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賢者巡礼  作者: ナハァト
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思い当たることがたくさんあると、絞り込むのが難しい

 ――数カ月が経った。

 見えないところで「スキル至上主義」が燻っている可能性はあるが、フォーマンス王国の表面上は落ち着きが戻ってきたように見える。

 なので、そろそろ俺もやるべきこと――無のグラノさんたちから魔力と記憶を受け継いだ代わりにお願いされたことをしに行くべきか? と考えていると、テレイルから呼び出された。

 ………………。

 ………………。

 大丈夫。森は全焼させていない。

 少しハゲた部分はあるが、森は広大だし許容範囲なはず。

 となると、移動の最中で見つけたゴブリンの集落に、ゼブライエン辺境伯とシュライク男爵を投入したことだろうか?

 いや、あれは俺としては上空から火属性魔法を放って終わらせようとしたのだが、念のためにと相談しに戻ったら二人に見つかって、事情を話すと案内しろと言ってきたからであって……そのあとも集落を見つけたらまずは自分たちに報告しろと強制してきたのだから、俺は悪くない。

 ………………。

 ………………。

 いや、待てよ。

 何も俺のこととは限らないのでは?

 テレイルは既に即位式も終えて、正式にこのフォーマンス王国の王となっている。

 気軽に接することができて、相手にもそれが許されているのは俺だけだ。

 要は、テレイルが気を許せる者は非常に少ない。

 だからこそ、俺に色々と聞いてきて欲しいのでは?

 たとえば……そう。王城勤めのメイドにどう思われているのかどうか。

 どこかの馬鹿な貴族家みたいに、実際は嫌われているのでは? と気にしているのかもしれない。

 だが、そういうことなら安心して欲しい。

 テレイルは人気だ。

 いや、大人気だ。

 婚約者も居ない王さまというだけではなく、容姿はいいし、性格も決めるべきところはしっかりと決めつつ、普段は温厚である。

 メイドだからと変なこともしないし、玉の輿だと狙われまくっているのが実情だが……当のテレイルはそれに気付いていないようだ。

 いや、あえて……かもしれないが、少なくとも大人気なのは間違いない。

 ……これは、決まったな。

 テレイルに会って最初に言うべきことが。


     ―――


 フォーマンス王国・王城・執務室。


「安心しろ、テレイル。お前は大人気だから」


 開口一番にそう言う。

 これでテレイルの中の不安は解消されるだろう。


「……いや、何をどう考えてそう思ったのかわからないけれど、とりあえずそうではない、と答えておこうかな」


「え? 違う?」


「間違いなく」


 どうやら違ったようだ。

 となると、本当に呼ばれた理由がわからない。

 室内には執事やメイドが居たが、テレイルは人払いをし、俺だけが残ると執務室の中にあるソファーに座るように勧められたので座り、テーブルを挟んだ対面にテレイルが座る。


「それだと、なんで俺を呼び出した?」


 テレイルはソファーに背中を預け、腹の前で手を組み、どこか威厳を感じさせるような姿勢で口を開く。


「最近、森の中に一部だけど焼失したような場所があるという報告が挙げられているんだけど?」


「………………」


 大丈夫。証拠はない。

 こういう時はポーカーフェイスだ。

 シードさんから受けた執事教育の中に「執事足る者、そう簡単に表情を崩してはいけない」というのがある。

 今こそ実戦する時。


「他にも、書類仕事をしていたはずのゼブライエン辺境伯とシュライク男爵が姿を消し、少しすると戻っているんだけど、その時は妙にツヤツヤとしているって。何か知らないかな?」


「………………」


 もうバレていそうな気もするが、今は沈黙が正解だ。


「まっ、その辺りはよくはないけど追及はしないよ。正直に言えば、国として少し落ち着きはしたけれど、余力はないからね。優先度がそこまで高くなければ、人員を割けないんだよ」


「なるほど。確かにそうだな」


 頷く。

「スキル至上主義」にどっぷり浸かっている者を使う訳にもいかないし、今はまだ色々と制限というか、限りがあるのは間違いない。


「ん? となると、俺を呼び出したのは? 何か用件があるんだろう?」


 改めて尋ねると、テレイルは真面目な表情を浮かべる。

 これから先のことは、迂闊に漏らす訳にはいかないということが、自然と理解できた。


「アルムは憶えているかな? 数カ月前――それこそ、反乱が終わった頃に、相談したいことがあると言っていたのを」


「ん? ……ああ、そういえば、そんなことを言っていたな。それが呼び出した理由か? 相談したことがある、と」


 その通りだ、とテレイルが頷くと、ノック音が室内に響く。


「来たか」


 人払いしているからか、テレイルが自ら扉を開けにいく。

 口振りから、誰が来たのかわかっているようだ。

 テレイルが招いたのは――妹・リノファだった。


「お久し振りです」


「ああ、久し振り」


 挨拶されたので返す。

 リノファとも、テレイル同様これまで通りに接している。


「それで、ここに私が呼ばれた理由は、やはり……」


「ああ、アルムに相談しようと思ってね。リノファのスキルについて」


 そこで思い出す。

 そういえば、リノファに呪いがかけられた理由は、そのスキルにあると言っていたことを。


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