もう大丈夫だと思います
真竜ノ杖が居るなら大丈夫だと、アブさんは自分のダンジョンがある冒険者の国・トゥーラへと向かって飛んでいく。
「……迷わず着けるだろうか?」
「迷わず着けるからな!」
どうやら聞こえていたようで、アブさんは俺を指差しながら力強くそう言ってから、今後こそ飛んでいった。
その姿が見えなくなるまで見送る。
「……無事に辿り着くよな」
俺の呟きに対して、真竜ノ杖が頷くように動いた。
なら、大丈夫かな。
そう判断して、こっちも行動を始める。
ミドナカル王国の王都に向かうのだが、正直に言って俺に準備は必要ない。
すべてマジックバッグの中に入っているからだ。
なので、準備が必要なのは一緒に向かうデーさんとホーさんなのだが……。
デーさんとホーさんの家を見る。
………………。
………………。
カーくんだけなら終わってもいてもいいと思うが、シーさんが加わったことで、より時間がかかっていそうな気がする。
「今行って大丈夫だと思う?」
デーさんとホーさんの家を指差しながら何気なく聞いてみると、真竜ノ杖は俺の前に回ってきて、今はまだ行かない方がいいと装飾の竜が首を振るように左右に動く。
だよな、と頷き――出発となれば直ぐだろうから、今の内にと竜の町を散歩というか観光しつつ、今回のことで知り合いになった竜たちや魔物たちとの会話を楽しんだりしつつ、途中で町を出て、空を飛ぶ練習をする。
というのも、竜杖が真竜ノ杖となってから初めての長距離移動だ。
変わった時に試しはしたが、もう少し杖に乗らずに飛ぶ感覚に慣れておきたい。
………………。
………………。
また乗るのは駄目だろうか?
真竜ノ杖から、それでは練習にならないとジト目を向けられている気がする。
頑張った。
慣れて大丈夫だと思う頃には、もう陽が落ちそうになっていたので、デーさんとホーさんの家に戻る。
「………………」
「「………………おかえり~」」
人化したカーくんと、見慣れぬ男性が、床に突っ伏していた。
見慣れぬ男性は銀髪で、高貴そうというか、王さまみたいな衣服を着ている。
……王さま?
「もしかして、シーさんか?」
「そうだが……そういえば、アルムに俺の人の姿を見せるのは初めてだったな」
シーさんだった。
顔だけずらして、シーさんが俺を見る。
精悍な顔付きだ。
ただ、突っ伏している状態なので、色々と台無しなのは間違いない。
どうしてそうなっているのか尋ねると、どうやら足を折りたたむようにして座った状態で、デーさんとホーさんから、自分たちが居なくなるとはいえ羽目を外し過ぎないように、と注意というか忠告のようなモノを聞き続けていた結果そうだ。
今まで? と思ったが、デーさんとホーさんがカーくんに会うのは久々のようだから、ついつい熱が入ってしまったのかもしれない。
ただ、まあ、その結果として、足が痺れることになったようだが。
真竜ノ杖がスーッと動き、カーくんとシーさんの足をつんつんと突く。
「ぐ、ぐわあ! や、やめろぉ! やめてくれぇ!」
「待って! 本当に待って! 今は駄目! マジで駄目だから!」
辛そうだが、悲しいお知らせをしないといけない。
「いや、真竜ノ杖は勝手に動くから……ごめん。俺にはとめられない」
「「いや、言い聞かせることでき――ぎゃあ!」」
再度突かれるカーくんとシーさん。
真竜ノ杖は楽しそうだ。
ほどほどに、と一応言っておく。
デーさんとホーさんは満足げで、出発の準備も終えていたのだが、陽も落ちているので出発は明日になった。
―――
翌日。朝。俺は昨日知り合いになった者たちに挨拶をしておいた。デーさんとホーさんはどうするのかと思って聞けば、どうやらお出かけ感覚のようで必要ないと言われる。人と竜では、感じる規模が違うのかもしれない。
生きている年月日の違いによるモノだろうか。
まあ、デーさんとホーさんが大丈夫なら問題ない。
どこか嬉しそうなカーくんとシーさんに見送られながら竜の町から出ると、俺は真竜ノ杖で、デーさんとホーさんは竜の姿となって空へと上がる。
「あれだと、カオスと竜王は羽目を外すな。間違いなく。注意した意味があるかどうか」
「大丈夫ですよ。信じましょう。……まあ、カオスと竜王が行きそうな店には見当が付いていますので、既に話は通しています。帰って来てからが楽しみですね」
既に先手は打たれているようだ。
多分、そうとは気付かずに羽目を外すんだろうな……頑張れ、カーくん。シーさん。
応援だけはしておいた。
そうしてミドナカル王国の王都に向けて飛んでいく。
俺が先頭なのでデーさんとホーさんを先導するような形だが、今になって不安が出てくる。
間違ったらどうしよう――と思っていると、時折飛ぶ方向が修正されているような感覚があった。
俺の意思ではない。
では――と真竜ノ杖を見れば、任せろ、となんとも頼もしい雰囲気を感じた。
……ありがとうございます。お世話になります。
ほどなくして、ミドナカル王国の王都が見えてきた。




