思わず口を挟む
真っ先に攻めてきたのは、神靴を履く黒ローブ。
先ほどよりも速度を上げてきて、さらに空中なのに地上を駆けるような足を動かして突っ込んでくる。
空気でも蹴って速度を上げているのだろうか?
まあ、それでも見えているんだが。
ただ突っ込んでくるだけなので、少しずれて回避する――と、神靴を履く黒ローブは折れ曲がるようにして軌道を変え、さらに折れ曲がり、また折れ曲がるといった行動を繰り返す。
俺に動きを読ませない――惑わせようとでもしているのだろうか。
そうして神靴を履く黒ローブの動きを追っていると、神盾を持つ黒ローブが突っ込んでくる。
タイミングを合わせてきて、反対側からは神靴を履く黒ローブが蹴りを放ってきた。
両手を左右に突き出し、神盾を受けとめ、神靴の蹴り足を掴んでとめる。
そこに、神杖を持つ黒ローブが魔法を放ってきた。
俺が放つほどではないが、それなりに大きな火球が飛んでくる。
神盾を掴み――。
「……よっ、と」
体を回転させながら、タイミング良く神盾ごと神盾を持つ黒ローブを突き飛ばし、ついでに神靴を履く黒ローブはそのあとを追うように狙って勢い良く放り投げた。
それなりに大きな火球の前に晒された神盾を持つ黒ローブは、神盾でそれなりに大きな火球を防ぐ――が、俺が放り投げた神靴を履く黒ローブとぶつかる。
別に狙った訳ではないのだが、頭と頭がぶつかって……痛そうだ。
「てめえ! 俺にぶつかってんじゃねえよ! 避けろよ!」
「ああ! そっちこそ、防ぐんならちゃんと防げ! それと石頭過ぎなんだよ! 寧ろ、私の方が痛かったんだからな!」
神盾を持つ黒ローブと神靴を履く黒ローブが口喧嘩を始めた。
その様子を少し離れた位置で見ている神杖を持つ黒ローブは、「はあ」とため息を吐いている。
もちろん、敵であることに変わりはないのだが、思わず口を挟んでしまう。
「まあ、なんというか、そっちは数が少ないんだし、仲間同士で喧嘩をするのはやめておいた方がいいと思うぞ」
「「この状況を作ったお前が言うな!」」
理不尽な。
少し返り討ちにしただけだというのに。
「絶対殺す!」
「私たちにこんなことをした報いを与えてあげるよ!」
「自分一人でやった方がいい気がしてきたよ」
黒ローブたちが一斉に襲いかかってきたので、再びやり合い始める。
といっても、状況は特に変わらない。
黒ローブたちの攻撃を防ぐ、回避する、あるいは受け流しつつ、反撃の隙を窺って、機を見て魔法を放つといった感じだろうか。
反撃の魔法は偶に放っているのだが、今のところは神盾によって上手く防がれている。
一応、神杖の障壁は壊せると思う威力を込めているのだが……神盾というだけあって中々頑丈なようだ。
ただ……神杖を持つ黒ローブといい、それと同格であろう神盾を持つ黒ローブと神靴を履く黒ローブといい……この程度だろうか?
いや、元々黒ローブたちはシーさんと戦っていたようだし、それである程度消耗はしているだろう。
けれど、神杖を持つ黒ローブと戦った時と違い、三人が相手でも俺は余裕を持って戦えている。
鍛錬を経て、それだけ強くなったということだろうか? 無のグラノさんの記憶と魔力を受け継いだことも関係あるだろうか?
……まあ、明確な答えは出ないが、悪いことではないのは確かだ。
そうして黒ローブたちと攻防を繰り広げていると――。
「グ、グゥオオッ!」
突然、大きな声が響く。
それは喜びではなく、痛みに耐えるような、そんな声。
自然と視線が向けられる。
声を上げたのは、邪竜。
脇腹と思われる箇所から黒煙が上がり、そこを前足で上から押さえている。
肉のような部分も見えなくはない。
大きな傷を負ったのは間違いないようで、邪竜と戦っていた竜たちから歓喜の雄叫びが上がる。
その中にはデーさんが居て、竜たちはデーさんに声をかけているように見えた。
おそらく、デーさんの攻撃によって、邪竜は大きな傷を負ったのだろう。
「何を喜んでいるのですか? まだ終わっていませんよ」
ニッコリ笑顔のホーさんの言葉でデーさんを含めた竜たちは静かになった。
いや、そうなんだけど……うん。間違ってはいないよ。傷は負わせたけれど、邪竜はまだ倒れていないし、寧ろ殺意が上がったと、憎々しげにデーさんを見ている。まるで、これからが本番だとでも言わんばかりに。だから、喜ぶのならきちんと倒したあと、と言いたいんだと思う。そう思っておこう。
ただ、パッと見た限りだと、戦っている竜たちの数はあまり減っていないようなので、もしかすると邪竜の方はこのまま優勢でいけるかもしれない。
シーちゃんの方は……シーさんが上手く抑え込んでいるように見える。
ただ、シーさんに戸惑った様子は見えないので、多分声は聞こえていない。
竜王なのだから、そこは聞こえていて欲しかったというか、聞こえる仲間が欲しかった。
まあ、相性云々らしいから仕方ない。
ともかく、黒ローブたちも俺が抑え込んでいるようなモノだし、優勢なのはこちらで間違いない。
「どうやら、このまま決着といきそうだな。ここは潔く、負けを認めたらどうだ?」
黒ローブたちにそう声をかけてみるが、殺意というか戦意の類は一切消えない。
寧ろ、何かしらの覚悟が固まったような、そんな雰囲気がある。
「……竜たちだけなら、どうにかできたんだけどね。……もしかして、町じゃなく、こっちの方に竜たちがたくさん居たのか、キミが何かしたからかな?」
「だったら?」
「キミという存在をあの時しっかりと死んだことを確認――いや、死んでいなかったんだから、きちんとトドメを刺しておけば良かったよ」
そう言って、神杖を持つ黒ローブが肩をすくめる。
「でもまあ、確かに面倒ではあったけれど、でも結果は変わらないかな……自分たちがここに来た目的は必ず果たす」
「この状況で、まだ果たせるとでも?」
体中にさらに魔力を漲らせる。
神杖を持つ黒ローブは、ニヤリと笑ったような気がした。
「もちろん」
神杖を持つ黒ローブが神杖を構えた。
合わせて、神盾を持つ黒ローブと神靴を履く黒ローブも同じように構えを取る。
諦めない――というよりは、何かしらの狙いがあるように見えた。




