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賢者巡礼  作者: ナハァト
539/614

来ました

 竜杖の怪しい挙動のまま、どうにか地上まで下りることができた。

 とりあえず、一安心。

 でも、再度飛ぼうとしたが……駄目だった。

 僅かに浮くくらいはできるのだが、それだけ。無理矢理飛ぼうとすることもできるかもしれないが、その場合は怪しい挙動どころか暴走してどこに飛んでいくのかわからないのでやめておく。

 安全第一。竜杖に無理をさせるのは良くない。……直るのかな、竜杖。ラビンさんならできると信じよう。素材が必要なら、直ぐ集める。

 まあ、それもこれもこの場が終わればの話。

 それに、悪いことばかりではないというか、神剣を持った黒ローブは俺を追って来なかった。

 消耗している黒ローブたちの下へ戻り……どうやらそのままこの場から離脱するつもりのようだ――が、そうはさせない。


「逃がすかよ! 俺をそのまま地上に落としたことを後悔させてやる!」


 少しだけ時間を使い、さらに魔力を体中に漲らせる。

 まずは逃がさずにこの場に留めさせて、より消耗させるために属性魔法球を三桁ほど……もっといけるっぽいし、何より先ほどスッパスパと神剣に斬られまくったので、さらに魔力密度を上げて、数も増やして……四桁に届くんじゃないかな? と思うくらいの数を作り出す。

 黒ローブたちに視線を向ければ、向こうもこっちを見ているように見えた。

 ……まあ、さすがにこの数だと目立つし、仕方ない。

 黒ローブたちは属性魔法球の数を見て、目が点になっているような、そんな雰囲気である。


「……やはり危険だと感じていた通りか。逃走ではなく追撃を選ぶべきだった」


 神剣を持つ黒ローブがそう言って神剣を構える。

 身体強化魔法で全体が強化されているので聞こえたのだろう。

 神盾を持つ黒ローブと神靴を履く黒ローブも、消耗しているのだが構える。

 神杖を持つ黒ローブはまだ構えを取らない。ただ、それは回復を優先しているといった感じだ。それはおそらくこの場から離脱――黒い円を描いての転移をするためだろう。

 その前に倒す――と属性魔法球を一斉に放つ。

 神杖を持つ黒ローブ以外が対応するが……まあ、さすがに四桁近い数だとすべては捌き切れないようだ。

 少しずつだがダメージを与えていく。

 ただ、神杖を持つ黒ローブがいつ転移できるまで回復するかわからない。

 神器を奪いたいところだが、相手が空中である以上、倒す方が早いだろう。

 なので、追加で属性魔法球を作りつつ、別の超高威力の魔法で――。


「グガハハハハハッ!」


 不快な笑い声が耳に届く。

 聞こえてきた方に視線を向ければ、邪竜がホーさんの首を掴み、デーさんや竜たちに見せびらかしている……いや、人質――竜質か?

 ともかく、ホーさんを盾にして、手出しさせないようにしていた。


「……少し、勝ちを焦って、しまいました」


 ホーさんからそんな声が漏れる。


「ホーリー姉さん!」


 デーさんが悲痛な声で叫ぶ。

 俺と黒ローブたち、シーさんと竜たちと腐肉の竜(シーちゃん)、とどこでも戦闘中である状況を打破するべく、急ぎ過ぎたのかもしれない。

 デーさんと竜たちは身動きが取れず、シーさんと竜たちはその余裕がない。

 そして、ホーさんの首を掴む邪竜はニタニタとした笑みを浮かべ、いつでも殺せると少し締め付ける。


「ぐ、ぐぅ……」


 ホーさんから苦悶の声が漏れる。

 このままでは不味い! と属性魔法球の一部を、邪竜の死角から向かわせ――。


「動かないでくれますか? いえ、この場合は攻撃をやめないと、邪竜にあの白い竜を殺せと命じてしまいますが、どうしますか?」


 属性魔法球の動きをピタッととめる。

 俺に向かって言っている、とわかったからだ。

 デーさん、シーさん、竜たちなら、そんなことは言わない。

 なら、誰がそれを言ったのかは、考えるまでもなかった。

 黒ローブたち――神杖を持つ黒ローブを見る。


「そうそう。そうして大人しくしてくれればいいのです」


 形勢は逆転した、とか思っていそうな雰囲気だ。

 しまった。と思う。

 聞こえなかった振りをして、そのまま攻撃しておけば良かったかもしれない。

 実際のところ、本当に命令できるのか、邪竜が言うことを聞くのかわからないのだから。

 けれど、邪竜を召喚したのは神杖を持つ黒ローブであるし、命令できた時に失われるのはホーさんの命なのだから、まず動きをとめて正解だと思う。


「さて、回復するまで待ってもらうべきか、それとも、絶好の機会だし殺しておくべきか。ただ、殺すとなると反撃に出る恐れもあるし……」


 神杖を持つ黒ローブが悩み出す。

 属性魔法球は未だ出ているままだし、反撃しようと思えばいつでも反撃できるとわかっているからこそ、悩んでいるのだろう。

 他の黒ローブたちは乱れている呼吸を整えようとしている。

 ただ、このままだと神杖を持つ黒ローブが回復して逃げられてしまうのも事実。

 邪竜の方に向かわせていた属性魔法球の方優先して動くべきか、と考えた時――気付く。

 知っているからこそ、それがそうだと感じることができた。

 こちらに向けて近付いてきている。

 俺は自然と勝利を確信したような笑みを浮かべた。


「もう終わったな、これ。ああ、こっちではなく、そっちがな」


「は? 一体何を言って」


 神杖を持つ黒ローブがそう口にすると、それはこの場に飛来する。


「このクソ竜が! 姉上に何してくれとんじゃ! おお!」


 そう叫びながら、ホーさんの首を掴む邪竜の腕を、カーくんが前足を手刀のように振り下ろして、そのまま裂き落とした。

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