動く前に動かれる
狙いはわからない。わからないが、神杖を持つ黒ローブが中心となっていることはわかった。
何しろ、俺に対して攻めて来ず、神杖を両手で強く握っているだけ。
まるで、何かを溜めているような……そんな感じ。まあ、溜めているのは魔力だろうけど。
ほんのりと可視化している……いや、してない……やっぱりしている? といった感じである。
しっかりと確認できれば確かめられるのだが――それは難しい。
神盾を持つ黒ローブと神靴を履く黒ローブが、邪魔はさせないとこれまで以上に攻めに守りと動いていた。
とりあえず、確かなのは神杖を持つ黒ローブが、時間のかかる何かをしようとしていて、それが黒ローブたちにとってこの状況を打破するかもしれないモノ、だということだ。
「……だが、それをやらせるとでも?」
神杖を持つ黒ローブが溜めに入ったことで黒ローブたちの手数が減り、俺も攻勢に出られるようになった。
ただ、それで神杖を持つ黒ローブをどうこうしようにも、まずはそれを邪魔する神盾を持つ黒ローブと神靴を履く黒ローブをどうにかしないといけない。
火属性魔法の火球――かなり大きい火球を、一度に数十出現させて、神杖を持つ黒ローブに向けて一斉に放つ。
当然、神盾を持つ黒ローブと神靴を履く黒ローブが防ぐ。
それこそ、一発も通さないと神盾で防ぎ、神靴で蹴り飛ばしている。
まあ、それくらいは想定内。
かなり大きな火球をさらに出現させて、絶え間なく放つ。
さらに別の魔法も織り交ぜて放つが、思いのほか神盾を持つ黒ローブと神靴を履く黒ローブが頑張る。
それでも絶え間なくということもあって、かなり消耗させることはできていると思う。
「くっ。いつまで続く」
「ちょっと、あいつの魔力量、どうなってんのよ!」
神盾を持つ黒ローブと神靴を履く黒ローブから愚痴のようなモノが漏れ聞こえた。
ん? 俺の魔力量か? まだまだ放てるというか、放った直後に自然回復もしているから、正直まったく減っていないが、何か? いつまでも放ち続けられるが、何か?
だが、このままいつまで防ぎ続けられるかな? と試す訳にはいかない。
より強力な魔法で一気に押し切ろうとした――ところで、神杖を持つ黒ローブが先に動く。
神杖を持つ黒ローブが神杖を掲げると、溜めに溜めたモノが神杖の先から抜け出ていくように上昇して、その先で黒く輝く巨大な魔法陣を描いていく。
黒く輝く巨大な魔法陣は直ぐに描き切られ、一度軽く光ってそこから出現したのは――黒い手。
えっと右手か? 二の腕くらいまで出てきているが、全体が黒い。あと、大きい。人くらいの大きさであれば纏めて数人は掴めるほどに大きい。
「なんだ、それは?」
あと、異様な雰囲気を振り撒いている。
俺だけではなく、デーさん、ホーさん、シーさん、竜たちの意識が、出現した巨大な黒い手に向けられるくらいに。
無視できない、と言わんばかりだ。
「これは……神杖を媒介にして封印を緩め、魔力……生命力も使い……それでも一部だけ……自分たちの主……である……邪神さまの手を……呼び出したのさ……」
神盾を持つ黒ローブと神靴を履く黒ローブに支えられながら、神杖を持つ黒ローブが息も絶え絶えながらそう口にする。
黒ローブで実際の姿は見えないので雰囲気しかわからないが、かなり消耗しているようだ。
呼吸も大きく荒れていて、魔力だけではなく体力も大きく消耗して、それこそ命の危機に瀕しているような……いや、というか――。
「は?」
邪神の手? 何言ってんだ、こいつ――と思った瞬間、巨大な黒い手が動き、俺に襲いかかってきた。
身体強化魔法は継続したままだが、それでもどうにか反応できる、といった速度で迫る。
「くっ!」
直撃はマズいと即座に上昇して回避する――が、巨大な黒い手は速度を緩めずに切り返し、俺を払い飛ばす。
俺の体に当たる前に竜杖に当たったことでそれが緩衝となったが、それでも体に痛みが走る。
ただ、体の痛みよりも耳にビシリ、と妙に嫌な音が届いていたことの方が気になった。
まだやられてはいないと痛みは我慢して直ぐに体勢を立て直し、視線を竜杖に向ければ、装飾の竜にヒビが走っていた。
守ってくれたのだろうか。
「よくも、やってくれたな!」
感覚的に火属性魔法ではなく光属性魔法がいいような気がした。
「『白輝 呪縛を断ち切り 戒めを解き放つ 眩く白き輝刃 光斬剣』」
細切れにしてやる――と巨大な光り輝く剣を数十生み出し、一気に放つ。
数十の巨大な光り輝く剣は激流のようにうねりながら進んでいき、巨大な黒い手を斬り刻み、突き刺さっていく――が、ダメージは入っていないようだ。
斬り刻まれた部分は直ぐに治り、突き刺さったのも内側から押されるように抜け落ちていく。
通じていないという訳ではないが、意に介していないといった感じである。
いや、多少の煩わしさは与えることができたのか、巨大な黒い手が再度俺に向かってきた。
迎え撃とうとして――竜杖にヒビが入っていることが脳裏を過ぎり、やめる。
巨大な黒い手から一旦距離を取った。
また攻撃を受けたら、今度は竜杖が砕けるかもしれない。
それを恐れた。
そんな俺の行動を見て――いや、目がある訳ではないから感じて、だろうか。
巨大な黒い手は俺を追うのをやめて、腕部分を伸ばしていきながらシーさんに迫る。
球体魔法陣を砕くつもりか。
「シーさん!」
注目していたため、シーさんは迫る巨大な黒い手から逃れようとした――。
(聞こえていないだろうが、避けな!)
ところで、シーちゃんが叫ぶ。
腐肉の竜がシーさんに体当たりして、そのまま巨大な黒い手の方に押し飛ばした。
「しまっ――」
シーさんは直ぐに体勢を立て直そうとするが、その前に巨大な黒い手が届き、球体魔法陣を叩き壊す。




