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賢者巡礼  作者: ナハァト
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きっと幻想です

「グギャアアアアアッ! アアアアアッ!」


 裂き落とされた腕の痛みを吐き出すように、邪竜が大きな咆哮を上げる。

 煩過ぎて耳を塞ぎたくなるほどの大音量で――邪竜は咆哮を上げる大口をそのままカーくんの方に向けた。

 ――竜の息吹(ドラゴンブレス)だ。と思った瞬間、邪竜が竜の息吹(ドラゴンブレス)を放つ。

 直ぐさまカーくんも大口を開けて竜の息吹(ドラゴンブレス)を放った。

 邪竜の体格はカーくんよりも大きく、竜の息吹(ドラゴンブレス)もまた邪竜の放った方が大きい。

 ぶつかり合い、押し負ける――とはならず拮抗した、かと思えば、それは一瞬のことで、カーくんの竜の息吹(ドラゴンブレス)が邪竜の竜の息吹(ドラゴンブレス)を弾き飛ばしながら進んでいく。

 邪竜が威力を上げようと踏ん張るが――何も変わらない。

 留めることすらできずに、カーくんの竜の息吹(ドラゴンブレス)は突き進んで邪竜の竜の息吹(ドラゴンブレス)を貫通して空へと消えていく。

 あとに残ったのは、頭部が焼失した邪竜だけ。

 頭部がなくなった邪竜の体は力を失ったかのように地上へと落ちていく。

 あっという間に勝敗が決まる。

 家族に手を出された怒れる竜(カーくん)は強かった。それだけのこと。

 カーくんは落ちていった邪竜には目もくれず――。


「だ、大丈夫ですか! ホーリー姉上!」


「げほっ。けほっ。だ、大丈夫ですよ、カオス」


 解放されたホーさんを気遣っていた。


「「「――う、うう、うおおおおおっ!」」」


 邪竜と戦っていた竜たちから歓喜の雄叫びが上がる。

 いや、腐肉の竜(シーちゃん)と戦っている竜たちからも聞こえてきた。

 カーくんとホーさんの下へ、デーさんが向かう。


「カオス! 来るのが遅いぞ!」


「す、すみません、デビル姉上! その、こっちも色々と忙しくて、その……」


 カーくんに先ほどまでの怒りというか、勢いのようなモノは一切なくなっていた。

 というか、あんなカーくんは初めて見るのだが……家族だけに見せる表情ということか。

 ……頭が上がらないのは本当のようだ。

 そんなカーくんに向けて、デーさんは笑みを浮かべる。


「だが、よくぞ来てくれた! ホーリー姉さんを助けてくれた! さすが、私たちの自慢の弟だ!」


 喜びを示すように、デーさんがカーくんに抱き着く。

 ………………いや、それは別にいいというか微笑ましいのだが、でも、ヘッドロックされているように見えるのは気のせいだろうか。カーくんも、いや、ちょ、デビル姉上、い、痛いのですが――と言わんばかりに解放して欲しいとデーさんの腕を叩いて伝えようとしているのだが……疲れているのかな。考えてみれば、竜の町での戦いからずっと戦い続けている。疲れていてもおかしくない。その疲れからくる幻想だろう。そう思うことにした。決して、巻き込まれて俺もヘッドロックされるのが怖いという訳ではない。まあ、竜状態でヘッドロックをされると、俺の頭ではなく体全体がプチッといってしまいそうだが。


「アルムッ!」


 突然、カーくんが俺の名を発した。

 視線を向ければ、カーくんは別のところを見ている。

 その視線を追えば――黒ローブたちの近くの空に黒い円ができていた。


「いや、ちょっ! この隙に、とか、それはさすがにずるくないか! ここは、隙を見せたな、と襲いかかってくるところだろう!」


 そして、そのままカーくんにやられれば楽だったのに。

 まあ、そう口にしつつ属性魔法球を一斉に動かして、黒ローブたちに向かわせているのだが……こちらが一手遅い。

 黒ローブたちは次々と黒い円の中に入っていく。

 最後は神杖を持つ黒ローブ。


「さすがにこの状況でそんなことはしないよ。こんなんでも命は大事だからね。だから、キミという存在をどうにか殺したいところだけど、逃走を選択させてもらうよ。でも、こんなところで邪竜が倒されるとは思っていなかったけれど、こっちも神剣を手に入れたし、痛み分けってことでいいよね?」


「いや、よくねえよ!」


 神杖を持つ黒ローブが黒い円の中に消えていく。

 俺の言葉が聞こえたかどうかはわからないが、とりあえず属性魔法球は黒い円が消えるまでの間、黒い円の中に放り込み続けておいた。

 通り過ぎてはいないので、転移先に飛んでいったと思うというか、そうであって欲しい。

 それで倒せたとかどうかはわからないが、嫌がらせはできた――と思っておこう。

 しかし、これで邪神を封印から解き放つための神器が、黒ローブたちの手元にすべて揃ったことになる。

 こうなってくると、前回は封印で留まってしまったようだが、今回は邪神を倒すことを前提として動いた方がいいかもしれない。

 無のグラノさんの記憶で確認した限りでは……多分大丈夫だと思う。

 そう思えるからか、黒ローブたちを逃がしてもそこまで悔しくはなか……いや、やっぱり悔しいわ。

 ただ、やり返せる機会はまたくると思うので、その時にやり返そうと思う。

 そのためには、と黒ローブたちと邪神に対して考え始めようとしたが――。


「グギャアアアアアッ!」


 こちらに向けての敵意を感じさせる咆哮で――そういえば、この場にはまだ腐肉の竜(シーちゃん)が残っていたな、と思い出す。

 急いで向かう。

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