ杖。
そうだ。真竜ノ杖について――竜山で起こったことを説明する。
………………。
………………。
「という訳だ」
「なるほど。邪神の一部が、ね。神杖があっても普通は無理だけど、それでも出現させたってことは……使用者は相当消耗したんじゃない?」
「ああ、そのあとはしばらくの間、何もできなくなっていたな」
「まあ、そうだろうね。まっ、邪神とかそこら辺は、神剣が奪われた場合のボクが考えた想定に近い結果だったけど……それでも状況は悪くないかも。いや、ボクにも真竜ノ杖については予想外かな。相当強力な杖だよ、それ。それこそ神杖並――いや、それ以上かも」
真竜ノ杖は嬉しそう……いや、これは自慢げか?
「でも、一度壊れかけたんだよね? 大丈夫だと思うけど、念のため一度点検しておこうか?」
「そうだな。見てもらった方が安心かな?」
ラビンさんが真竜ノ杖を手に取ろうとするが、真竜ノ杖はその手をかわす。
「あれ? 動いた? アルムくん?」
「ラビンさんも駄目なのか? 親みたいなモノだと思うんだが」
手をかわしたのは俺の意思ではなく、勝手に動くようになったことだと話す。
「へえ~、本当に意思があるんだ。真竜の力の影響かな? 面白いね。まあ、それならそれで大丈夫かな」
「大丈夫なのか?」
「うん。意思があるみたいだし、それなら自分が駄目だと思うのなら、早く直せとボクに点検させると思う。それがないってことは大丈夫だってことだよ」
「そういうもの?」
「そういうもの」
「そっか」
ラビンさんが大丈夫だと判断するのなら、大丈夫かな。
ホッと安堵して、胸を撫で下ろす。
「ところで、今回はどうしたの? 各国の代表者が中々揃わなくて暇を持て余しているから? それとも、何か用事が?」
「え? ……あっ!」
そうだ。ドレアを迎えに来たんだった。




