そういう意味ではない
ミドナカル王国の王都に戻ることになった。
現状と今後について、キンと話すためだ。
それにデーさんとホーさんが付いてくることになった。
「カーくんはどうするんだ? 付いてくるのか?」
「ふむ。どうしたものか……久し振りに町に戻ったし、シルバーとか色々と話しておきたいのも居るが……」
カーくんがチラチラと様子を窺うように、デーさんとホーさんを見る。
俺にも視線を向けてくる。
なんというか、こう――俺に姉たちを押し付けるような形になるのが申し訳ない……ここはやはり自分が付いていって壁となるべきか……しかし、姉たちが相手となると壁になれるかどうか……という感じに見えた。
……やれやれ。そこまで気を遣わなくてもいい。
俺はデーさんとホーさんの側まで行き、カーくんに向けて親指を立てる。
「大丈夫だ。俺たち、既に仲良しだからな」
気軽に話せる仲である。
俺の動きと言葉に合わせて、デーさんとホーさんも親指を立てた。
カーくんが驚きの表情を見せ――納得……いや、達観したような表情を浮かべる。
「ふっ。……愛を抱くのに時間は関係ない時があると聞くが、まさかこんな僅かな間で姉上たちを篭絡するとは……やるな、アルム。いや、義兄上と呼ぶべ」
カーくんは最後までは言えなかった。
デーさんが飛び蹴りをかまし、ホーさんがグーパンチを食らわせて、真竜ノ杖が上段からの振り下ろしを行い、そのままフルボッコし始める。
まあ、これに関しては、単にここで過ごしている内に仲良くなっただけなので、カーくんの自業自得というか早とちりなので仕方ない。
俺もとめはしなかった。
というか、なんで真竜ノ杖がそこに加わっているのかわからない。
勝手に動くようになった、ということだけはわかった。
とりあえず――。
「シーさんにもこの話を伝えておきたいから俺は行くけど、どうする?」
「カオスとはもう少し話し合う必要がある!」
「先に行ってもらえますか? 話し合いが終わり次第、私たちも向かいますので」
「わかった」
素直に頷きを返す。
迂闊に触れてはいけないというか、デーさんもホーさんも話し合いと言っているのに口よりも手や足の方が多く出ているのは指摘してはいけない。
俺が移動するからか、真竜ノ杖が戻ってくる。
本当に自由だな。ただ、俺の側に居るのが最優先という感じである。
「それじゃあ、先に行っている」
「い、いや、ア、アルムよ! わかっていない! わ、わかっていないぞ!」
「何がわかって……あっ! そうだ! 確かに、わかっていなかった!」
「そう! そうなのだ!」
「シーさんってどこに居るんだ?」
「違う! そうではなく――いや、我が案内をしてや」
「竜王の家は、この家から少し進んだ先にあるでかい家だ」
「行けばわかりますよ」
「わかった。教えてくれてありがとう。じゃ」
「いやいや、待て待て! 我が案内してやるから! だから、我も共に行くというか連れていってく」
「まだ余裕があるようだな、カオス」
「今日はまだ始まったばかりですからね、カオス」
今日は長そうだ……カーくんは。
いや、気絶すれば短いのか?
ともかく、頑張って――とカーくんに向かって応援するように握り拳を作って見せてから、この場をあとにした。
―――
教えられた通り、でかい家に向かう。
他よりも大きいので直ぐにわかった――というより、距離的には本当にご近所さんで、何よりでかい家の前にシーさんが既に居たからだ。
誰かと話しているようである。
人……いや、魔物だろうか。
人型で、頭部の左右から魚のヒレのようなモノが飛び出し、手には大きな宝石が先端に付いた杖を持ち、赤とピンクの派手なローブを見に纏っている。性別は男性だろうか。
あとは、なんというか穏やかさのようなモノがあった。
シーさんと仲良く話しているからだろうか。
そう思いながら見ていると、シーさんが俺に気付く。
「おお、アルム!」
手を上げて応える。
すると、シーさんと話していた男性も俺に気付き、一礼してきたので俺も一礼を返す。
「アルム? では、彼が?」
「ああ、そうだ」
シーさんと話していた男性はどうやら俺のことを知っているようで、シーさんに確認を取ったあと、俺の方に来て握手を求めるように手を差し出してきた。
「初めまして。パネェです。あなたのことは前々から聞いています」
「は、はあ、どうも。アルムです」
握手を交わし……ん? パネェ? ………………パネェって!
「……もしかして、魔物を転職させるっていう、パネェ神官?」
「はい。その通りです。この町に来た魔物たちの中にあなたに助けられたという者が複数居まして、その者たちからあなたのことは聞いていたのです」
スライムとか、竜の町で会った魔物たちからかな。
というか、本当にそういう名前だったのか。
「アルム殿には心から感謝しているのです」
「は? 感謝?」
「魔物だからと討伐せずに、会話を試みてくれたことです。だからこそ、ここに来ることができた魔物が居るのですから」
「は、はあ」
いや、俺から試みたことはないというか、言葉を話していたから話しかけてみたというか……。
「是非、今後も迷える子羊が居たのなら、私のことをお伝えしていただければと思います。新たな可能性を開いてみせますので」
なんか思っていたような可能性ではないと思うが……竜の町で再び出会った魔物たちは誰もが感謝してようだし……まあ、いいか。
「わかった。まあ、そういうのに出会えたら、となるが」
「それで充分でございます。あなたに、我が神のご加護があらんことを」
……その、パネェ神官のいう我が神はどんな神でどういう加護なのだろうか。
喋る魔物と出会える加護、とか?
……これまでのことを考えると、もう必要ないと思うのだが。
わからないが、とりあえず、何も反応しないと不味い気がしたので、なんとも言えない笑みだけ浮かべておいた。




