戦いが終わって一皮むけたということで
竜の町を襲っていた魔物大発生の魔物たちは一掃された――が、念のために確認をしておく。
まず、竜の町の門は竜たちだけではなく、竜の町の有志によって守られており、ここを突破できた魔物は居ないと証言を得る。
「まあ、余裕よ。俺らが勝てない存在なんて、暴力的なデビルさまと」
「冷徹なホーリーさまくらいのもんだ――て」
「「そこにおりゅう~!」」
緑竜と青竜は、それぞれデーさんとホーさんによってどこかに連れていかれた。
まあ、聞くべきことは聞き終わっていたので問題ない。
「いや、問題あるから!」
「助けてくれ! でないと」
「「俺たち、死りゅう~!」」
芸を変えたのだろうか。
ただ、大丈夫だ。お前たちみたいなのはしぶといから。
でも今は、竜の町を守った存在でもある。
だから、視界から居なくなるまで見送っておいた。
そのあと、竜たちは町内部の様子を見に行くが、俺は作り出した土壁部分に破損している箇所がないかどうか見に行く。
大丈夫そうだな、と思っていると、アブさんが来た。
「戻って来たようだな。無事なようで何よ……り?」
アブさんは俺ではなく真竜ノ杖を見ているような気がするので、土壁を確認しつつ、アブさんに竜山の神殿に向かってからのことを話す。
「……そうか。奪われてしまったか。だが、それですべての決着が着いた訳ではない。邪神が復活するというのなら倒せばいいだけだ。そうだろう?」
アブさんの言葉に頷きを返す。
真竜ノ杖も頷くように前後に少し動いた。
「……それにしても、確かに以前とは違う、別物の杖になったな。それこそ、神杖よりも強力な力を感じる」
アブさんが真竜ノ杖に触れようとするが、障壁が張られて弾かれた。
触れさせる気はない、という意思表示だろう。
「……アルム?」
「意思みたいなのがあるようだから、言動に気を付けた方がいいぞ」
「そういうのは先に言ってくれ」
こちらの話は終わったので、今度はアブさんの話を聞く。
魔物大発生の魔物を即死魔法である程度倒すと、あとは様子を窺い、危険そうならいつでも介入できるように身構えていたそうだが、数頭とはいえ竜たちが居たので問題なかったそうだ。
そんな風に話している間に一周し終わる。
ところどころ棘に突き刺さった魔物は時々見かけたが、土壁自体が破壊されているような場所はなかった。
「……なあ、アブさん。土壁はこのままでいいのだろうか?」
「……どうだろうな? あった方が安全なのは間違いないのだが……自然に崩れないのか?」
「それこそ、どうだろうな。元々周囲の土を利用してというのもあるが、それよりも漸く来た出番ということで割と張り切って作ったし……いや、消そうと思えば消せるけれど」
う~ん、と悩む俺とアブさん。
とりあえず、竜の町の門の前に竜が居たので聞いてみた。
……このままでいいそうだ。町の安全が向上しているし、特に問題なし。このままだと何かあった時に面倒なのでは? と思ったが、そもそもここは竜の町。門の部分は空いているし、飛べる竜が居るので大丈夫だそうだ。
という訳で残すことになった。
……まあ、崩れる時になったら崩れるだろう……いつか。
竜の町の中へと入る。
賑わっている――というよりは、無事に生き延びたことを喜んでいる、といったところか。
というのも、負傷者は居ても死者は居なかったのだ。竜の町の方はそもそもかなり安全であったし、竜山の神殿の方も倒されていた竜は居たが生きていた。さすがは竜というか、その生命力は凄まじいというべきか。
そうして、喜びに沸く竜の町の中を進んでいく。
時々、土壁のこととか、竜山の神殿でのこととか、本当に助かったと声をかけられる。
来て良かった、と思う。
そんな俺の足はデーさんとホーさんの家に向かっているのだが、ふと思う。
俺が今宿泊している部屋は、元々カーくんが戻ってきた時に使っている部屋である。
そして、今はカーくんが居る。
……まあ、言えば泊めてくれるとは思うのだが、家族が揃ったのだ。その邪魔はできない。
なので、別の宿屋――もしくは野宿でもいいか、と考える。
そのことをアブさんに相談すると――。
「うむ。確かに、どれくらいかはわからないが、家族が揃ったのだから、そこに立ち入るのは無粋というモノだ」
「そうだな……そういえば、アブさんはあの家に一度も泊まっていなかったよな? これを機に一泊くらいしてみるのはどうだ?」
サッと顔を逸らされた。
その気はないようだ。
「とりあえず、アブさんは竜の町を見て回ったんだよな? なら、オススメの宿屋とかなかったか?」
俺も滞在中に出歩いてはいたが、それっぽいのを見かけなかったのだ。
なので、見て回っていた分、俺よりも竜の町が詳しいアブさんに聞いてみたのだが――。
「……そういえば、某も宿屋は見かけなかったな」
首を傾げられた。
え? もしかして、ない? いやいや、まさか。町なのにないとか……いや、待てよ。ここは竜の町。そもそも人が来ること自体稀というか、来るようなところではない。良くて、パネェ神官を求めてきた魔物くらいだから……宿屋営業しても成り立たないか。
「いや、でも、魔物が来てそのままここで生活を始めている訳だし、そうなるまでの一時的な宿泊場所はあるんじゃないか? そこを見つけてそこに寝泊まりすれば?」
「うむ! そうだ! その通りだ!」
「良し! じゃあ、早速」
探しに行こう――としたところで、カーくんが立ちはだかった。
「どこに行こうとしているのだ? ん? アルムは我と共に我の部屋に泊まればいいのだ。そうだろ? んん?」
拒否は許さない、といった感じだ。
俺はアブさんを見る。
「あっ、某はちょっと、そこらに用があるので――これにて失礼」
アブさんは逃げた。
そこらってどこらだよ。
俺は逃げられず、カーくんと共に宿泊場所へと向かった。




