ついつい口にしてしまった
これから邪神との戦いが始まるという情報共有をして、今から危機感を持って行動していこう。おー! という決起集会のようなことを行うことになった。
冒険者ギルド、あるいは商業ギルドを通じて世界各国に通達を飛ばし、その代表者たちをミドナカル王国の王都に集めるために、竜による送迎で代表者たちに気合を入れてもらう、といった手法である。
送迎が竜で大丈夫だろうか? と思うだろうが、これはデーさんとホーさんによる決定事項なので、たとえ竜王であるシーさんでも覆せないので問題ない。
寧ろ、竜の送迎についての話し合いで再び竜山に向かった際に、シーさんは最初にガツンとやるのは大切で、その後の流れを決めるといってもおかしくない、と頷いたくらいである。
「つまり、デーさんとホーさんに最初にガツンとやられたってこと?」
その場で聞いてみたが、シーさんは答えなかった。
多分俺のうしろにデーさんとホーさんが立っていたからだと思う。
カーくんは聞く前に「あっ、友達の家に忘れ物が……」と言って席を外していたのは、勘か何かだろうか。
また、国家間のやり取りについては別に冒険者ギルドと商業ギルドを通じなくても行えるが、最速がそちらからの通達であり、大抵の国にあるということで、一国から多くの国に伝えられるために利用した、というのは表向きの理由。
実際は――。
「どのみち何をどうしようが協力してもらうんだ。なら、最初から巻き込んでおけばいい」
というキンの言葉による結果である。
冒険者ギルドと商業ギルドは文句の一つくらいは言ってもいいと思う。
お前の国で冒険者活動や商売しないぞ、おら! とイキってみるのも……いや、駄目だ。ミドナカル王国にはラビンさんのダンジョンがあるし、それが何かしらの迷惑になるかもしれないから、その邪魔は良くない。
冒険者ギルドと商業ギルドが有能だから早期から協力して欲しい。これを裏向きの理由としよう。
そうして、ミドナカル王国の王さまが今後世界規模で起こる災厄と言ってもいい話――邪神についてというのは集まってから――をするという通達と、竜による送迎という衝撃によって、これはなんかヤバいことが起こると察したであろう代表者たちが直ぐに集まることになった。
邪神が封印から解き放たれる時――日食までまだ多少の時間的猶予はあるが、急いだ方がいいのは間違いない。
ただ、各国からの返答を受けていたミドナカル王国の宰相のライムさんによると、なんか代表者の大半は王さまだそうだ。
……いや、いやいや。なんで王さま?
俺としては別に王さまでなくてもいいと思うのだが、色々とそうする理由があるようだ。
たとえ全権を任された代表者であってもその場の流れや決められない問題というのはあるし、今回の件は大事である可能性が高いと踏んでいるからこそ、自らが赴かねばならないと判断したのでは? とライムさんは口にするのだが、キンは別の理由だと言う。
「は? そんな健気な心構えな訳あるか。まあ、確かに放置するのは危険と既に感じているからこそ、というのも居るには居るだろうが――よっしゃ! これで一時的とはいえ執務から解放される! 休暇や! とか考えているだろうな」
王は大変だからな、と最後に付け加えて、うんうんと頷くキン。
なるほど。そういうことを考える余裕があるのでしたら、もう少し仕事を増やしても大丈夫ですね、とライムさんが口にすると、キンは謝った。直ぐ謝った。
確かに大変そうだ。
王さまと宰相の力関係が――いや、関係ないので触れないことにした。
しかし、残念と言うべきなのか、すべての国の代表者が集まる訳ではない。
属国だからとか、それどころではない、信じられないとか、色々とそれらしい理由を付けて断る国もあった。
けれど、キンからするとそれでも別に構わないらしい。
というのも、所謂大国と呼ばれる国はすべて参加であり、キンからするとそれ以外の国の参加についてはそこまで優先度が高くなく――来てもいいし、来なくてもいいと考えていたそうだ。
「世界規模で危険だとわかれば、このことを知った大国の方から非参加国へ通達が出るだろうからな」
ミドナカル王国の周辺ならまだしも、遠く離れた国には近場の大国から通達された方が効果がある、というらしい。
キンが王さまに見えた。
「いや、王だから」
知っている。
そうして、代表者たちが揃うのを待っている間に、俺が王城に出入りしていることがバレた。
まあ、隠す余裕もないのでバレたのは当然と言えば当然だが。
誰にバレたかと言えば、メイドさん(美人)である。
頑張った。本当に頑張った――が、駄目だった。
押しが強過ぎる。
俺は漏らしてしまった。
竜の町にある「喋る全身鎧の結婚相談所」を。
メイドさん(美人)は直ぐ向かおうとしたが、さすがに竜の町に向かうのは危険というか、その道中で死なれると良心が痛むので、必ず連れて行くからと約束して一旦留めることに成功した。
しかし、そこからこの国の王さまよりも上に俺を置くようになったのはやめて欲しいと思う。
それにしても、よくよく考えてみると、今回のことは今後に歴史が続いていけば、その中で刻まれることが間違いない出来事だと思う。
そう思いながら代表者たちがミドナカル王国の王都に集っていくのだが、その中には俺も知っている人が居るので、その人たちには挨拶を行うことにした。




