それは輝く笑顔でした
「……邪神とか御伽噺の存在としか思えないが、冗談でもなんでもないんだな?」
現実に戻ってきたクラウさんが尋ねてくる。
俺は頷きを返した。
「事実だ。もう少し詳しい内容か、国としてどう行動するかは、キン――ミドナカル王国の王さまが話すと思うけれど、これから何が起こることが邪神復活なのは間違いない」
「そうか。……となると、『絶対的な死』殿がダンジョンに戻ってきたのは?」
「説明の中でも言ったが、邪神が復活すると世界規模で魔物大発生が起こるようだから、それに影響を受けないようにしていると思う。アブさんのダンジョンは王都の中にあるし、そこから再び魔物が――なんてのは嫌だろ?」
「嫌とかそんな言葉で片付かないが……助かるのは事実だ。少なくとも、そのような事態になるのなら、王都内のダンジョンを警戒しなくてもいい、というのはありがたい。まあ、何故警戒する必要がないかを説明する訳にはいかないから、形ばかりの人員は配置しないといけないがな」
貴族の子弟とかをあてがっておけばいいか――と口にするクラウさん。
これで聞きたかったことは終わったというか、これ以上はこのあとのキンによる説明になるだろうから、一旦この話は終わる。
あとは雑談だけだった。
―――
クラウさんとの雑談中――気になることがあった。
中から外に音は漏れないのだが、逆もというか、外の音が中に聞こえてくることはない。
でも、様子は見える。
だから見えたのだが、メイドさん(美人)とクールなメイドさんが仲良く話しているのだ。
いや、メイドとしての情報交換か?
……それもあるだろうが、なんか違う気がする。
それだけではない、というのが正しいだろうか。
だって、クールなメイドさんはクールなままだが、メイドさん(美人)は嬉しそうに笑っているし……あっ、なんか今読唇できそうな気がする。
えっと……モ、ウ、ス、グ、ケ、ツ、コ、ン……もう直ぐ結婚?
いや、結婚紹介所を紹介するというか連れて行くだけで、そこで運命の相手がわかったとしても直ぐとは………………メイドさん(美人)はなんて眩しい笑顔なんだ。
あんな笑顔を曇らせる勇気は……俺にはない。
見なかったことにした。
―――
クラウさんとの雑談が終わると、一旦宿屋へと戻る。
その中でメイドさん(美人)に聞いてみたのだが、森の国・フォレストガーデンから来ているエルフたちの中に、光のレイさんの姉妹であるルウさんとロアさんは居なかった。
まあ、ここに俺が居ることは知らないだろうし、世界樹から離れるのも難しいとか理由だろうか。
残念だけど、仕方ない。
―――
メイドさん(美人)からどこの国のなんて人が来たのかを聞いていると、知っている国の知っている人が居たので、会いに行ってみる――前に会ってくれるかどうかの確認を取る必要がある。
「お任せください。確認してまいります」
メイドさん(美人)が頼もしい。
……運命の人が近くに居ればいいのだが……そもそも居るよな? 頼む。居てくれよ。
喋る全身鎧に願っておいた。
真剣に願っている間にメイドさん(美人)が戻ってきて、会えるようなので会う。
クラウさんが利用していた部屋と同じくらい広い部屋の中で会った相手は、海洋国家・シートピアの女王「グラス・シレ・ルメール」――グラスさま。海を思わせる蒼い長髪の美しい女性だ。
「久し振りだな。覚えていてくれたようで何よりだ」
「忘れる訳ないだろう。それに聞きたいことがあったから丁度いい」
もちろん、ここでも外に会話が漏れない魔道具は発動している。
クラウさんもそうだったがグラスさまも自然に使っていたが、王族とかになると必須技能なのだろうか?
まあ、魔力を流すだけのようだけど。
「聞きたいこと? なんだ? 今回の件のことか? それなら」
「ああ、それはいい。いつかはわからないがそう時間はかからずに、キングッドから聞くことになるんだ。二度も同じ内容を聞く気はない。一度で充分――まあ、お前が関わっている、ということはわかったよ」
しまった! ――いや、まあ、別に俺がきっかけで始まったという訳ではないと思うから気にする必要はないのだが。
「なら、何が聞きたいんだ?」
「ドレアのことだよ」
「ドレア? ドレアがどうしたんだ?」
そういえば最近姿を見かけていなかったが、まだ海神の槍の特訓を続けているのだろうか?
ドレアの性格的に満足するまでやるのは間違いないだろうが、それで思ったよりも月日が経っていたとかあり得そうだ。
「ドレアは少し前から姿を見せても直ぐどこかに行ってしまうようで、今回もこの場に共に来て欲しかったのだが丁度居なくてな。心当たりはないか? 今回のことは共に聞いて欲しい……いや、聞いて欲しかったと思ったのだ」
心当たりはあるというか、多分風のウィンヴィさんと一緒に特訓していると思うのだが……行って戻って間に合うだろうか?
まあ、まだ来ていない国もあるようだし、キンが話を始めるのにまだ少しは時間がある。
真竜ノ杖を見せるという意味でも、一度戻っておくのもいいかもしれない。
「わかった。居るかどうかわからないが、一度見に行ってみる」
「すまない……いや、ありがとう。居たらでいいので、よろしく頼む」
ラビンさんのダンジョンに一度戻ることにした。




