表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者巡礼  作者: ナハァト
535/614

少しだけ満足した

 神杖(かみつえ)を持つ黒ローブを殴る。

 まあ、魔力制御能力が向上したことによって、瞬間的でも使える魔力量は増加しているため、その分――身体強化魔法での威力も上がっていた。

 結果として、神杖を持つ黒ローブは殴り飛ばされ、地上へと向かって勢いよく落ちていく。

 このまま一気に倒してやる、とそのあとを追おうとするが――。


「お前、なんだ!」


 声質で女性だとわかる、怒気を含ませた声が俺に飛んできた。

 同時に、妙に気になる靴を履いた黒ローブが迫ってくる。

 同じ黒ローブ――神杖を持つ黒ローブの仲間……となると、気になる靴というのは神靴(かみくつ)か。

 神靴を履いた黒ローブが一直線に向かってくる――かと思いきや、途中で下へ。空中ということもあって、そのまま下を潜って俺の背中側へと回ってから襲いかかってくる。

 怒気を含ませていたが、思いのほか冷静なのかもしれない。

 それと、その行動速度は思っていた以上に速かった。普通であれば、目にもとまらぬ速さといったところだろう。それが神靴の力の一つといったところか。

 ……まあ、その一連の動きがまるっと全部見えているんだけどな。

 でも、これはそうだと意図した訳ではない。

 身体強化魔法を体全体にかけていたので、それで視力も強化されていたからである。ついでに思考も――なので、余裕で対処できる。

 いや、違うな。これは、それだけ俺の魔法制御能力が向上したことで、莫大な魔力量をより上手く扱えるようになったということだ。

 神靴を履く黒ローブが、背後から俺を蹴ろうとしてくる。

 俺は竜杖の上に立ち、軽く飛び上がって神靴を履く黒ローブの蹴りを回避すると、今度は逆に神靴を履く黒ローブを蹴り飛ばして、竜杖の上に着地。

 そこに神盾(かみたて)を持つ黒ローブが、神盾を前面に出して体当たりしてくる――というのが見えていた。

 竜杖を軸にして一回転しながら神盾の体当たりを回避して、一回転し終わると神盾を持つ黒ローブの背中が見えたので、蹴り飛ばしておく。

 そこで、槌状の黒く輝く闇が下から迫ってきた。

 狙いはもちろん俺。


「その程度、もう俺には通用しないぞ!」


 魔力をさらに引き出し、右手に集める。

 可視化できるほどの濃密な魔力を纏った右手で、迫る槌状の黒く輝く闇を力強く殴ると――槌状の黒く輝く闇は砕け散った。

 砕け散っていく中で見えたのは、神杖を持つ黒ローブの姿。

 雰囲気に驚いているような気がしたので、ドヤ顔を見せておく。

 ふふん! あの頃の俺とは違うのだよ!

 どうやら、神杖を持つ黒ローブは地上までは落ちなかったようで、空中に留まっていた。

 それは他の二人――神靴を履く黒ローブと神盾を持つ黒ローブも。

 それぞれから憎々しげな視線が向けられている気がする。

 けれど、俺としては一つ気になることがあって……黒ローブたちはどうやって空中に留まっているのだろうか?

 無のグラノさんの記憶の中でも空に留まる、飛べるといったことを普通にしていたようなので、そういう能力を持っている、あるいは装備でもしている、といったところかもしれない。

 まあ、邪神関係者――寧ろ、邪神の僕のようなモノだから、ある程度のことはできるようになっていてもおかしくはないか。

 黒ローブたちが俺の居る高さまでゆっくりと上がってくる。

 その間に他のところの様子をチラッと確認。

 デーさんとホーさん、多くの竜たちによる邪竜との戦いは、特に大きな動きはなさそうだ。

 今のところは互角といった感じだが、何かが起これば一気に決着が着きそうな気がする。

 ただ、それがどのような形の決着かはわからない。

 腐肉の竜(ドラゴンゾンビ)――ではなく、シーちゃんの方は、俺が抜けた代わりに状況を見て判断したのか、シーさんが向かって対応している。

 シーちゃんとシーさん……ややこしい。

 どっちが「シー」と呼ばれることになるのか、その決着を着けるつもりなのかもしれない――はさすがに考え過ぎか。


「まさか生きているとはね。驚きだよ」


「驚いてもらえたようで何より。お前に一発入れられて、こっちは少し満足した――いや、魔法を砕いた時も驚いていたから、より満足したかな」


 うんうん、と頷く。

 俺と同じ高さまで上がってきた神杖を持つ黒ローブは、どことなく苦笑いを浮かべているような気がする。

 そこに神靴を履く黒ローブと神盾を持つ黒ローブも同じ高さまで上がってきて、俺は黒ローブたちに囲まれたような形となった。

 つまり、一対三。

 数の上では黒ローブたちに分がある。

 だからだろうか。黒ローブたちの態度はどことなく強気なように見えた。


「確かに、見事な奇襲だったよ。まさか、て感じ。でも、奇襲は奇襲でしかない。もう通じないよ。だからこそ、それで自分たちを倒せず、こうして自分たちの前に姿を現わしたのは失敗だったね。せっかく生き残ったのなら逃げ隠れておけば良かったのに……殺してくれって言っているようなモノだよ」


「それはどうだろうな? やれるモノならやってみろよ。以前とは違う結果になるだろうけど」


「随分と余裕そうだね」


「余裕そうというか、実際余裕だからな」


「ふうん……どこからその自信が出てくるのやら……もう忘れちゃった? 自分に負けちゃったことを」


「そっちこそ忘れたか? つい先ほど、俺に殴られたことを」


「………………」


「………………」


 少しだけ沈黙が流れたあと――黒ローブたちとの戦いを始める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ