任せてもらえないようだ
パネェ神官と会った。
どうやって転職させているのかとか興味はあるのだが、聞くと後戻りできない気もするので、迂闊に触れないことにした。
世の中、知らなくてもいいこと……いや、知るべきではないことは、きっとあるはずだ。
それに抵触していると思う。
付き合いやすい距離感というのもあるし、俺とパネェ神官はこれくらいで丁度いいのである。
「おっと、いつまでも話し続ける訳にはいきませんね。アルム殿がここに現れたのは、竜王殿と話すためでしょうから」
そう言って、パネェ神官がシーさんの方を向く。
「それでは、また」
「うむ」
シーさんが頷き、パネェ神官はシーさんと俺に一礼したあと、この場から去っていった。
……結局、人か魔物か、聞けなかったな……いや、まあ、いいか。どっちでも。パネェ神官はパネェ神官である。
「……あれがパネェ神官か」
「うむ。この町に住む魔物たちを取り纏めている、所謂魔物側の代表みたいなモノだな。この町に住む魔物たちが、一体もやられることなく乗り切ったことに対しての感謝の言葉を伝えに来ていたのだが……それでアルムはどんな用件で?」
「え? あ? ……ああ、そうそう。ラビンさんから今後の話があって――」
伝えるだけなので、直ぐに済む。
合わせて、デーさんとホーさんが共に行く、ということも伝えておいた。
「なるほど。まあ、話は大体わかった。俺もラビンとは会ったことがあるし、ラビンがそう言うのなら何かしらの勝算があるってことか。確かに、いつまでも封印しておくのも限界があるかもしれないし、倒せるのなら後々のためにはいいか。……カオスはこのあとどうすると? アルムに付いていくのか?」
「カーくん? いや、久し振りだから、シーさんとか色々と話したいのが居るようで、ミドナカル王国に向かうのは俺とデーさんとホーさんだな」
あと、アブさんも。
「シーさんも来」
「そうだな! そういうことなら! カオスが俺と話したいというのなら仕方ない! 付き合ってやるか! いやあ、それがなければ竜王としてアルムたちに付き添ったのだが、そういうことなら仕方ない! 友情は大切だからな! 友達は大事にしないとな!」
俺が尋ねる前に、シーさんはそう口にする。
いや、助かった。上手い具合に断ることができた。みたいな雰囲気なのだが。
ジト目で見ていると、シーさんは「こほん」と咳払いを一つする。
「まあ、なんだ。ホーリーさんの言うように、これは世界規模の話だ。それも、邪神なんてモノを放っておけば、世界の存続にまで関わってもおかしくない。竜王の名の下に、竜も総力を挙げて協力すると約束する」
「心強いよ。なら、一緒にミドナカル王国へ」
「それは遠慮する」
シーさんは行かないようだ。
ただ、デーさんとホーさんを竜の代表とするので、その場で決まったことに協力する、という感じで一方的に話は纏まった。
「それで、今カオスは何をしているんだ?」
「え? あー……アレです。久し振りに会った姉たちと話している感じかな」
物理的に、だけど。
「そうか。なら、少し様子を見てくるついでに、デビルさんとホーリーさんに代表として任せることも伝えておくか」
そう言って、シーさんがデーさんとホーさんの家へと向かう。
俺は黙って見送り……ピカッ! とシーさんが光り輝き、視界が真っ白に染まる。
わ、忘れていた。少し目がやられたと呻いたあと、視界が回復する頃にはシーさんの姿はなかった。
……少しして、カーくんの「逃がさない!」という声と、シーさんの「放せ!」という声が聞こえてきたが……聞こえなかったことにする。
―――
シーさんと一緒にデーさんとホーさんの家に戻らなかったのには理由がある。
「なるほど。邪神を封印したままでは後々のためにならないし、何よりまた封印したとしても、それを破られないように見守り続ける必要が出てくる――のは面倒であり、不安要素として残って完全に安心はできない。倒せるのなら倒してしまった方がいい、ということか。某も賛成だ」
うんうん、と空中に居るアブさんが頷く。
ラビンさんの提案をシーさんに話している時に、ふらふら~、と現れて一緒に聞いていたのだ。
シーさんもアブさんには気付いていたが、初対面という訳ではないので気にしていない、という感じだった。
「という訳で、ミドナカル王国の王都に向かう訳だけど……どうする?」
「どうする、とは? もちろん、某はアルムと共に」
「デーさんとホーさんが一緒に来るけど?」
「………………」
頭蓋骨が取れるんじゃないか? と思うくらいアブさんが頭を傾けて悩み始めた。
まあ、未だにアブさんはデーさんとホーさん――特にホーさんを前にすると直立不動の構えとなってしまうので、行動を共にすると気が抜けなくなる。
その辺りを危惧しているのかもしれない。
「なんだったら、アブさんは一度自分のダンジョンに戻ってみるのはどうだ? 世界規模で戦いが起こるようだし、しっかりと対策を練っておかないと、いくらダンジョンとはいえ危ないかもしれないし」
「なるほど。可能性は……あるな」
「ダンジョンに何かあればアブさんにも影響があるし、俺としてはしっかり対策してから協力してくれた方が安心かな。今アブさんの代わりにダンジョンを見てくれているクラウさんにも、今後起こることは伝えないといけないし」
まあ、今後起こることはミドナカル王国を通じて各国に伝えられると思うが、それが少し早く伝えられるだけだ。
「……うむ……うむ……それはいいかもしれないな。いや、確かに、ダンジョンだからといって安心はできないか……だが……」
アブさんが悩み出す。
何やら懸念することがあるようだ。
「どうした?」
「某が居なくて大丈夫か? 無事に目的地に辿り着けるのか?」
「いや、ええ、た、辿り着けるよ。辿り着けるから」
大丈夫、と胸を叩いてみせるが、アブさんは不安そうだ。
すると、そこで真竜ノ杖が動き出し、任せろとアブさんに向けて頷くような動きをする。
「……うむ。そうだな。任せた!」
俺の方向感覚には任せてもらえないようだ。




